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第3話 『四星の絆』

 ムビは少女達のあまりの可愛さに驚いた。

 4人全員、顔のどのパーツも整っていて、顔は小さく髪はサラサラで、瞳が煌いている。

 まだ一言も言葉を交わしていないのに、雰囲気で伝わる愛嬌や育ちの良さ、そして人間的オーラ。

 どう見ても一般人ではない。


「あのーすみません」

「はい?」


 ムビは自然と出てきた疑問を口にした。


「僕、冒険者の面談で来たのですが・・・部屋、間違えましたかね?」


 ムビは本当に疑問に思ったので口にしたのだが、それを聞いた少女達は笑った。


「あははっ、確かに私達そんな感じじゃないですよねぇー」

「いえ、間違えてませんよ。ムビさんですよね?お待ちしておりました。どうぞおかけください」

「は・・・はい、失礼します」


 部屋の中央に長机があり、ムビは4人の少女達の対面の席に座った。


 うわっ、まぶしい・・・


 近づくと更に可愛さが際立つ。

 この子達が『この世の可愛い子ランキング1位から4位』と言われても信じるだろう。

 なんだかいい匂いもする。

 ゴロツキに囲まれるのは覚悟していたけど、多分ゴロツキに囲まれるよりドキドキしている。


「何だと思いましたか?」


 一番右の白い髪の少女がニヤニヤして訪ねてきた。


「えっと、アイドルグループのオーディションかと・・・」

「あははっ、アイドルのオーディションならオジサン達が並んでますって」

「でもなかなか勘が鋭いですねー」

「ムビさん面白い方ですねぇ」


 やばい、声もめちゃくちゃ可愛い・・・。


 さっきから皆よく笑うし、この短時間で人の良さとパーティ全体の仲の良さが伝わってくる。

 この子達は天使か何かだろうか。


「さっそく始めましょう。ムビさん、わざわざお越しくださりありがとうございます。私達、『四星の絆』というパーティ名で活動しております。ランクはEで、活動歴は2年になります」


『四星の絆』・・・聞いたことある。

 確か、めちゃくちゃ可愛いメンバーで構成されたパーティがあるって話題になってた。

 低ランクパーティが話題になることなんて滅多にないから、よっぽど可愛いんだろうと思っていたけど、まさかこれ程とは。


「私がリーダーのシノと申します。前衛で盾持ちをしています」


 さっきから進行してくれている、右から二番目の女の子だ。

 長い黒髪をまっすぐに下した、意志の強さを感じさせる整った顔立ちをしている。

 華奢な体つきに見えるが、盾持ちをしているのか。


「はいっ!シノと一緒に前衛で剣士やってるユリですっ!よろしくお願いします♪」


 一番右の女の子が勢いよく手を挙げた。肩まで届く柔らかな白髪で、軽やかに外に跳ねる髪型が特徴的だ。人を安心させるような温かい笑顔を浮かべている。とても親しみやすい感じがする。


「じゃあ次、私かな?後衛で回復役しているルリです。よろしく☆」


 左から二番目の女の子だ。長い金髪がゆるやかにウェーブしており、光を浴びるたびに煌めくような美しさを持っている。表情は上品かつ自信に満ちており、微笑むと周囲を包み込むような魅力を感じさせる。


「後衛で攻撃魔法担当のサヨですわ。よろしくお願いしますわ」


 最後に一番左の女の子だ。髪は艶やかな黒で、腰まで届く長さのツインテールに結ばれている。どこかミステリアスで妖艶な雰囲気を感じる。


 全員の自己紹介が終わり、再びシノが話し始める。


「実は私達、冒険者と兼業でアイドルをしています。と言っても、元々本業はそちらなのですが」


 それを聞いてムビは納得する。

 というか、そうじゃないとむしろおかしいくらい全員可愛すぎる。


「珍しいですね」

「そうですよね、私達ちょっと訳があり、普通のアイドル活動だけではなかなか売れにくい事情がありまして・・・」

「というと?」

「私達、元々『エヴァンジェリン』グループに所属していたんです」

「えっ!『エヴァンジェリン』ってあの!?」


 アイドル事務所最大手『エヴァンジェリン』グループ。

 アイドル業界をほぼ独占しており、アイドルグループの売上のトップ10は全て『エヴァンジェリン』グループの所属だ。

 そして全アイドルグループのトップに君臨するのが、事務所名を冠する最強アイドルグループ『エヴァンジェリン』。


「まぁ、3年前にデビュー直前で辞めちゃったんですけどね」

「そうなんですか!?すごくもったいない気が・・・どうして辞めちゃったんですか?」

「えぇっと、それはですね・・・」


 シノが言い淀んでいると、ルリが代わりに発言した。


「あそこ、枕営業がひどいんですよ」

「えっ、枕営業って本当にあるんですか!?」


 噂ではアイドル業界に枕営業があるという話だったが、まさか本当だったとは。


「本当も何も、巷で流れてる噂の方が可愛いもんです。セクハラや枕営業が常態化していて、むしろデビューの登竜門になってるくらいです」

「それって大問題なんじゃ・・・」

「もちろんそうです。だけど、事務所の力で全部揉み消しちゃってるんですよね。あんまり実力がなくてもオジサン達に気に入られたら良いポジションに付けるし、逆に実力があっても拒否したら全然売り出して貰えないんです」


 なんというアイドル業界の闇・・・

 ・・・あれ?でもこの4人めちゃくちゃ可愛いし結構大変だったんじゃ・・・

 ムビの疑問に答えるかのように、サヨが口を開いた。


「私達、おじさま方に大人気だったのですよ?」

「こ・・・こらっ、サヨ!余計なこと言わないっ!」


 シノが赤面しながら慌ててサヨを諫めた。

 サヨはくすくすと楽しそうに笑っていた。

 シノが咳払いをして、話を続ける。


「ともかく、そういう状況が嫌で、私達は『エヴァンジェリン』グループを辞めて、現在の『ルナプロダクション』に入りました」

「なるほど、そうだったんですね」

「ただ、アイドル業界の仕事は殆どが『エヴァンジェリン』に抑えられて、他事務所は圧力でメディア出演をさせてもらえないんです。特に、元『エヴァンジェリン』だったアイドルへの圧力は徹底していて・・・」

「この間も、折角事務所が仕事取ってきてくれたのに、圧力かかって無くなっちゃったんだよ!」


 ユリが腕を組みながら頬を膨らませる。


「私達パフォーマンスには自信あるから、仕事さえ貰えたら絶対『エヴァンジェリン』に負けないのにーっ!」

「そこで、私達が目を付けたのが『Mtube』です」


 なるほど、『Mtube』なら事務所の圧力に関係なく活動できる。

 大して歌も上手くないトップ『Mtuber』がコンサートを開いてドームを満員に事例もあるし、登録者数が増えれば集客ができる筈だ。


「ただ、『Mtube』内でも『エヴァンジェリン』グループの力は強く、アイドル系で売り出すとグループのファンから大量の低評価やアンチコメントが殺到して、なかなか再生数が伸びにくいんです」

「『エヴァンジェリン』グループの業者って話もあるけどね」


 ルリが付け加える。


「なので、皆で話し合って、『Mtube』の最大の人気コンテンツ『冒険者』関連の動画で挑戦することにしたんです。幸いにも、皆、騎士や魔法使いの家系で、ある程度戦闘はできたので」


 なるほど、皆育ちが良いと思っていたけど、貴族の家系なのか。

 それなら納得だ。

 しかし、こんなに可愛いのに戦闘もできるって凄いな・・・。


「そうそう、皆でHランクから頑張ってさー、楽しかったよねー」

「駆け出しの頃から 『Mtube』に投稿し続けて、今現在登録者数は4万人程です。個人チャンネルもそれぞれ開設していますが、それぞれ大体1万人といったところです」


 ということは、2年でメインチャンネル4万人、サブチャンネル1万人ということか。一般的にはかなりの成功と言っていい部類だ。

 ただ、彼女たちの目標からすると全然足りないのだろう。

 有名なアイドルグループなら数十万から数百万は登録者がいる。


「低ランク帯で動画を出しているチャンネルが殆ど無かったので、差別化を図れるんじゃないかと思ったのですが、なかなかそう甘くはなかったみたいで・・・」


 シノが頭を掻きながら苦笑する。


「ちょっと質問しても良いですか」

「はい、どうぞ」

「初めの冒険から動画撮影されていたみたいですが、動画編集はどのようにしていたのですか?」

「はい、それは自分達で編集していました」

「自分達で!?」


 動画編集は大変な作業だ。

 編集に魔力を使うし、魔力が無ければ魔石を使用することになる。

 そもそも時間がかなり掛かる。


「もう本当に大変でしたよーっ!本業の活動やレッスンの合間に詰め込んで、睡眠時間どんどん削られるし!」

「冒険者活動のための修行もありますしね」

「事務所の『動画編集者』もタスクがパンパンですしね」

「延々と文字入れ作業して何度発狂したことか・・・」

「魔力使い過ぎて翌日のレッスン体調悪かったりねー」


 自分が『動画編集者』だからこそ、彼女たちの苦労が痛いほど分かる。

 恐らく休む暇なんか無かった筈だ。


「これからもっと上を目指すためには、レッスンや修行に時間をもっと割く必要があると思ったんです。そこで、『動画編集者』をパーティに加えて、動画編集の作業をお任せしようと皆で決めて、こうしてムビさんにお会いすることになりました」

「なるほどですね」

「ちなみに、私達はまだEランクパーティなので、ギルドの報酬ではムビさんに相応な報酬をお支払いすることができません。そこで、ムビさんには『ルナプロダクション』のスタッフとして所属していただき、報酬を支払わせていただこうと思っています」


 なるほど、冒険者パーティとしてではなく、あくまで事務所として彼女達を支援するということか。

 それなら確かに俺に戦闘能力が無くても問題ないだろう。

 求められているのは、あくまで動画編集スキルのみということか。

 正直、俺にとってはかなりの好待遇だ。


「ちなみに、その場合は、ムビさんには私たちのプロデューサーになっていただくことになります」

「えっ!?プロデューサーですか!!?」


 ムビは思わず大きな声を出した。


「僕、プロデューサーのお仕事なんて何も分かりませんよ?とてもそんな大役・・・」

「いえいえ、ムビさんのお仕事はあくまで私たちの撮影と動画編集なので、そこまで気にされなくて大丈夫です。ただ、動画の企画などはお知恵を貸していただけると助かります」

「でもそんな大役・・・多分、僕よりももっと適任の方がいると思います・・・」

「いえ。私たちはムビさんが良いんです」


 えっ、とムビが声を出す。

 4人の少女達が、暖かい笑顔でこちらを見ている。


「実は私達、『白銀の獅子』の古参ファンなんです」

「えっ、そうなんですか!?」

「そうなんです。『四星の絆』の動画を作るとき、参考になるものが無くて・・・。唯一参考になりそうな、低ランク帯の動画を投稿していたのが『白銀の獅子』だったんです」

「私なんて登録者数2万人の頃から見てるよーっ!」

「あら、私なんて3桁の頃からのファンですのよ」

「3桁!?それは凄すぎる!」

「『白銀の獅子』の動画、いつも楽しくて、ワクワクして、ときどきジーンとしたりして・・・。私達もいつか、『白銀の獅子』みたいに輝けるようになりたいなぁって、つらいときも元気が出て頑張れたんです」

「自分で編集するようになって思ったんだよね。『白銀の獅子』の動画、1秒1秒に視聴者を楽しませようって想いが詰まってるって。真似しようと思ったんだけど、神編集過ぎてとても真似できなかったけど」

「だから私達、ムビさんのこと信頼してるんです。きっと私たちのこと、『白銀の獅子』みたいに素敵に輝かせてくれるって」


 ムビは目頭が熱くなった。

 生身の人間に自分の動画を褒められたのは生まれて初めてだ。

 例えゴロツキだったとしても、こんなことを言われたら胸打たれていたに違いない。


「ぜひムビさんに私達のプロデューサーになって欲しいんです。どうかお願いできないでしょうか」


 ムビは色んなことを考えた。

 自分にプロデューサーなんて務まるのだろうか。

 でも今度は、今度こそは、自分の動画を好きだと言ってくれる人達と一緒に頑張ってみたい。

 色んな困難があるかもしれないけれど、全力で頑張ってみよう。


「プロデューサーなんて大袈裟ですが・・・僕で良ければ、できる限り頑張らせていただきます」


 ムビが了承すると、少女達の顔がパーッと輝いた。


「ありがとうございます!ムビさん、これからよろしくお願いします!」

「よーし、そうと決まればこのまま打ち上げ&歓迎会だね!」


 ユリが腕まくりをしながら言った。


「えっ、今からですか!?」

「そうそう!いったん解散して着替えて、『箒星』行こう!18時50分に街の時計台集合で♪」

「ムビさんの気が変わらないうちに引き入れないとですからね♪」

「ルリっ!ムビさんが聞いてたら意味ないでしょうがっ!」


 会議室は笑い声に包まれ賑わいだした。


「ムビさん、急なのですが、この後のご予定大丈夫ですか?」

「は・・・はい、大丈夫ですけど・・・」

「よし、じゃあ決まりだね!うちらこの部屋片しとくから、ムビさんは先に帰ってて♪」

「あの・・・分かりました。本日はどうも、ありがとうございました」

「また後でね~♪」


 ペコっと頭を下げて、ムビは部屋を後にした。


「大変なことになったな・・・」


 思いがけないことの連続で少し疲れたが、ムビの足取りは不思議と軽かった。

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