第202話 予選突破の打ち上げ
「それでは!予選突破、そしてシノの快復を祝して——カンパーイ♪」
「カンパーイ!」
翌日、ムビは『四星の絆』の打ち上げに参加していた。
すっかり元気になったシノの姿を見て、皆安心していた。
「さぁーて、いよいよ本選だね。ここからが本番って感じ」
「そうですね。先日、マルスさんに聞いたんですけど、『ドラゴンテール』は全員レベル250を超えているみたいです」
「に……250!?」
「デスストーカーより強いじゃん……」
全員絶句していた。
「そもそもどういうこと?なんでレベル100を超えちゃってるわけ?」
「どうも、"聖装"という装備品を手に入れることで、レベル上限100を突破できるみたいなんです。『ドラゴンテール』の四人は、その装備者みたいで」
「ふえー、そんなチート装備が……」
ユリはビールを片手に、目を丸くする。
「『ドラゴンテール』は別格ですが、『ライオンハート』と『白銀の獅子』も全員臨界者ですね。他にも臨界者を有しているパーティは多いです。平均レベルは80以上はありそうですね」
「ふえー……。私たち、全然レベル足りてないじゃん」
「予選参加者の中でも下の方だったもんね……」
「レベル50ちょいでバラバラになって、よく生き残れましたね」
『四星の絆』の予選突破は、はっきり言って奇跡だ。
皆もそれを感じているようで、難しい顔をする。
「でもさ、私たちにはムビ君がいるし、なんとかなるんじゃないの?」
「それが……実は、スキルが使えなくなってしまいまして……」
「えっ!?どういうこと!?」
ムビは肩の呪印を見せる。
「予選で魔王軍の遺跡にいた化物を倒したとき、スキル封じの呪いを受けちゃったみたいで……。昨日、クラナディアの大聖堂に行ったんですけど、聖女様でも解呪できませんでした」
「ええーーーっ!?ムビ君、聖女様に会ったの!?」
「てか、聖女様が解けないって、どんな呪い!?」
『四星の絆』の一同は驚愕で目を見開いた。
「なんとか解呪する方法を探しているのですが、まだ手がかりがなくて……。なので、俺は現在、ただのレベル100の冒険者なんです。皆さんの支援も、これまでのようにできない状態で……」
「レベル100は“ただの”冒険者ではありませんけどね」
サヨが苦笑しながらフォローする。
「とりあえず、本選までの一ヶ月間、ひたすらレベルアップするしかないね」
「あとは、ムビ君の呪いを解除する方法もなんとか見つけないと……」
「ムビ君が本調子じゃないと、優勝なんて夢のまた夢だよ……」
ルリが小さく身震いする。
「ねぇねぇ。ふと思ったんだけどさ」
全員がユリを見る。
「その聖装ってやつ、私たちも入手できないのかな?」
「あはは。古代遺跡を見つけるくらいの難易度らしいです。俺も、『ドラゴンテール』と聖女様しか、装備者を見たことがありません」
そういえば、リリスもレベル上限がないという話だった。
恐らく、リリスも聖装を持っているのだろう。
「うーん、やっぱり難しいか」
「聖装を手に入れても、レベルが低ければ意味がありませんわ。まずはレベル上げに専念すべきでしょうね」
「レベル上げって言っても、とても間に合わないよなぁ……」
「予選に向けて一ヶ月死ぬ気でレベル上げしたけど、それでもせいぜい10レベルがやっとだったもんなぁ」
「仮に同じようにレベル上げしたとして、本戦1回戦ではレベル60に届くかどうかですね」
「うーん……とても勝てる気がしない……」
『四星の絆』は溜息をついた。
「ところで、ムビさん。予選では、ずっとミラ・ファンタジアとご一緒に?」
サヨが尋ねる。
「うん、そうなんだ。ピンチのところを助けてもらったり、一緒に遺跡を冒険したりして」
「ふーん……。それなのに、ミラを後ろから刺したんですか?」
ギクリ。
ムビの顔が引き攣った。
「いえ、責めてるわけではありません。おかげで、私達は予選を突破できたわけですし。ただ、ムビさんらしくないな、と思いまして」
「確かにそうだよね。今まで触れづらかったけど、私も実は気になってて……」
「ムビ君が誰かを殺すなんて信じられないんだよなぁ」
「何か理由があったのかな?良かったら、話してほしいなぁ、なんて……」
——バチッ。
ギアスがムビの発言を封じる。
結果、ムビは押し黙る。
「ご……ごめんね?話したくなかったら別に良いんだよ?私達、どんな理由だとしてもムビ君を嫌いになったりしないし……」
ユリが苦笑しながら手を振る。
その優しさが身に染みる。
だからこそ、一切説明できないのが耐え難い。
唇を噛んで押し黙るムビを、サヨはじっと見つめていた。
「ムビさん、ちょっと……」
サヨはムビの両頬に手を当てる。
「サヨ?どうしたの?」
ユリが尋ねるが、サヨは答えない。
ムビの潤んだ瞳を見つめ、目を細める。
「かすかに、魔力の反応が……」
その言葉を聞いた瞬間、ムビは目を見開いた。
ルリが首を傾げる。
「魔力?どういうこと?」
「分かりません。ただ、ムビさんの魔力ではありませんね。さっきからムビさんの様子がおかしいのは、この魔力の影響かもしれません」
ムビの胸が、希望に震えた。
(サヨさん!?もしかして、気づいてくれた!?)




