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第23話 ムビと『白銀の獅子』の接触5

 ムビは手が震えていた。

 ゼルに意見するのは、これが初めてだった。


「矛盾しているのはそっちだ。彼女達の実力を認めているのかいないのか、どっちなんだ?俺は彼女達と知り合ってまだ日が浅いが、一緒に冒険もして、アイドルとしてのパフォーマンスも見てきた。『白銀の獅子』の初期を知る元メンバーとして断言するが、彼女達は2年以内に『白銀の獅子』を超える」


 場がシンと静まり返った。


「俺達を超える?ほう・・・それはまた、どういった根拠で?」


 ゼルの顔には、シノと話していた時の笑顔とは違う、見下すような冷笑が浮かんでいた。


「根拠は3つ。間近で撮影していて分かったが、彼女達の戦闘センスは『白銀の獅子』を超えている。レベルさえ上がれば、間違いなくトップ冒険者達に並ぶ存在になるだろう。これが1つ目の根拠だ。」

「へぇ・・・碌に戦闘もしたことないお前が、戦闘センスねぇ・・・」


 ゼルは冷ややかな声だったが、ムビは構わず話を続ける。


「2つ目に、彼女達は努力家だ。アイドル活動とは別に、毎日冒険者としての戦闘訓練を行っている。訓練を行った場合、同じレベル帯でも強さに明確な差が生まれる。ゼル達は、今まで殆ど戦闘訓練を行ったことがないだろう?」

「・・・何?それは俺達が努力不足って言いたいわけ・・・?戦闘訓練なんて実戦で十分だろうが!俺達は才能が違うんだ、そこらの凡人共と一緒にすること自体がナンセンスだ!」


 ゼルが机を叩き、『四星の絆』がビクッと反応する。

 ゼルの頭にはもう『四星の絆』に好印象を持ってもらうとか、そういったことは一切なかった。

 それ以上に、ムビという底辺の冴えない雑魚に舐められている現実が許せなくて、腸が煮えくり返っていた。


「3つ目。彼女達はアイドルとして間違いなく売れる。正直、俺にはまだアイドルのことはよく分からない。でも初めて彼女達のパフォーマンスを目の前で見たとき、本当に感動した。今まで見たどんなアーティストやアイドルよりも。もしも彼女達が売れなかったら、完全に俺のせいだよ」

「・・・何あんた?可愛い子達にちょっと褒められたくらいで惚れこんじゃってんの?これだから童貞野郎はキモイのよ」


 リゼが見下すような冷たい目をして言った。

 場は先程まで活気に溢れ、盛り上がっていたのが嘘のように、冷え切り、静まり返っていた。

 そうなのだ。

 ムビが話すといつもこうなのだ。

 だから場の雰囲気を壊さないように、いつもいつも黙っていた。

 目立たないように隅っこでおとなしくしていた。

 きっと、『四星の絆』の皆から引かれているだろう。

 もしかしたら嫌われたかもしれない。

 そしてこんなときは決まって、そのまま黙っておけば良かったと後悔するのだ。


「言っておくけど、仮に『四星の絆』が『白銀の獅子』に加入することになっても、俺は『白銀の獅子』に戻るつもりはないよ」

「・・・なっ・・・何っ!?」


 それでもムビは止まらなかった。

 これまで溜めていたマグマみたいな感情が止めどなく湧き上がって―――。


「ゼルのことだから、最悪ミラとのコラボの日1日だけとか思ってるでしょ?残念だけど、それも協力するつもりはない」


 ゼルの顔からは完全に余裕が消えていた。


「どうして俺が、クビにされたパーティのその後のケアまでしなくちゃいけないんだ?俺は今ルナプロに所属していて、『白銀の獅子』に所属していた頃の何十倍もの報酬を貰っている。一日だって、『白銀の獅子』のために使う時間は無い。そんな時間があるなら、『四星の絆』やルナプロのために時間を使うさ」


 言ってやったぞ!

 生まれて初めて、ゼルに明確に逆らってやってやった!

 体も声も震えていたが、確かに自分の意思を示した。


「言いたいことはそれだけか?ムビ?」


 ゼルが冷ややかな笑みを浮かべている。


「戦闘センスで劣るだの、努力不足だの、給料が低いだの、散々俺達のことを馬鹿にしてくれたな?それならお前はどうなんだ?忘れているようだから、お前がどれだけ役立たずだったか、皆にも分かるように説明してやろうか?戦闘中、後方でコソコソしていたのは誰だ?自衛もできないどころか魔力欠乏にしょっちゅう陥ってパーティの足を引っ張りまくっていたのは誰だ?散々レベル上げに協力してやったのに、一向にパラメータが上がらなかった経験値泥棒は誰だ?全く使えない雑魚スキル持ちは誰だ?全部お前だろうが!!」


 ゼルは完全にヒートアップしていた。

 呪いの言葉を次々とムビに浴びせる。

『白銀の獅子』のメンバーはクスクスと笑っていた。

 ムビの脳裏に、パーティを追放されたときの悔しさ、情けなさ、顔に滴る水の冷たさが蘇る。


「居場所を見つけたつもりか?調子に乗るなよ?お前みたいなザコ、すぐに無能を見抜かれて見捨てられるのがオチさ!プロデューサーだと??笑わせるなwwお前みたいなコミュ症の無能に何ができる?会社に所属しようと、最終的には窓際族になるんだよお前みたいな奴はww声も体も震えてるのバレてるぞ?そんなに怖かったか俺が??ん??お前みたいに惨めで情けない奴、俺は他に知らねぇよwwそんな惨めな人生、いっそさっさと終わらせちまったらどうだ?俺なら恥ずかしくて首括っちゃうね♪俺に意見したときぐらい勇気振り絞って、さっさと死んだらどうだこのゴミ??」

「———ムビさんを馬鹿にしないでくださいっ!!」


 突然シノが怒鳴った。

 ゼルは固まり、場が一瞬静まり返る。


「さっきからひどいことばかり・・・。あんなに素敵な動画を作って貰ったのに、出てくるのはそんな言葉ばかりなんですか?ムビさんが戦闘に貢献していない?何を言っているんですか?皆さんのMP消費を肩代わりしていたのはムビさんでしょう?」


『白銀の獅子』はその言葉にピクリと反応を示した。


「な・・・何だと・・・?どういうことだ・・・?」


「御存知無いんですか?ムビさんのスキルはステータスだけではなくMPの割り振りも可能なんです。皆さんのMP消費を肩代わりしていたから、ムビさんはよく魔力欠乏を起こしていたんですよ?気付いてなかったんですか?」


 ゼルは普段なら笑って聞き流しただろう。

 ここ最近の依頼を受ける前であれば。

 あまりにも思い当たる節があり過ぎた。


「そうなのか、ムビ!?」

「そうだね。MPの肩代わりは、いつもしていたよ。皆ガンガン魔力を使うから、魔力欠乏がつらかったけど」

「・・・お前っ!なんで今まで黙っていた!」

「黙ってなんかいないよ、何度も伝えたさ!でも、その度に『俺たちの魔力量が優れているだけだ』って言って聞かなかったじゃないか!」


 ゼルは記憶を思い返す。

 全然覚えてなかったが、そういえばそんなやり取りもあったような・・・。


「ムビさんには感謝してもしきれないくらいの御恩があります。あなた達が見捨てるなら、私達がムビさんを大事にします!食事のときからムビさんの悪口ばかり・・・。ずっと我慢してましたが、もう我慢できません!」


 シノは自分のバックから万札を一束取り出し、ゼルに押し付けた。


「美味しいご飯ご馳走様でした。御代はこちらでお支払いします。もうお帰りください!」


 シノの凛とした目に強い意思がこもっている。

 ムビを馬鹿にされたことへの怒りが宿っていた。

 ムビは泣きそうになった。


 パシャッ


 突如、水音がした。

 シノは、驚いて目を見開いた。

 シノの顔めがけて、コップに入った酒がかけられていた。


「あっ、ごめん、手が滑っちゃった〜♪」


 犯人はリゼだった。


「シノっ!大丈夫!?」


 ユリがハンカチを取り出し、シノの顔を拭いた。


「なぁ〜にお仲間ごっこで気持ち良くなっちゃってるのかなぁ?失礼なのはあんたらじゃん?ザコの分際で、何あたしらに楯突いてんの?あんたらはへこへこして大人しく従ってりゃいいっての」

「あんた、何やってんの!?」


 隣にいたルリが強い憤りの目をリゼに向ける。


「ごめんごめん♪だって手が滑っちゃったんだも〜ん♪誰だって失敗ってあるでしょ?許してよ〜♡」

「・・・っ!ふざけ・・・っ!」

「あらあら、いけませんわルリさん」


 いつの間にか立ち上がっていたサヨが、ルリの肩を掴んで制止する。


「誰にだって失敗は付き物ですわよ?失敗は、寛容な心で許すものですわよ?」


 そう言うと、近くに置いてあったワインのボトルを掴んで―――。


「あーら、手が滑りましたわ」


 ―――リゼの頭上でひっくり返した。

 リゼは全身ワイン塗れになった。


「・・・うぇえっ!?ちょっ・・・服がっ・・・!お前ふざけんなっ!」

「あらあら、自分の失敗は許せて、人の失敗は許せないタイプでしたか?」


 その一言で、リゼは完全にキレた。


「上等だよテメェ・・・。殺してやる」


 リゼの右手に魔力が漲る。


「やめろっ!」


 ゼルが怒鳴り声を上げる。


「どうやら交渉は決裂したようだな。最後に確認だ。ムビも『四星の絆』も、うちのパーティに加わる気はないんだな?」

「ないよ」

「ありません」


 ムビとシノが答える。

 その答えを聞いて、ゼルがスマホを取り出す。


「そうか分かった。では、『白銀の獅子』から『四星の絆』へ決闘(デュエル)を申し込む」


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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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