第30話 決闘のあと ~『白銀の獅子』陣営~
控室で、『白銀の獅子』陣営は大荒れだった。
「くそおぉぉぉっ!!どうなっているんだ!!?」
ゼルが椅子を蹴とばす。
「お・・・落ち着けよゼル・・・」
「落ち着いていられるか!・・・ああぁぁぁっ!!くそぉぉぉぉぉぉッ!!!」
これまで積み上げてきた無敗記録、連続KO記録が水の泡になった。
今後、世間の注目度は大いに変わるだろう。
チケットの売り上げやPPVの数にも影響が出る筈だ。
「どうなっているのよ・・・なんであいつらあんなに強いのよ・・・」
リゼは壁に寄りかかって俯いている。
いつもの生意気さや威勢の良さはどこにもない。
「・・・やはり、ムビさんがあちら側についた影響なのではないでしょうか・・・?」
マリーがゼルを見ながら、恐る恐る話す。
「あのやろう・・・今まで力を隠していやがった!MPの割り振りだと!?それだけで、あんなに圧倒される筈があるか!!!絶対にまだ力を隠してやがる!!!」
怒りのあまり、ゼルは椅子を地面に叩きつけ、椅子がバラバラになる。
「それじゃないのかな、敗因は」
部屋の隅で椅子に座っていたヘンリーが口を開く。
「・・・何だと?」
「君のその癇癪が敗因ではないのかと言ったんだ」
ヘンリーの言葉を聞いて、ゴリとマリーはゴクリと息を呑み込む。
ゼルがバラバラになった椅子の一部を掴み、ヘンリーに投げつけた。
椅子の一部は、ヘンリーのすぐ横の壁に当たり、大きな音が部屋に響いた。
ゼルはヘンリーの目の前まで歩いていき、
「・・・殺すぞ?」
血走った眼でヘンリーを見下ろした。
まるで今にも殴り掛かりそうな様子だが、ヘンリーは平然としている。
「あの少年・・・ムビ君といったかな?君があの少年をクビにしたのが事の発端だろう?なかなか物腰柔らかい好青年じゃないか。君があの子の力を見抜けず、こんな風に当たり散らしたのではないかね?」
ゼルはヘンリーの胸ぐらを掴んだ。
「殺すぞって言ってんだろ?」
ヘンリーはゼルの腕を掴んだ。
途端に、ゼルが苦悶の表情を浮かべる。
・・・こいつ・・・なんて力だ・・・!?
ヘンリーはそのままゼルを投げ飛ばし、ゼルは床に転がった。
「て・・・てめぇ・・・!」
「これが君の本当の強さだよ。私のレベルは65。Aランクパーティならばとても強いとは言えない。そんな私に、まるで太刀打ちできないのが君なんだ」
ゼルは何も言い返せない。
「私の見立てによると、『白銀の獅子』の実力は、Cランク上位か、良くてBランク下位といったところでしょう。これまでの『白銀の獅子』の活躍は、あのムビ君によって支えられていた。客観的に見てこれが結論でしょう」
「し・・・Cランクだと・・・」
ゼルが絶句する。
「皆さんのレベルは40の半ばでしょう?そのあたりが妥当だと思いますけどね」
言うと、ヘンリーは1枚の紙を放った。
紙は倒れているゼルの横にハラリと落ち、『退職届』と書かれていた。
「私はパーティを抜けさせていただきます。短い間でしたがお世話になりました。ではこれで」
ヘンリーは控室を出て行った。
「てめぇなんざこっちから願い下げだ!!」
ゼルはヘンリーが出て行った直後、控室の扉に向かって椅子の破片を投げつけた。
「あの・・・ゼルさん・・・」
マリーが恐る恐るゼルに話しかける。
「ミラとのコラボですが、どのようにいたしますか・・・?」
決闘に負けた以上、ムビを再加入する道は閉ざされた。
ムビなしで、ミラはコラボに応じてくれるだろうか?
「ミラとのコラボは必ずやる・・・。ムビがいなくてもだ」
当たり前だ。
こんなチャンスを逃す手はない。
なぁに、ムビがいなくても、『白銀の獅子』のメンバーは殆どが揃っているのだ。
きっとなんとかなるだろう。
「あの・・・今からでもムビさんに謝った方がいいのでは・・・?」
「・・・謝るだと?」
ゼルの声色が変わる。
「あいつが足を引っ張っていたのは事実だろう?確かに、妙な力は持っていたようだ。だが、所詮あいつは一人では何もできないザコだ。俺達がいたからこそ、『白銀の獅子』は成功したんだ。あいつが自身の力を、俺達に伝わるように説明しなかったのが悪い。この状況は全部、あいつのせいなんだ。なのに、謝るだと?謝るべきなのはあいつの方じゃないのか?」
パンパンに膨らんだ風船のように、ゼルの怒りは爆発寸前だった。
マリーはそれを感じ取り、それ以上の発言を控える。
「そ・・・そうですね」
「ともかく今はミラのことが最優先だ。とりあえず連絡して・・・」
コンコン
控室の扉を誰かがノックした。
「なんだ?入っていいぞ」
扉を開けて入ってきたのは『決闘協会』会長のキングだった。
「キ・・・キングさん・・・!?」
「やぁやぁ『白銀の獅子』諸君!君達に2000万賭けていたんだがな、持っていかれたよ!ワハハハハ!」
「す・・・すみません・・・次は必ず・・・」
「そう!次がある!君達は、決闘場の人気パーティなんだ!これからも頑張ってくれたまえ!」
キングは笑いながら、ゼルの肩を叩く。
「・・・ところで、非常に申し訳ないんだが、『白銀の獅子』のスポンサードを打ち切らせてもらおうと思ってな」
「えぇっ!?そんな!次こそは必ず勝ちますから・・・!」
「いやね、私も不本意ではあるのだよ。しかし、何分負け方が良くなかった。3階級もパーティランク差があって、しかも一方的に完封負けだ。今までの実績は華々しいが、流石に印象が悪過ぎる。なんでも、決闘場史上最大の下剋上ってことでギネスに載るらしいぞ」
ゼルは弁解の言葉を考えるが、何も思いつかない。
「それに、君達に大金を賭けていた者が大勢いてね・・・。私の友人の、政財界のトップ連中も大損こいたらしくてね。あんなやつら決闘場から追放しろって声も少なくないんだ。そんなことは流石にしないが、彼らのためにもスポンサードを続けるわけにはいかなくてな」
「そ・・・そうですか・・・」
「わっはっは!そう落ち込むな!たまには負けることもある!・・・だが、あまり負け続けるのは良くないぞ・・・?」
そう言って、キングは控室を出て行った。
「・・・くそっ・・・!全部あいつのせいだ!絶対許さねぇ・・・!」
「なぁ・・・ゼル・・・なんとか説得して、ミラとコラボする1日だけ協力要請しないか?」
「この決闘で『二度と関わるな』って約束させられたんだぞ!?どの面下げて頼むんだ!!?」
ゴリに向かってゼルが吠える。
「いやいや全く、全てあの少年のせいですな」
控室の隅から、声がした。




