第203話 サヨの洞察力
サヨは続けてムビに質問する。
「ムビさん、好きな食べ物は?」
「ハンバーグ」
「好きな女性のタイプは?」
「何の質問ですか」
「じゃあ……ミラを殺したのはなぜ?」
「…………」
押し黙るムビの瞳を、サヨはじっと見つめる。
全てを見抜くようなサヨの視線を、今ほど頼もしく思ったことはない。
ムビはサヨに伝わるよう、全力で目で訴えかけた。
「やはり、ミラに関わる質問をすると魔力反応がありますね。ムビさんが黙るのは、魔法の影響と見て間違いないでしょう」
ムビは全力で頷こうとするが、それもギアスで封じられる。
代わりに、目をパチパチさせる。
「ムビさんにかけられた魔法はなんですか?」
「…………」
「魔力反応あり。恐らく、ミラに関わる質問に答えられないのではなく、自身にかけられた魔法について言及できないのですね。言い換えれば、ミラの殺害にはその魔法が関わっている、ということになる。ムビさんはその魔法に操られ、ミラを不意打ちしたのですね」
サヨの推理が進むにつれ、小躍りして喜びたくなった。
リアクションの一切を封じられ、全身にバチバチと魔力が流れる。
「あらあら、魔力反応がさらに強くなりました。正解のようですね」
「誰かがムビ君に精神操作系の魔法をかけたってこと?」
「それも考えましたが、精神操作系の魔法なら常時魔力反応があるはずなんです。恐らく呪い、もしくは契約……。例えばそうですね……"ギアス"、とか」
(さすがサヨさん!天才!!)
ムビはサヨの魔法の知識と洞察力に感服する。
「ムビさん。ご自身にかけられた呪いについて、話していただけますか?」
「俺にかけられた呪いはスキル封じだけで、他に呪いはかけられていません」
「なるほど。では、ムビさんが結んだ契約について話していただけますか?」
「…………」
サヨはムビの頬から手を離した。
「契約で間違いなさそうですね。となれば、ギアスの可能性が濃厚です」
「ギアスって、強制的に相手を従わせるっていう、あの……?」
「ええ。ギアスには一般契約と奴隷契約の2種類あります。奴隷契約なら首に紋様が現れるので、一般契約でしょう。騙されて契約書にサインさせられたのでしょうね」
「ひえ~。ムビ君を騙すなんて……。誰か知らないけど、相手も相当やり手だね」
「あら。相手はある程度絞れますよ」
サヨは平然と言ってのけた。
「えっ……分かるの?」
「ええ。ミラへの不意打ちは、遠距離ギアスの可能性が高いですから」
ムビも疑っていた遠方からのギアス。
この口調だと、サヨには明確な知識があるようだ。
「遠距離ギアス?」
「通常のギアスは直接命令が必要ですが、遠距離ギアスなら離れた場所からでも指示を送れます。しかし、遠距離ギアスは超高等魔法……。莫大な魔力を消費しますし、技術的にも並の臨界者程度に扱える代物ではありません。よって、契約主はレベル100を超える者に限られます」
レベル100を超える存在。
そうなると、該当者はかなり絞られる。
『四星の絆』の面々は、シノの推理に息を呑む。
「『ミラと愉快な仲間たち』はミラを殺すわけがない。『ドラゴンテール』はムビさんと接触したことがないので除外。『両面宿儺』はムビさんの予選通過を願うはずがないし、そもそもムビさんが契約書にサインするわけがない。となると該当者は——リリス様、くらいでしょうか。リリス様なら、ムビさんの予選通過を願っているし、契約書にサインを書かせることも可能でしょう」
ムビは心の中で全力で拍手を送った。
サヨが神様のように見えた。
「すごいねサヨ!納得だわ!」
「リリス様なら、放送で私のピンチも確認できたはずですしね」
「——それであってる?ムビ君」
ムビは沈黙するが、ムビのリラックスした雰囲気を全員が感じ取った。
「これで謎は解けましたわね。はぁ……あの女、八つ裂きにしてやろうかしら」
「ちょっ、サヨ、落ち着いて……相手は王女様だよ!?」
「王女だろうが神だろうが知りません。ムビさんの手を汚すなんて……」
サヨが握るグラスにヒビが入り、ルリが「ひっ」と悲鳴を上げる。
怒りのオーラをまとったサヨを、全員でなだめる。
「でも、早くミラに弁解した方がいいよね。ムビ君、誤解されたまま殴られちゃったし……」
「確か、私と同じ病院にミラが入院していたはずです。仲間の人たちも毎日面会に来ていたと思います」
「それなら明日、ムビさんがあの女と会っている間に、私たちでミラの誤解を解きましょう。ムビさんがいたら、問答無用で攻撃されるかもしれませんし」
「リリス様を"あの女"呼ばわり……」
押し黙り続けるムビの肩を、ユリがポンと叩く。
「ずっと説明できなくて大変だったね。よしよし、明日ミラさんたちと仲直りしよ♪」
ここ数日、ムビを苦しめていた問題が、ようやく晴れた気がした。
普通なら誰にも気づかれず、一人で抱えるはずだった重荷。
だが、『四星の絆』は違和感を感じ取り、ムビの異変に気付いてくれた。
そして、全員が惜しみなくムビをフォローしてくれる。
ムビは『四星の絆』が仲間であることに、心の底から感謝した。




