第29話 決闘のあと ~『四星の絆』陣営~
『四星の絆』は控室にて喜びを爆発させていた。
「やったーーーーー!!勝ったーーーーー!!!」
「私達アイドルでいられるーーーーー!!!」
ユリとルリが手をつないで飛び跳ねる。
「信じられない……『白銀の獅子』に決闘で勝つなんて……」
シノは笑顔を浮かべていたが、体の震えが止まらなかった。
控室の扉が開き、ムビが入ってきた。
「皆さん、お疲れさまでした」
ムビがニコッと笑った。
「ムビくーーーーん!!!勝ったよーーーーー!!!」
「全部、ムビさんの作戦通りでしたね!」
「見事でしたわ、ムビさん」
「あのー……」
ルリが申し訳なさそうな声を出す。
「実は私、作戦あんまり理解してなかったんだけど、もう一回何があったか説明してもらえる?」
「それで本番に臨んでたの!?」
「うう……!いや、どう動くべきは分かってたんだけど、なんでそうなるかは分かってなくて」
「あはは……分かりました。それじゃあもう一回おさらいしますね」
ムビは笑顔で説明を始める。
「まず、僕のスキル『エンパワーメント』についてです。『対象Aから対象Bにステータスを分け与える』能力で、今までは皆さんに僕のステータスやMPなどを割り振っていました。ここまでは大丈夫ですね?」
「うん、そうだったよね」
ルリが腕を組みながら目を皿のようにして聞いている。
「それで、今回『四星の絆』との共闘では初出しだったのですが、対象Aは自分でなくてもいいんです。つまり、あのフィールドにいる誰もが、対象Aになり、対象Bに選ぶことができたんです。ここまで大丈夫ですか?」
「う……うん、ギリ付いていけてる……」
ルリが難しい顔をしながら返答する。
「それを前提に、試合で起きたことを説明します。まず、『白銀の獅子』は『殴られ屋』から必ずスタートします。ゴリが11戦目のとき初めてやったら大バズリして、それ以降は8戦連続『殴られ屋』からスタートしています。まして僕達は格下に見られているので、必ず『殴られ屋』から始まると思っていました」
ルリがふむふむと頷く。
「ここが、ゴリを倒す絶好のチャンスです。スキルを発動して、ゴリの全ステータスの4分の3を全てシノに割り振りました。元々のシノのステータスも考えると、約四倍のパワー差です。いくら『金剛体』があるとはいえ、油断している状態ではとてもシノの攻撃に耐えられません。ここでゴリを落とせると踏んでいました」
「ふむふむ……全ステータスを丸ごと振り分けるのはダメだったの?」
「それだと、ゴリが死にますからね。ゴリが死なないようにしておきました」
『四星の絆』から笑いが起こる。
「で、問題はここからです。まずはマリーを狙う必要があります。放っておくとゴリを回復されるし、回復役が早々に退場してくれたら、相手は立て直しの手段が無くなりますからね。想定では、ゴリ撃破と同時に、両陣営の魔法の打ち合いになるつもりだったので、昨日はそこからのパターンをいくつか想定して皆さんにお伝えしました」
「そうそう!色々頭に詰め込んだから、頭こんらががっちゃったんだよね」
ルリは苦笑いする。
「そして今日蓋を開けてみると、リゼもマリーも呪文の詠唱すらしていなかったので、こちらが一方的に魔法を撃って主導権を握ることができました。ここまで油断することは今までなかったので、良い意味で想定外でした。このとき、マリーの魔法攻撃力ステータスを丸ごとサヨさんに、サヨさんが魔法を撃った直後はルリさんに振りなおしました。」
「リゼじゃなくて、マリーを対象Aにしたのは何で?」
「確かにリゼの方が魔法攻撃力は高いのですが、マリーを選択すると、万が一ゴリの回復が成功したときに都合が良いので。回復魔法は魔法攻撃力で回復量が決まるので、マリーの魔法攻撃力を奪っておくと、ゴリが全然回復できなくなります。あと、分断しやすいようにマリーの素早さも下げておきたかったので、それも狙いでした」
ふむふむとルリは頷く。
「そして、サヨさんとルリさんの魔法で『白銀の獅子』の分断に成功します。ユリさんとシノさんがしっかりマリーを狙える状態になりました。ここでマリーの全ステータスの4分の3を、半分ずつユリさんとシノさんに割り振り、合体技も決まってマリーを速やかに退場させることができました」
「そのとき、対象Aにゼルとかゴリも含めて、攻撃力を割り振った方がよかったんじゃない?」
「対象Aは複数指定できないんです。対象Bは複数指定できるのですが……。それから、気を失っていたり戦闘不能の相手は、対象Aにも対象Bにも指定することができないんです。なので、倒してしまったゴリは指定できません。で、ゼルを対象Aにすると、マリーにデバフがかからないのでダメージ量が減っちゃうんですよね。要は、【ゼルの攻撃力+ユリさん、シノさんの攻撃力】と【マリーの素の防御力】よりも、【マリーの攻撃力4分の3+ユリさん、シノさんの攻撃力】と【マリーの防御力4分の1】の方がダメージ効率が良いんです」
頭がこんがらがってきたが、30秒程時間をかけてルリはなんとか飲み込んだ。
「これで4対2に、しかも分断が成功しているという圧倒的有利な状況になりました。昨日皆さんにお伝えした通り、速やかに1対1と3対1の状況を作っていただきました」
「なんかそのときさー、解説の人やたら批判してたよね。ユリは防御に回るべきで、他3人は攻撃するべきだとか。私その時めっちゃ焦って」
「確かに、一般的なセオリーはその通りです。ですが、元々のステータスは相手が圧倒的に上なので、1対3でも本当は全然有利じゃないんですよね。なので、3人の方は守勢に回っていただきました。それにリゼ側も、ゴリとマリーがあっという間にやられた後なので、警戒して迂闊に攻めることはできません。こちらが守勢に回れば、付き合ってくれると思っていました」
「そうそう。あのときバフが全然かかっていなくて、もしリゼが強気に出てきたらやられちゃうから、ヒヤヒヤしてたわ」
「一応、念のためゼルの素早さと魔法防御力を3人には割り振っていたんですけどね。でも、リゼが強気に出たら危なかったですね。なので、ユリさんに早目に決着をつけていただいて3人の援護に回っていただく作戦でいきました。これなら最悪、3人がダウンしても、最終的にユリさんとリゼの一騎打ちになって詰みですからね。ゼルの攻撃・防御の4分の3をユリさんに割り振って、速やかにゼルを倒していただきました。あとは、リゼのステータスを皆さんに割り振って、勝利という感じです」
ルリは今の説明で納得したようだった。
「しかし、とんでもないスキルですわね。『白銀の獅子』のときも、このスキルをご使用に?」
サヨがムビに質問をする。
「そうですね。3回目の決闘のときにこういう使い方ができるって気づいて、そこからは色々研究しながらずっと使ってましたね。ゴリの『殴られ屋』のときも、攻撃している相手のステータスをゴリに割り振っていました」
「マジでチートだよ……。ムビ君、1人で最強なんじゃない?」
ルリが引き気味にムビを見る。
「いや、それがそうじゃないんですよ。このスキル、発動条件があったこと覚えていますか?」
「確か、①名前が分かる②姿形が分かる③親近感を持つ程度の情報を得る、でしたっけ?」
「そうです。例えば、見ず知らずの冒険者や盗賊と戦闘になったとします。①が分からないので、スキルの対象に選ぶことができないんですよ。魔物も人間の呼称ではダメなので、対象外になるんです」
「なるほど……つまり普段は、身内内でステータスを振り分けることしかできないわけですね」
「そうなんです。だからダンジョンでは、ゼルの攻撃時にゴリの攻撃力を割り振ったり、リゼの攻撃時にマリーの魔法攻撃力を割り振ったり……という使い方をしていました」
「それでも十分すごいですが……」
「いやぁ、せいぜい瞬間的に2倍増強が限界なので、付与魔術師が全員にステータス2倍の付与魔術をかける方がよっぽど強いですよ」
ムビが頭を掻きながら苦笑する。
「でも、決闘では最強なのではなくて?」
「そうですね……決闘は相手の名前や素性が公開されるので、使い放題ですね……最強かは分かりませんが」
「「「「いや、最強でしょ!!!!」」」」
『四星の絆』全員がツッコむ。
そのとき、コンコンと控室のドアがノックされる。
「失礼、お邪魔します」
羽振りのよさそうな50歳ぐらいの男性が二人入ってきた。
「『四星の絆』の皆さんだね?私は、『決闘協会』会長のキングだ」
「私は、ホシメディアホールディングス社長のケインと申します」
「えぇーーーっ!!??」
二人とも、一般人にも認知されている政財界の超大物だ。
「今日は本当に素晴らしい戦いだった!正直、『白銀の獅子』に賭けていたんだが、見事に持っていかれたよ!ワハハハ!」
「は……はぁ……」
「もう、オジサン、私達に賭けないからだよ?♪」
ユリの距離感に皆一瞬凍り付いた。
「いや、まったくだ!次回からは『四星の絆』に賭けさせていただくよ!ワッハッハッハ!実は折り入って相談があるのだが、君達、アイドルをしているのだろう?ぜひ『決闘協会』にスポンサードさせてもらえないかね?」
「えぇっ!!?良いんですか!?」
「もちろんだとも!君達は強いだけでなく、非常に爽やかだ!きっと素晴らしい広告塔になってくれるだろう!」
ケインも話始める。
「うちのコマーシャルでぜひ起用させていただきたいと思いましてね。これから依頼がたくさん来るかもしれませんが、よろしく頼みますよ?」
「本当にありがとうございます!よろしくお願いします!」
「ああ、それから、『決闘協会』から今回の君達への報酬についてだ。今回は勝者が総取りのルールだったから、これくらいの額になる。受け取ってくれたまえ」
キングは小切手をユリに渡す。
『四星の絆』は小切手に書かれている額を見て驚愕した。
「—――!に……2億円!?」
「ははは、君達ならこれからもっとたくさん稼ぐことができるさ♪ではこれで」
キングとケインは控室を出て行った。
「凄いよーーー!2億円て!普通の人の生涯年収分じゃん!」
「やばいってこれ!分け前どうする?どうする??」
「まぁ、半分は事務所に持っていかれますけど、それを5等分しても1人2000万円……」
「あっ、僕の分は大丈夫です!皆さんで分けてください」
「何を言ってるんですかムビさん!ムビさんがいなかったら勝てなかったんですよ!?ムビさんが9割でも誰も文句は……」
「あ……いえ……実は……」
ムビの様子がおかしい。
「先日、僕の口座にお給料が振り込まれまして……で、口座に入っていたお金をほぼ全部、今回ブックメーカーで『四星の絆』に賭けたんですよね……」
『四星の絆』に戦慄が走る。
「え……確かうちのオッズって30倍……だったよね……?」
「0が足りてない……300倍だよ……」
「……それで、一体いくら返って来たの……?」
ムビが下を向いて、申し訳なさそうに答える。
「15億」
数秒間、控室の時が止まった。
「……よし!今日は全額ムビ君の驕りね!」
「……帝国ホテルすぐに予約するわ!フルコースで!」
「え……えぇっ!?」
ムビが突っ立っている間に、決闘のとき並の見事な連携で、あっという間に3次会まで予約された。




