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第33話 ヒトリカラオケ

 ムビはイヤホンで最近流行りの曲を聴きながら街まで歩いた。


 いや〜やっぱりHIRUASOBIの『昼に駆ける』はいいなぁ〜。

 この曲調にカズノコちゃんの声が本当に丁度良いんだよな。

 あぁ〜次の曲は『ざっけんな』かぁ。

 曲がパンチ効いてるし、ドアさんの歌がめちゃくちゃ上手いんだよなぁ。

 姿を見せずに正体不明ってのがまたカッコいいよなぁ〜。


 ムビはカラオケ店へ入店する。


「いらっしゃいませ〜。会員カードはお持ちですか?」

「あっ、いえ、初めてで・・・」

「でしたらこちらに必要事項の記入をお願いします〜」


 若い女性店員が紙とペンを渡す。

 ムビは必要事項を記入し、会員カードを貰う。


「本日はどのコースにいたしますか?」

「え〜っと、フリータイムでお願いします」

「承知しました。202号室になります。朝6時までに退室となります」


 ムビはドリンクを注いで部屋に向かう。

 8つのカラオケボックスが密集しており、そのうちの1つがムビの部屋のようだ。


 うわぁ、満室だ。

 ていうか、声めっちゃ廊下に漏れてるじゃん・・・


 ムビは部屋に入る。

 お腹が空いていたので、とりあえずメニューを開く。

 唐揚げ定食とバケツポテトを注文する。


 皆楽しそうに歌ってるなぁ。


 ご飯を食べながらムビは思う。

 他7部屋からそれぞれ声が聞こえていた。

 特に両隣の部屋の声は廊下にいるとき以上に聞こえた。

 なんか皆でカラオケしてるみたいでちょっと楽しいかも。


 ムビはバケツポテトを食べ終わり、お腹いっぱいになった。


 よーし、そろそろ歌ってみるか。


 ムビは曲を入れてみる。

 イントロが流れ出す。


 うおー、一人なのにめっちゃ緊張する・・・!


 だが、声を出した途端、ムビは驚く。


 うわー!めっちゃ声が出る!凄い!これ本当に俺の声!?

 た・・・楽しいーーーー!


 ムビはどんどんノリノリで歌いだす。

 あっという間に1曲歌い終わった。


 いやー、声が出るとカラオケってこんなに楽しいんだなぁー♪

 ・・・あれ?


 ムビは異変に気付く。

 さっきまであんなに騒がしかったのに、シーンと水を打ったかのように静まり返っている。


 ・・・なんだろう、皆帰ったのかな?

 まぁいいか、とりあえず歌うぞー♪




 ルミノールのとある家にて、クローゼットの中で配信をしている女性がいた。


「はーい、それでは今日の配信終わりまーす。さようならー」


 配信を切った女性は、ふぅとため息をつく。


 いやー、今日も頑張ったなぁ。

 明日は久しぶりの休みだ。

 何しようかな。


 ショッピングも良いし、最近できたジェラートのお店も気になる。

 でも、なんかウズウズするものがある。


 そういえば最近、カラオケ行ってなかったな・・・。

 久しぶりに徹カラしちゃうか。


 女性は昔から行きつけのカラオケ店に行く。

 ちょっとボロいけど、安くてご飯やドリンクも美味しくて良心的なお店だ。


「203号室になりますー」


 ドリンクを注いで、階段で2階へ向かう。


 ・・・ん?


 2階へ着いて女性は異変に気付く。

 部屋は満室なのに、誰も歌っていないのだ。


 誰もいない・・・?

 このピークの時間帯に・・・?

 いや、でも空き室ならドアが開かれている筈だ。


 すると、とある一室からイントロが流れ始める。

 自分の隣の202号室だ。


 あぁ、やっぱり人いるよね。

 直後、歌声が聞こえる。


 なんだこれうまぁぁーーーーー!


 女性は急いで203号室に入る。

 部屋に入ると、より詳細に歌声が聞こえる。

 芯があるけど透き通った声。

 声量も技術も明らかに一般人のそれではない。

 なのにまるで初心者のように歌うことを楽しんでいて、それが歌声に乗って伝播する。


 なるほどねぇ、他の部屋が歌っていない理由はこれかぁ。

 隣の人が上手いと聞き役に回ってしまう現象だ。

 しかも隣だけでなく、8室全てとは・・・


 女性はニヤッと笑う。


 ふーん。

 私以外にこれができる人がいるなんてね。

 久しぶりに楽しいカラオケになりそうね。




 ムビは魔力回路を使いながら歌っていた。

 カラオケの音源と同時に『Mtube』上の原曲を脳内で再生する。


 こうするとうろ覚えの曲も、ガイドボーカル付きで歌えるなぁ。

 我ながら良い発見だ♪


 水をこまめに飲み、回復魔法も使って喉のケアも万全だ。

 まだまだ歌いたい曲が山程ある。


 今日はどこまでも歌うぞー♪


 ムビが歌い終わって次の曲を悩んでいると、隣の部屋からイントロが流れ始めた。


 あっ、誰か来たんだ。


 気にせず、曲を選択しようとしたら―――


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪♪


 ―――ええぇぇーーーーーー!!?

 うまあぁぁーーーーー!!?


『四星の絆』を完全に上回る上手さ。

 いや、上手いとかいうレベルじゃなかった。

 突然目の前にラスボスが降臨したような衝撃だ。

 歌声が全身を貫き、血流が何倍にも加速するような感覚。

 音程がどうとかテクニックがどうとか小手先の話ではなく、世界観に引き込まれる。

 それでいてテクニックも神レベルで上手い。


 ムビは歌いたい欲が完全に霧散し、ソファーに深く座って耳を傾けた。

 そのまま2曲、3曲・・・気付けば1時間、隣の人の歌を聞き続けた。


 信じられない・・・人間なのか、この上手さ・・・


 ふと、ムビの心にメラメラと闘志が湧き上がってきた。

 この人みたいに上手く歌ってみたい!

 ムビは曲を選んでまた歌い始めた。


 203号室では、女性は気持ちよく歌っていた。


 くぅー!

 この周りを黙らす感じがたまらねぇー!

 これがヒトカラの醍醐味だわ♪


 しかし、ふと不安になる。


 ・・・お隣さん、帰ってないよね?

 聞いてくれるのは嬉しいけど、あんまり静かだと帰ってないか不安だよ・・・


 曲が終わると、202号室から歌声が聞こえてきた。


 おっ、帰ってなかったか!

 良かった良かった♪

 ・・・何これ、私が今歌ってた曲じゃんw

 よっぽどこの歌好きだったのかなぁ〜?


 そこから2時間程、両部屋から歌声が聞こえ続けた。

 女性はぶっ通しで歌い続け、ムビは時折聞き役に回りながら歌い続ける。


 くそ〜!こんなんじゃ全然隣の人に届かない〜!

 もっと思いっきり歌わないと・・・!


 おぉ〜、だいぶ上手くなってきたじゃん♪

 いい声してるなぁ〜。

 でも、私を聞き役に回らせることはできないぞ〜?


 ・・・ダメだ!とても敵う気がしない・・・!

 ボイトレの先生に習ったこと全部試してみよう!


 ハイトーンとデスボもいけるのかぁ〜!

 でも、これくらいじゃ・・・


 ピタッと女性の動きが止まる。


 ・・・な・・・なんだこの可愛い声!?

 女!?

 女侍らせてたのか・・・!?

 いや、こんな長時間一人で歌い続けるとは考えられないし・・・。

 ということは・・・女声!?

 しかも私の好きなもふもふさんの曲じゃん!

 ヤバイ、めっちゃ刺さる!!


 ・・・なんだろう?

 隣の人全然歌わなくなっちゃった・・・?


 ムビは次の曲も女声で歌い始める。


 どっから声出してんの!?

 ぎゃー!

 いちいち選曲が刺さる!




 そのままムビは1時間程女声で歌い続けた。


 隣の人、帰っちゃったのかな?

 折角楽しかったのに・・・。


 すると、ムビが歌い終わると同時に隣の部屋からイントロが流れ出す。


 おお!

 まだ帰ってなかった!

 ・・・あれ?

 俺の歌い終わりに合わせて選曲って・・・

 もしかして、俺の歌聞いてくれてた!?

 こんなに上手い人が!?

 うわ嬉しいーーー!


 やられたよ・・・。

 私に聞いてますアピールを使わせるとは。

 大したもんだぜ。


 その後、交互に選曲し続ける。

 隣が歌っている間は自分が聞き役に、自分が歌っている間は隣が聞き役だ。

 歌い終わったらもう片方が曲を入れる、という暗黙のルールが成立していた。


 なんか203号室さんから凄いリスペクトされてる感じがする!

 ヒトリカラオケなのに全然一人じゃないみたい!


 ふっ・・・。

 202号室さんも、ヒトカラの楽しみ方分かってきたじゃないか・・・。

 ここまで来たら、朝まで付き合えよ?


 どうしよう・・・この人の声、モノマネ魔法でコピーにストックしたい・・・。

 隣の部屋に行くとか絶対ヤバイよね!?

 でも、絶対『四星の絆』の歌が上手くなると思う・・・。


 ふぅ・・・

 だいぶ歌ったなぁ。

 ドリンクおかわりしよっ。


 女性は部屋を出て、ドリンクを注ぎに行く。

 部屋に帰ってくると、ちょうど202号室から若い男の人が出てきてバッタリ鉢合わせた。


 おぉ・・・こんな人だったのか。

 なかなかイケメンじゃん。


 女性はスルーして203号室に入ろうとする。


「あの・・・すみません、ちょっとよろしいですか?」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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