第35話 『白銀の獅子』とミラ・ファンタジア
『白銀の獅子』は拠点に集合していた。
部屋にはいつもの4人と、新メンバーの『動画編集者』がいる。
ゼルはソファーに座ったままソワソワしている。
それもその筈、今日はミラとのコラボの日だ。
『白銀の獅子』の拠点に、ミラが来る手筈となっていた。
「あと15分でミラが来るぞ」
今日はまず、この部屋でコラボ動画を撮影し、そのままルミノールの街を案内する予定となっている。
ルミノールの高級焼肉店を予約しており、食事をしながらここでもコラボ動画を撮影する予定だ。
1日のみだが、折角のミラとのコラボだ。
最低でも3本は動画を取らなければならない。
「おいゼル、結局ムビは不在だが・・・」
「あぁ、しょうがない。手筈通りに行くぞ」
ゴリは不安そうだが、ここまで来てビビっていても仕方がない。
まぁ、ミラと合流してしまえば、そのまま流れでどうとでもなるだろう。
「それにしても、ヘンリーさんの件、全然話題になりませんね・・・」
マリーが口を開く。
『白銀の獅子』の敗北は大きくニュースで報じられたものの、ヘンリーの一件は小さく報じられただけで、その後何の音沙汰もなかった。
冒険者ギルドに行っても、病気か何かで突然死したのか、と数人の冒険者に聞かれた程度だった。
何か大きな力で揉み消されているとしか思えなかった。
「どうやら『両面宿儺』の力は本物のようだな」
「憲兵に『両面宿儺』の話をしても、知らんぷりでしたもんね」
「絶対にヤバいわよあいつら・・・。二度と関わりたくないわ」
リゼが身震いする。
そのとき、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「来たぞ、ミラだ」
『白銀の獅子』に緊張が走る。
ゼルが扉を開ける。
「やぁやぁ『白銀の獅子』の皆の衆!」
扉の外には美少女が立っていた。
髪は鮮やかなグリーンとブルーが混ざり合った美しいロング。
瞳は大きく、エネルギッシュな輝きを持ち、カリスマ性が伝わってくる。
明るいネオンカラーを基調とした衣装を身に纏い、カジュアルながらも洗練されている。
登録者数1000万超えの『Mtuber』、ミラ・ファンタジアその人だ。
「ミラさん、ようこそ。お早い到着ですね」
「うむ!今日のコラボを楽しみにしててのう!」
「それは良かったです。どうぞ中へお入りください」
ミラの圧倒的なオーラに、ゼル以外の『白銀の獅子』メンバーは一瞬たじろぐ。
だが、ミラが気さくに話しかける。
「おぉー!本物のゴリだ!リゼにマリーもいるではないか!いつも動画で見ておるぞ!」
ミラに認知されていると知り、『白銀の獅子』メンバーは興奮する。
「お・・・俺も、ミラの動画は欠かさず見てます!」
「そうじゃったか!それはありがたいのう♪」
ゼルは一安心する。
早くも打ち解けた様子で、これならば心配無さそうだ。
「・・・おっ?あっちの見ない顔が・・・。ひょっとして、例の『動画編集者』か!?」
ミラがゼルに話しかける。
「そうです。彼がうちの『動画編集者』です」
「おぉー♪君がいつも一人で『白銀の獅子』の動画を制作しておるそうじゃな!大したもんじゃのう!」
話しかけられた新入りは、ビクビクしながら愛想笑いをする。
「・・・いいか?お前がいつも動画編集をしていることにするんだ」
「・・・そんな!?ミラにそんな嘘をつくなんて・・・!?」
「いいから。適当に話を合わせろ。どうせバレやしない。万が一バレたときは、俺がなんとかするから」
先日行われた、ゼルと新人『動画編集者』の会話だ。
新入りは困った顔をしていたが、ゼルは自信満々といった様子だった。
「はい!皆さんこんにちは『白銀の獅子』です!本日のゲストは・・・なんと!あの超大物、ミラ・ファンタジアです!」
「おはこんばんにちは!どうも、よろしくなのじゃー♪」
ソファーに『白銀の獅子』メンバーとミラが座る形で撮影が始まった。
終始和やかな様子で撮影が進んでいく。
「いやー、ミラさんが僕たちとコラボしてくれるなんて、本当に夢みたいです」
「いやいや!『白銀の獅子』の『動画編集者』に興味があってのう!ぜひとも話をしてみたくてやって来たのじゃ♪・・・お前さんも、こっちに来たらどうじゃ?カメラは固定されておるから大丈夫じゃろう♪」
ミラが新人に話しかける。
新人はギクリとして、恐る恐るゼルと目を合わせる。
ゼルも少し困惑したが、こっちに来るよう目で促した。
「あ・・・では、失礼します」
ミラが満面の笑みで迎える。
「お主、一人であの動画を作っておるのじゃろう!?本当に凄いのう!」
「あ、いえ・・・全然、それほどでも・・・」
「何を謙遜しておる!あのクオリティにあの投稿頻度、まさに天才じゃ!お主程の才能の持ち主は、恐らく世界中探してもおらんぞ!」
新人は冷や汗を流しながらゼルを見る。
予想以上に、ミラは『白銀の獅子』の動画を評価していたようだ。




