第32話 モノマネ魔法
酒場でとある男達が話をしていた。
「今日の『四星の絆』と『白銀の獅子』の決闘、マジで凄かったな!」
「マジでビビったわ!なんだあの子達、とんでもなく強えぇじゃねぇか」
「それよりもビジュがつよつよだって!俺一目でファンになっちゃったわ!」
「そんなこたぁどうでもいい!俺の金がーーー!!」
「俺もだよ!……お前の口車に乗った俺がバカだったよ!」
大金を失った二人は悔しそうにうなだれる。
「それにしても、あの子達一気に注目度上がったよな」
「確か『Mtube』やってるんだってな?帰ったら見てみようかな」
「俺もう見たぞ!超可愛いし、最近の動画、マジで編集凄過ぎるぞ!チャンネル登録したわ!」
「俺なんかメンバーの個人チャンネルまで全部チャンネル登録したぜ!」
「俺なんか、ユリちゃんのメンシプ入っちゃった」
「まじかよ!お前、ユリちゃん派!?」
「いやぁ、あの元気いっぱいで親しみやすい感じが推せる……」
「いや、お前絶対乳だろ」
「まぁ、それもあるけど……」
「俺はシノちゃん派だな!あの太ももがたまらん!」
「いやいや、総合力ならサヨちゃんだって!」
「いやいやルリちゃんだって……」
翌日、ムビはルナプロの会議室にいた。
社長のレオンと上司のエヴリンもいる。
「いやー、ムビ君、昨日は信じられなかったよ!まさか『白銀の獅子』に勝っちゃうなんて!ニュースにも大々的に報じられていたね!」
「おかげで朝から取材依頼や案件の電話が止まらないわ!私、この決闘には反対だったけど、ムビ君の言葉を信じて良かったわ」
「あはは。昨日上げた動画も、再生数はもう100万回超えてました。チャンネル登録者数も一晩で1万人増えて、本格的なバズが始まってそうです」
「ということは、登録者数10万人突破!?もう銀盾!早いわね!この調子なら、20万人突破もそう遠く無さそうね!」
エヴリンが目を輝かせる。
「ムビ君、次の冒険はいつ行くつもりなのかな?」
「そうですね、今週末に『幽影鉱道』に行こうと思っています」
「なるほど、中級ダンジョンか……。危険な場所だが、まぁ、ムビ君がいれば大丈夫だろう!『四星の絆』は昨日の疲れもあるだろうし、それまで連休をとってくれ。ムビ君も今日、お疲れのところ来てもらったけど、明日からは休みでいいからね?よろしく頼むよ!」
会議が終わり、ムビはデスクに戻る。
『四星の絆』は昨日の決闘の疲れを取るため今日から休暇中だ。
制作課のタスクも先々の分までほぼ消化している。
ムビの動画編集タスクも全て消化している。
今日は一日歌の勉強をしてみようかな。
ムビはボイトレ室に移動した。
部屋にはムビと男性ボイストレーナーの二人だけだ。
「えーと、プロデューサーさんがボイスレッスンするんですか?」
「はい。自分も歌えるようになれば、『四星の絆』の歌にも何かアドバイスできるかと思いまして。
よろしくお願いします」
「はぁ……。まぁ、歌はそんなにいきなり上手くなるものじゃないので、気長に練習していきましょう」
ボイストレーナーが優しく微笑む。
「ではまず基本から。あーあーあーあーあー、はいどうぞ」
「ぁーぁーあーぁーあぁー」
うわぁ、人前で声出すの恥ずかしい。
しかも、全然声出ないし音程も外れまくってる。
「すみません、あんまり歌ったことがなくて……」
「最初はそんなものです。ムビさんは声質が良いですし、慣れたらすぐ上手くなりますよ」
「あの……ちょっと試したいことがあるんですけど、良いですか?」
「……?どうぞ?」
ムビはボイストレーナーに魔法をかける。
ボイストレーナーの体が薄く光に包まれる。
「このまま、発声のお手本をお願いします」
「わかりました。あーあーあーあーあー」
ムビが手を掲げると、トレーナーを包んでいた光が
ムビの全身を包んだ。
そのまま、ムビが発声を行う。
「あーあーあーあーあー」
「!?きゅ……急に上達しましたね!?」
「す……すごい、こんな感覚なんですね……。歌とダンスレッスン用に、体の動きをマネする魔法を開発してみました。上手くいったみたいで良かったです。ただ、ちょっと喉が痛いですね……」
「そ……そんな魔法が!?ひょっとしたら急に喉を開いたので、痛めたのかもしれません」
「なるほど……」
ムビは自分の喉に手を当てて、初級回復魔法を使用する。
「これでよし、治りました」
「か……回復魔法も使えるんですか……」
「はい、少ししか回復しませんが、喉の痛みくらいならバッチリ治るみたいです」
「なんか、のど飴みたいですね……」
「もう一回いきます。あーあーあーあーあー。うん。今度は魔法なしで。あーあーあーあーあー」
「魔法なしでも随分上手くなりましたね!」
「一度真似して感覚を掴むと、分かりやすいですね!ただ、まだ完璧ではないのでもうちょっとやってみます」
ムビは何度か魔法ありと魔法なしを繰り返し、10回目で殆ど同じように発声できるようになった。
「これはすごい!『四星の絆』のレッスンも、これでかなり捗りそうですね!」
「ですね。今日は僕しかいないので、僕のレッスンをよろしくお願いします」
「もちろんです!次に会う時に『四星の絆』がビックリするぐらい上達しちゃいましょう!」
その後、ムビは午前中のうちに基本の発声を一通りできるようになった。
午後からは、高音、低音、こぶし、ビブラート、ミックスボイス、ハイトーンボイス、デスボイスを驚異的な早さで習得した。
「ムビさん、本当に凄いです!もうボイトレなら『四星の絆』より上手いですよ!」
「ゲホッ、ゲホッ……!でも、ハイトーンとデスボイスは喉痛くなりますね……」
ムビが喉を回復させながら話す。
今日はもう何百回も回復魔法を使って、流石に疲れてきた。
「良かったら退社後一人カラオケでも行ってみてはいかがですか?きっと楽しいですよ」
「一人カラオケか……なんかちょっと恥ずかしいな」
「いえいえ!これだけ声が出るようになったら絶対楽しいですって!それに、曲に合わせて歌う練習も必要ですよ?」
「そうですね……分かりました!行ってみます」
時刻はもう17時で、あと30分程で定時だ。
「最後に、これを教えましょう。ムビさん男の子なので、これできたら面白いですよ」
言うと、ボイストレーナーは女の子のような声で発声する。
「えぇっ!?どこから声を出しているんですか!?」
「これが女声ってやつです♪やってみてください」
ムビは魔法でボイストレーナーの真似をする。
ムビの喉から可愛い女の子の声が出る。
「うわぁぁ!何か気持ち悪い!」
「うーむ……ムビ君の女声、いいな……」
「えっ、何です?」
「いえいえ、何でもありません!とりあえず、女声は歌うよりも話す方が難しいので、今日は話すところまで目標にやってみましょうか」
残りの時間で、ムビは女声での発声と、日常会話ができるようになった。
「OK!基礎トレーニングはほぼ完璧です!いやぁ、こんなに上達の早い人は初めてです!あとはカラオケで練習してください♪」
「はーい、行ってきまーす!」
こうしてムビは夜の街へ繰り出した。




