第27話 決闘3
—――1時間前、『白銀の獅子』の控室にて。
「へへへ……上手く決闘にこぎつけたな」
「ああ。正直断られて中止になれば俺達も何らかの批判を受けるリスクがあったが、ミラと良好な関係を築くためだ。これくらいのリスクは取るさ」
「やっとあいつらぶっ殺せるわね、楽しみー♪思いっきりやっちゃっていい?」
「まぁ待て、いつも通りゴリの『殴られ屋』をやってからだ」
『白銀の獅子』には楽観ムードが流れていた。
そんな中、マリーが口を開く。
「ムビさんが向こうにいますが、大丈夫でしょうか」
少し不安そうな口調だが、ゼルは一笑する。
「問題無いだろう。MP消費量を建て替えたところで、あいつらは所詮レベル15。俺達とのレベル差は3倍だ。どんな技や魔法を放とうと、俺達の通常攻撃にも遠く及ばないだろう」
「まぁ所詮あんな奴、肝心なところでは役に立たない無能ってことね!!」
「その通りだな。再加入したらその辺りを徹底的に教育しないとな」
「俺はあの可愛い子ちゃん達と仲良くできるのが楽しみだぜー♪」
ゴリが鼻の下を伸ばす。
ゼルも上機嫌に笑って同調する。
「まぁあの子達も、一緒に冒険すれば嫌でも俺たちの凄さに気付くだろ。俺に惚れなきゃ良いけどな♪」
「ったく、この女たらしが……」
リゼがため息をつく。
「さぁ、試合開始です!おーっと、まずは『四星の絆』の前衛二人が距離を詰める!」
試合開始と共に、ユリとシノが素早く前に出る。
その後方で、ルリとサヨが呪文の詠唱を始める。
「一方『白銀の獅子』は……あーっと、何だこれはーッ!!?」
『白銀の獅子』はゴリがゆっくりと前進すると、腰に手を当てて無防備に突っ立った。
他の3人は呪文も唱えず、後方でニヤニヤしている。
「これは……始まりますねー!オカダさん!」
「えぇ、『白銀の獅子』の決闘開始時のパフォーマンスですね」
「通称『殴られ屋』!ゴリがスキル『金剛体』を活かした自慢の耐久力で、15秒相手にタコ殴りさせて全て受けきる!最後に『効いてないよー?』とばかりにアピールするまでがお決まりです!」
「このシーンの切り抜きだけで100万回再生を超えますからね。お客さんも大喜びだし、まさにエンターテイナーですね」
「未だかつて、ゴリが膝を着いたことはない!『四星の絆』はゴリの耐久力に驚愕することでしょう!」
「1ダメージでも与えられるか見物ですねぇ」
ゴリが殴ってみろよと言わんばかりにアピールする。
シノが盾を背中にからい、素手でゴリに接近する。
「あーっとシノ選手、素手でゴリを殴るつもりだーッ!」
「盾を使ってもビクともしないのに……素手で殴ったら逆に手が折れますよ」
オカダはやれやれといった様子で首を振る。
シノが間合いに入り、ゴリの腹部に向かって拳を振る。
ゴリはニヤニヤしながらその様子を見ていた。
ドッゴォオオォォォォォッ!
岩が砕け散るような音がした。
ゴリは目玉が飛び出さんばかりの強烈な苦悶の表情を浮かべ、腹を抱えて膝をついた。
間髪入れずシノはゴリの頭を抱え、無防備な顔面に渾身の膝を叩き込んだ。
バキィイィイイイイッ!
大木がへし折れるような音がした。
歯が数本宙を舞い、ゴリは大の字に倒れてそのまま動かなくなった。
会場は、シン———と水を打ったように静まり返り———
「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!???」
———実況の叫びと同時に、大歓声に包まれた。
「な、ななななな何が起こったぁぁぁぁぁぁ!!?オカダさん、これは……!?」
「あ……あがががが…………!」
オカダは衝撃のあまり顎が外れていた。
「ゴ……ゴリッ……!?」
後方で見ていた『白銀の獅子』の三人も、あまりの衝撃にあんぐりと口を開けていた。
その隙を見逃さず、ユリとシノが接近する。
「ああぁっとぉーーー!!前衛の二人が『白銀の獅子』に接近するぅぅーーー!!」
立ち尽くしていた『白銀の獅子』は急いで武器を構えようとする。
その瞬間、サヨの呪文詠唱が終わった。
「""氷嵐の咆哮""!」
中級範囲魔法を発動し、ゼル達の足元から巨大な氷柱が大量に発生する。
「なんだァァァこの威力は!!?とてもDランクパーティの魔法とは思えないィィ!!!」
『白銀の獅子』はなんとか範囲魔法を回避するものの、パーティが分断されてしまった。
「くっ……!おい!陣形を立て直……」
「"聖光の五月雨"!」
ルリが呪文の詠唱を終え、中級範囲魔法が発動する。
無数の光の矢が『白銀の獅子』を襲い、回避に専念した3人はさらに分断される。
この魔法の威力……どうなっているんだ!?
「これも強烈な魔法だァ!!更に、前衛のユリとシノがマリーに襲いかかるぅぅぅ!!」
実況を聞いて、ゼルは状況を理解した。
範囲魔法2発で3人が完全に分断されたところに、回復役のマリーが狙われている。
「やばいっ……!マリー!」
「”聖なる結界”!」
マリーは防御魔法を唱え、攻撃を防ごうとする。
「シノ、いくよっ!」
「OK、ユリ!」
ユリとシノが息を揃える。
「 「”双星の交錯”!!」 」
閃光となった二人の攻撃が同時にマリーの防御結界を打ち砕き、そのままマリーを吹っ飛ばした。
「マリー!!?」
マリーはダウンしそのまま動かなかった。
「何だ今の技の威力はァァァ!!??」
「合体技ですな」
ようやく顎が嵌ったオカダが解説する。
「合体技!?」
「そうです。息の合った複数人が同時に攻撃を繰り出すことで、威力を何倍にも上げる技です。ただ、相当息を合わせないと……。熟練のパーティでも容易にできるものではありません。それもこんな大舞台で……」
「とにかく、めちゃくちゃ凄いということですね!?なんとなんと、一撃でマリーがダウン!開始わずか30秒で、『白銀の獅子』がまさかの残り二人!!こんな展開を誰が予想できたのかァァァ!!!」
観客からブーイングが起き始める。
「ふざけんな!『白銀の獅子』に200万賭けたんだぞ!」
「俺なんて1000万だ!殺す気か!?絶対勝てよ!?」




