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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第206話 和解

 走馬灯は命の危機に瀕した際に見えると言うが、あれは嘘のようだ。

 特に命の危機に瀕していない、いたって健康なムビの脳内にも流れたのだから。


 とはいえ、それに近い衝撃を受けたのは事実だ。

 たった二文字の言葉は、魔力ネットワークへの接続にも耐えるムビの神経回路を焼き切る勢いで駆け巡った。


 こと女っ気に関しては皆無と言って差し支えないムビの人生において、告白など自分には一生縁がないイベントだと思っていた。

 ましてその相手が、列強が羨む美少女、しかも栄華を極める第六王女であるとは、つい1秒前のムビですら夢にも思わなかった。


「初めてお会いしたあの夜から、あなたのことをお慕いしておりました。あなたの澄み切った血の味は、未だに忘れられません」

「ち……血の味……?」

「"ヴェルノクの薔薇"の逸話を覚えていますか?」


 ヴェルノクの薔薇の逸話……。

 確か、血を吸った者の魂が乗り移って、夜な夜な語りかけるとか……。


「あの逸話は本当です。私にだけ、薔薇の声が聞こえるのです。ムビ様の身にこれまで何が起こり、ムビ様が何を感じてこられたのか、薔薇が全部教えてくれました」


 目の前の美少女から語られるのは、妄人や狂人のそれ。

 しかし、相手はリリス。

 ムビには腑に落ちるところがあった。


(それが本当なら、あれだけ世間から叩かれていたのに、初めから俺のことを信用していた理由も納得できる……)


「私は、誰よりもあなたのことを理解しています。何を言ったら喜ぶのか、何に対して怒るのか——それら全てを踏まえて、あなたが大好きなのです」


 リリスは立ち上がり、ゆっくりとムビに歩み寄る。

 その瞳には、狂気と愛情が同居していた。


「私の心配事は一つだけ。あなたが敗退し、お父様の命令で最前線に送られること。あそこは、"帝国の悪魔"がいる死地。いかなムビ様といえど、命はありません」


 背後に立ち、ムビの頭を抱き寄せた。


「なっ……何を……!?」

「動かないで」


 ——バチッ!


 ギアスが発動する。

 ムビは体の動きを封じられた。

 蛇のように二本の腕がまとわりつく。


「あなただけは、絶対に失いたくないのです。例え、他の全てを殺すことになろうとも——。私の気持ち、分かっていただけますか?」


 リリスの抱擁は優しく、温かかった。

 蛇が蜷局を巻くように、二本の腕が頭を包み込む。


「もしも敗退してしまったら、お父様を殺して——私と遠くへ逃げましょう。ギアスなしでも、私と離れたくなくなるくらい、幸せにしてあげます」


 耳元で囁かれる、第一級国家反逆罪。

 否、リリスにとっては、愛の囁きに他ならなかった。


「あっ、今のはもちろん内緒ですよ?ギアスで口外禁止にさせていただきます」


 リリスはムビから離れ、椅子に座った。


「動いていいですよ」


 ——バチッ!


「——はぁッ……!」


 ムビは肩で息をする。

 絶対的捕食者に命を握られるような感覚だった。

 滝のような汗がムビの全身から噴き出る。


「ぜひ、優勝してくださいね?私も無益な殺生はしたくありません」


 リリスは笑みを浮かべる。

 まるでジョークのように軽快なトーン。


 ムビは息を荒げながら、昼下がりのティータイムを楽しむリリスを見つめた。




 ◆ ◆ ◆




 日も落ち始め、涼やかな風が吹き始めた。

 ムビは王宮を出て、トボトボと歩き始めた。


(どうしよう……敗退したら、国王の首が飛ぶ……)


 リリスの言葉は、恐らく冗談ではないだろう。

 リリスと共に、テロリストとして逃亡する自分の姿を想像した。

 そうなれば、冒険者活動、プロデューサー活動どころではないだろう。

『四星の絆』も関与が疑われ投獄されるかもしれない。

 もはや、自分の借金どころの話ではなくなってしまった。


(なんとしても優勝しないと……)


 そのとき、ムビのLINEに通知が届いた。

 サヨからだった。


 ---


 ミラに事情を話しました。

 直接会って話をしたいそうです。

 病院に来ていただくことはできますか?


 ---


 ムビはサヨに感謝した。

 と同時に、緊張が走る。


(結局、ギアスは解いてもらえなかったし……ミラになんて説明したらいいんだろう)


 "ギアスを解いてもらえなかった"というメッセージを打ち込もうとしたが、ギアスにより封じられる。

 こんな状態でミラに会って、ちゃんと納得してもらえるだろうか。


 ---


 わかりました。病院へ向かいます。


 ---


 ムビは返信し、足取り重く病院へ向かった。




 ◆ ◆ ◆




 一時間後、ムビは病院に到着した。

 入り口の前に、集団が見える。


(あれは……『四星の絆』の皆と……シンラさんたち……そして、ミラ……)


 一人が集団を抜け出し、こちらに向かって歩いてくる。

 一番背が低い萌え袖の少女……ミラだ。


(どうしよう……なんて謝れば……)


 ミラとの距離が縮まる度に、ムビの緊張感が増す。

 二人の距離が5メートルに迫った時——


 シュンッ!


(——!?)


 突如、ミラの姿が消えた。


「ムビーーーっ!!♪」


 ドゴオォッ!


 ミラの体当たりが腹部に炸裂した。


「ぐえぇぇっ!?」


 ムビはミラを受け止めることができず、そのままミラにタックルされる形で10メートル吹っ飛ぶ。

 アバラが数本イカれ、衝撃が内臓にまで達した。


「あぁっ!!すまん、ムビ!お主、今弱っておるんじゃった!!」


 ミラはムビに覆いかぶさりながら謝る。

 どうやら抱き着きたかっただけのようだが、ステータス差があり過ぎて致命的な一撃になってしまったようだ。


「ほら、元気を出せ、ムビ!」


 ミラはムビに回復魔法をかける。


「大丈夫、ムビ君!?」


『四星の絆』やシンラたちが慌てて駆けつけてきた。


「し、死ぬかと思った……」


 ムビは咳き込みながら上体を起こす。


「すまんかった、ムビ!……まぁあれだ、お互い死にかけた仲じゃ!今ので全部、水に流そうではないか!かっかっか♪」


 ミラが爆笑しながらムビをバシバシ叩く。

 まだ力加減を間違えているようで、一発一発が骨に響く。


「げ、元気そうで良かった……。本当にごめんね、ミラ。俺……」


 その先の言葉は、ギアスによって封じられた。


「お前の仲間たちから聞いたぞ、ムビ!お主、性悪王女からギアスをかけられているらしいな?——ああ、確かに魔力を感じるのう」


 ミラはムビの頬に手を当て、ギアスの魔力を感じ取る。


「全部その性悪王女のせいじゃ、お主は何も悪くない!謝ることはないぞ、ムビ!」


 ニカッと笑うミラを見て、ムビは泣きそうになる。


「ごめん……ほんと、ごめん……」

「だぁ~かぁ~らぁ~謝るなと言うておるのに!謝るのはワシの方じゃ、お主が操られていることに気付かなんだ!お主に憎まれてるものだと勘違いしてしまったわい♪」


 シンラが、頭をかきながらムビに話しかける。


「なぁムビ。その……すまなかった、ぶん殴っちまってよ。お前が操られてるなんて全然頭になくて……」

「私も、ひどいこと言ってごめん……」

「私も……どう考えたって、ムビ君がミラを殺すはずないのに……」


 ナズナとシェリーもムビに頭を下げる。


「いいんです。その……言える言葉が限られてるんですけど……ほんとに、いいんです……」


 ムビは懸命に、言える言葉を絞り出した。


「えへへー、仲直りできてよかったね♪」


 様子を見ていたユリが笑顔を浮かべる。


「お主らのおかげじゃ、『四星の絆』の皆の衆!それにしても、よく一発でムビが操られていることに気付いたのう♪」

「まぁ、ムビさんとは付き合いが長いですからね」

「さすが、年季が違うな!御見それしたぜ!」


 サヨがドヤ顔を披露し、シンラがサヨと肩を組む。

 病院にいる間に、『四星の絆』とミラたちは打ち解けたようだ。


「ムビ君!仲直りに成功したら、皆でご飯行こうって話してたんだけど、この後行かない?」


 尻もちをついているムビに、ユリがしゃがんで話しかける。


「行こうぜムビ!『四星の絆』も交えて、宴会しようって約束だったじゃねぇか♪」


 シンラは既に行く気満々のようだ。


「あはは……。うん、行きます……」


 ムビは小さく声を震わせながら笑顔を浮かべた。


「よっしゃー!そうと決まれば、さっそく店を予約だ!」

「任せてください、速攻押さえますんで!」

「おっ、気が利くじゃねぇか、さすが現役アイドル♪だっはっは!」


 ムビは『四星の絆』とミラたちに囲まれ、賑やかに夜の街へと繰り出した。

お読みいただきありがとうございます。


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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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