第24話 ムビと『白銀の獅子』の接触6
「えっ・・・決闘って、あの・・・?」
決闘は冒険者関連『Mtuber』の中でも最大の人気企画だ。
互いのパーティが何かを賭けてバトルをする。
片方のパーティが全滅するか、降参を宣言した時点で勝敗が決まる。
大型『Mtuber』の決闘は翌日のニュースにも載る程で、今やスポーツ観戦以上の人気を誇っていた。
「そうだ。俺達『白銀の獅子』クラスなら、決闘スタジアムを借りることができるな。喜べ、夢にまで見た数万人の観衆の前に立たせてやる」
ゼルはニヤニヤしながら何やらスマホを操作する。
「かっ・・・勝てるわけないじゃないですか!私達、まだレベル15のDランクパーティですよ!?Aランクパーティなんて相手にできるわけ・・・!」
「賭けるものは何が良いかな・・・そうだな、俺達が勝ったら、君達全員『白銀の獅子』へ加入してもらおうか」
「だからやりませんって!」
「俺達『白銀の獅子』は人気パーティだからな。ただの配信ではなくて、有料配信になる。来場チケットやPPVの収益は数億円になるだろうな。買った方が総取りだ」
「す・・・数億円・・・」
ルリがゴクリと喉を鳴らす。
しかし、シノが直後に拒否する。
「何度言われても私達の答えは同じです。こんなの受けるつもりはありません!お引き取りください!」
ゼルが先ほどからニヤニヤしながらスマホを操作している。
何をしているんだ。
・・・まさか―――
「シノさんっ!ゼルからスマホを取り上げて!」
「もう遅い」
ゼルはスマホの画面を見せながら、送信ボタンを押す。
決闘スタジアム予約完了画面と、SNSへの通知完了のメッセージが表示された。
「ちょっと!何勝手に決めているんですか!こんなの無効です!」
「いいや、お前達は受けざるを得ない」
ゼルのスマホに、あっという間に通知の嵐が届く。
とんでもない勢いで拡散され、いいねとコメント数が毎秒毎に増えていく。
「決闘は一大イベントだ。うちのチェンネル登録者180万人と、SNSのフォロワー150万人に一斉に通知が届く。うちのファンは熱狂的な奴が多くてな。今からもしも断ろうもんなら、こいつらが全員お前達のアンチになって袋叩きにされるぜ?」
シノのスマホから何度もバイブ音がする。
シノがスマホを見ると、『四星の絆』の公式アカウントに大量のコメントが届いていた。
あの『白銀の獅子』と戦うんですね!
頑張ってください!
勝てるわけないじゃんww
はじめて『四星の絆』を知りました!
ただ単に『白銀の獅子』に入りたいだけじゃないの?
「な・・・何これ、通知が止まらない・・・」
毎秒毎に通知の嵐が届き、シノは恐怖を覚える。
「バズを経験するのは初めてか?まぁ、底辺『Mtuber』ならそんなもんかww断ったらどうなるか教えてやる。まず、俺のファンから数万件のアンチコメがお前達に届く。そしてニュースで大々的にお前らのキャンセルが報じられ、更にアンチコメが増える。アンチが更なるアンチを呼び、お前らは大炎上。確かお前ら、アンチをなるべく減らしたいんだっけ?残念、世の中はお前らのアンチでいっぱいになりますwww今後お前らが何か発信する度に、一生アンチが付きまとうぜ??まともにアイドル活動なんてできやしねぇぞ??」
ユリ、ルリ、サヨのスマホもバイブ音が鳴りだす。
個人のSNSアカウントにもどんどんコメントが寄せられている。
「次に、お前らが決闘を受けた場合だ。俺達『白銀の獅子』は、今まで一度も決闘に負けたことがない。当然、お前らの負ける確率は100%♪負けた後の処遇だが、これだけ喧嘩を売っといてアイドル活動なんかさせてもらえると思うなよ?レベル上げもしてやんねー。そうだな・・・お前ら顔が良いから、性奴隷でもなってみるか?ww要するに、お前らの夢は今ここで終わったってこと♪」
「そ・・・そんな・・・」
ルリがへたり込む。
呆然とした表情で、頬に涙が伝う。
「なーなー、今どんな気分?夢が壊れるってどんな気持ち?惨めだなお前らwwまぁ、好きな方の地獄を選べやwww」
「ゼル、あんたほんと最高ね!さっきはあったまきたけど、もう気分爽快だわ♪」
「やっぱお前は最高のエンターテイナーだぜ、わははww」
「かわいそうですが、まぁ仕方ありませんね」
『白銀の獅子』と『四星の絆』の様子は対照的だった。
片や大笑いをし、片や呆然とした表情をしている。
ただ一人、どちらにも属さない者がいた。
「決闘はいつやるの?」
ムビがゼルに質問する。
以外にも冷静な声で、皆が少し驚いた。
「3日後だ。なんだ、受けるのか?まぁ、それしか選択肢が無いだろうがなww」
「俺達が勝ったらそうだな・・・もう二度と、俺達には関わらないでくれ。それでいいよ」
ゼルは、きょとんとした顔をした。
「・・・お前、もしかして勝つ気なのか?」
「うん。瞬殺してあげる」
ゼルは何を言われたか理解するのに数秒の時間を要し、直後大笑いをした。
「ははははははwwお前が、冗談の言える奴だったとは驚きだww分かった、それで賭けは成立だ。では、用事も済んだし我々は帰らせてもらおうか♪3日後、くれぐれも逃げるんじゃないぞ?わははww」
こうして、『白銀の獅子』はムビの家から出ていった。
「ど・・・どどどどうしよう、受けてよかったのかな!?いやでも、受けるしかないよね、いやでも本当に良かったのかな?」
「私としては、大量のアンチを覚悟して、少しでも火消しするのが賢明と思いましたが・・・」
「いや、やっぱり大量のアンチが付くのは良くない。メディアもレッテルを貼るだろうし、一度貼られたレッテルは簡単には消えないからね。『四星の絆』の将来を考えると確実にマイナスになる」
ムビが落ち着いた声で話す。
「ムビ君、何か勝算があるの?」
「はい。作戦通りに行けば勝てると思います。ただ、それを伝える前に・・・」
ムビはシャンパンのボトルを掴む。
「飲みなおしましょう。俺、まだこのシャンパン飲んでないんですよ」
呆然としていた『四星の絆』の顔に次第に笑顔が戻った。
「あはは♪そしたら、注いであげるねプロデューサーさん?」
「最後、冷静でなかなかカッコよかったよ?♪」
「サヨごめんなさい、仕返しさせちゃって」
「いえいえ良いんですの、もし魔法を使おうもんならボトルでぶっ叩いてやろうと思っていましたわ」
再び5人になったムビの家からは、明るい笑い声が響いていた。
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