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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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201/205

第201話 聖女ティアナ

 ルリの家を後にしたムビが自宅にたどり着いたのは、午前二時。

 ポストを開けると、王族の紋章が刻まれた封筒がひとつ、静かに置かれていた。


(選抜戦の連絡かな?)


 家に入り、封筒の中身を確認する。

 手紙が入っていた。


(差出人は……リリス……)


 内容は『四星の絆』予選突破の祝福と、三日後に城へ遊びに来ないかという招待だった。


(リリスには聞きたいことがある……。行かなくちゃ)


 ムビは返事の手紙を書いてポストに投函し、その日は就寝した。




 ◆ ◆ ◆




 翌朝。

 目を覚ますと、『四星の絆』のグループラインに、元気なシノの姿が投稿されていた。


「退院したよー♪」


 メンバーたちが歓喜のコメントを寄せる中、明日の夜に予選突破の打ち上げをすることが決まった。


(無事に退院できて良かった……。でも、話し合うべきことも山積みだ。今後の方針も決めないと)


 ムビは顔を洗って外出し、馬車に乗り込む。

 向かう先は——クラナディアの大聖堂。

 目的は、呪印の解呪。


(以前は、スキルの鑑定のためにルイズさんを訪ねたんだっけ)


 ルイズも解呪は超一流だが、今回はモノがモノだ。

 この国一番の解呪の使い手に頼るしかない。

 大聖堂の頂上、99階の主。


(聖女、ティアナ様。若くして聖女に上り詰めた天才……)


 どんな傷も一瞬で完治し、死者すら100%の確率で復活させる最強のヒーラー。

 解呪もこれまで失敗したことがないという。


(この人ならきっと、この呪いも解除できるに違いない)


 現状のムビにとって、解呪は最重要課題だ。

 呪いさえなければ、ムビの力は解放される。

『四星の絆』のレベルアップを惜しみなく支援できるし、優勝する確率はグッと高まるだろう。

 逆に解呪ができなければ、『四星の絆』は本選出場パーティの中でも最弱。

 優勝は夢のまた夢だろう。


 ムビは保存袋に3億円を用意していた。

 解呪料金1億円+優先権2億円だ。

 優先権がなければ、聖女に会うのは何ヶ月後になるかわからない。


(うう……また借金しちゃった……。本選通過者だから、なんとか融資してもらえたけど……)




 ◆ ◆ ◆




 午後二時。ムビはクラナディアに到着した。

 まっすぐ大聖堂に向かい、天まで聳える塔を見上げる。


(前回は95階のルイズさんのところに行ったんだよなぁ。上の階層ほど凄い人がいるって話だったけど、最上階の聖女様はどんな人なんだろう……)


 相変わらず長蛇の列ができていた。

 受付の神父に2億円を支払い、ムビは行列を横目に大聖堂の中へ案内された。




 ◆ ◆ ◆




 最上階へ辿り着いたムビは、豪華絢爛な作りに目を見開いた。

 下を見下ろすと、クラナディアの街が一望できた。


「ムビ様。どうぞ、中へお入りください」


 従者に案内され、ムビは扉を開ける。

 中は、さらに豪華絢爛な作りになっており、王城にも負けないほど煌びやかだった。

 部屋の奥に装飾の施された大きな椅子があり、そこに少女が座っていた。


「こんにちは。はるばるようこそ。私は聖女、ティアナです。本日は、どのようなご用件ですか?」


 朝露に濡れた白百合のような少女だった。

 肩までの銀髪は、月光を編み込んだように淡く輝き、風が吹くたびにそっと揺れる。

 瞳は淡い水色で、涙を含んだような潤みが常に宿っている。

 まるで、誰かの痛みを代わりに感じ取ってしまうかのような、優しすぎる目をしていた。


 衣装は、純白のローブに淡い金糸で聖紋が刺繍されている。

 袖は広がっていて、光を受けてふわりと舞う。


「こんにちは、聖女様。ムビと申します」

「あら……あなたは、ひょっとして『四星の絆』のムビ様ではありませんか?」


 ティアナは手を叩いて歓声を上げる。


「あ……僕のこと、ご存知ですか?」

「もちろんです。予選は拝見しました。本選進出なんてすごいです」


 優しい表情を浮かべてニコリと笑う。

 あまりいい噂は無いはずだが、友好的に接してもらえているようだ。

 ムビは少し安心して話を続ける。


「ありがとうございます。実は、予選で魔物を討伐した際に、呪印が体に刻印されました。その解呪をお願いしたく参りました」

「まぁ、それは大変。今までつらかったですね。呪印を見せていただけますか?」

「はい。これです」


 ムビは肩に刻まれた呪印を見せる。

 ティアナは神妙な顔つきになる。


「ふむ……。強力な呪いのようですね。これはちょっと、本気を出す必要がありそうです」


 ティアナが手を翳すと、光と共に杖が現れた。

 マルスが聖剣を見せてくれた時と同じ光景だった。


「あっ……!聖女様、それって聖装ですか!?」

「あら、よくご存じですね。その通り、代々クローディア国の聖女に受け継がれている聖杖です。私とこの杖の力があれば、どんな呪文もたちまち解除できます」


 誇らしげに胸を張り、ムビも期待感が高まる。


「では、いきますね。"聖典解呪呪文(オルド・エクリシア)"」


 祝福の光がムビを包み、呪印へと収束していく——


 ——パァンッ!


 光が砕け散った。


「……あれ?」


 ムビは肩を確認する。

 呪印はくっきりとムビの体に刻印されたままだった。

 ティアナを見ると、目を見開き、言葉を失っていた。


「嘘……今まで、解呪できなかったことなんてないのに……」


 ムビの心は一気に落ち込み、ガクリと頭を落とした。

 やはり、魔王軍の残した呪い……そう簡単には解けないようだ。


(はぁ……せっかく2億円払ったのに、水の泡……)


「ぐすっ」


 鼻を啜る音がして、ムビは顔を上げた。

 ティアナが涙ぐんでいた。

 ムビも従者もぎょっとする。


「ごめんなさい……せっかく来てくれたのに、何の役にも立てなくて……」


 ティアナは顔を手で覆って号泣し始めた。

 従者がおろおろしながらティアナに駆け寄る。


「せ、聖女様!?だ、大丈夫です、こんなこともあります!……ほら!お前も聖女様を慰めんか!」

「えっ!?あ、あの……呪いが強力すぎましたね、ははは……」

「私の力が足りないばっかりに……う、うぐぅぅぅっ……!」

「貴様!聖女様を泣かせるな!」

「ええっ!?ご、ごめんなさい!」


 ティアナが泣き止むまで、しばらく時間がかかった。


「取り乱してごめんなさい。解呪に失敗したのは初めてで……」

「いえ、そんな」

「あの……よろしければ、呪印が刻印されるまでの経緯を教えていただけますか?」

「わかりました」


ムビは、経緯を詳細に説明した。


「魔王軍の……そんな化物が、現代に現れるなんて……」


ティアナはしばらく物思いにふける。


「ムビさん、お代はお返しします。あの……もしよろしければ、連絡先を教えていただけませんか?」


 従者が驚愕する。


「せ、聖女様……!?何を……」

「私なりになんとか解呪する方法を見つけようと思うので、解呪の見通しが立てばまた連絡させていただこうかと……」

「聖女様!こやつ一人のためにそこまでする必要はありません!聖女様は多くの人を救う責務が……」

「いえ。誰一人として、私を頼った方を見捨てるわけにはいきません。お願いします」


 ティアナと従者の押し問答が続き、結局従者は押し切られた。

 ムビはティアナと連絡先を交換した。


(すごっ……聖女様の連絡先を手に入れてしまった……)


「呪印のことで何か分かったら、また連絡します。本当に、力になれず申し訳ありません」


 ティアナは終始ぺこぺこと頭を下げていた。


(聖女様って底抜けに優しいんだなぁ……)


 ムビは大聖堂を後にし、帰りの馬車に乗った。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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