第20話 ムビと『白銀の獅子』の接触2
ムビは部屋の片付けをしていた。
時刻は18時55分。
まもなく『四星の絆』の4人がやってくる。
片付けは大丈夫だよね?
散らかっているところは無いよね?
ムビは時間ギリギリまで部屋をチェックする。
遠くから、おぉー!ここがムビ君の家かぁー!と女子のはしゃぐ声が聞こえてきた。
直後、コンコンとドアをノックする音がする。
「どうぞー」
ムビがドアを開けると、4人の美少女が入口の前に立っていた。
「おっ邪魔っしまーす♪」
「差し入れ一杯買ってきましたよ」
「へぇ~、綺麗にしてるじゃん」
「お邪魔しますわ」
皆私服に着替えていて、凄く可愛い。
ムビはドギマギした。
「狭いですけど、どうぞ上がってください」
「失礼しまーす♪」
部屋の真ん中に低いテーブルがあり、その周りに皆が座る。
「いっぱい買ってきましたよー。飲みましょう♪」
「ピザも注文してるからもうすぐ来るよー♪」
「どれどれ、エロ本はどこかな?」
「こらっ、ルリっ!」
ピザも届き、テーブルには御馳走が並べられた。
「それではMV完成を祝しまして、乾杯~♪」
ユリの発声で宅飲みがスタートした。
「いやー、ほんと今までで一番良いMVになったんじゃないかな?」
「ムビさんが動画を作ってくださいましたし、反響間違いなしですね」
「そうそう!今までのMVで一番の再生回数が50万再生だし、ムビ君の動画100万再生は固いから、過去一になりそうだよね」
「優秀なプロデューサー様のおかげですわ」
皆、MVの完成度に満足しているようだった。
「いえいえ、皆さんの魅力が伝わる様にお手伝いしているだけですよ」
「ほう、私達の魅力とな?例えばどんなところだい?」
ルリは既に一本目の酒を空にしていた。
「えぇ?それはまぁ・・・歌の上手さとか、ダンスのキレとか・・・」
「ほうほう、他には?」
ユリも一本目を空にした。
「えぇっと・・・色々です」
「おっ、逃げたな?」
ルリにからかわれ、ムビは顔が熱くなった。
お酒が早くも回ってきたのだろうか。
酒もどんどん進み、場は大いに盛り上がり楽しい時間が過ぎていった。
「・・・でさ、うちのアイドルグループ『萌え娘』の○○ちゃんと配信者の××さん、実は付き合ってたらしいよ!」
「まじかー!!?うわ清楚系で売り出しといてやってんな!」
「これだからゲーム配信者は!」
女子が4人も揃っていることから、話題は恋バナがメインになっていった。
「うわー、アイドルでもお付き合いってするんですね」
「何言ってんのムビ君!?アイドルなんて皆男作ってるって!『エヴァンジェリン』なんか皆彼氏持ちなんだからっ!」
「えぇっ!?そうなんですか!?」
「そうそう!まぁアイドルも人間だししょうがないけどね。ほんとに彼氏いないのなんて私達ぐらいのもんよ!」
ルリが胸を張る。
「まぁ、忙し過ぎてそもそも彼氏作る時間無かったんですけどね」
「『エヴァンジェリン』時代もオジさんしか会う機会無かったもんねー♪」
「でも、最近はムビさんのおかげで時間にも余裕ができてきたのではなくて?」
「その通り!そろそろ彼氏欲しいわー!」
ムビはお酒が回って来たので、温かいお茶を飲みながら聞き役に回っている。
すごい、俺の家でアイドル四人が恋愛トークしてる・・・。
この間まで一人で寂しかったのに、こんなに仲良くしてもらえて幸せだなぁ。
ずっとこんな日が続いていけばいいのに・・・。
話題は四人の好みのタイプの話になり、それぞれが熱弁している。
ムビは幸せを噛みしめながらお茶を啜り、孫を見守るおじいちゃんのような気分になりながら微笑ましく聞いていた。
「で」
急にサヨがグリンと首を回してムビの方を見た。
「ムビさんはどんなタイプが好みなんですか?」
ムビは自分に話が振られると思わず面食らった。
「・・・え、僕ですか?そうですね、気が合う方なら誰でも・・・」
「ほう、気が合う・・・。つまり、私達なら誰とでも付き合えるということかな?」
ルリがニヤニヤしながら放った一言に、ムビは飲んでいたお茶が気管に入り咽る。
「ゴホッ、ゴホッ・・・!きゅ・・・急に何の話ですか・・・!?」
「あれー?私達とは気が合ってないってこと?」
「いや、そういうわけでは・・・」
「じゃあ付き合えるんじゃん♪」
ムビはルリの周りを見る。
既に空になった缶や瓶が大量に置かれていた。
完全に暴走している。
「えっ、ムビ君私達と付き合いたいの?急に困るよそんなー♪」
ユリの周りにも空になった缶や瓶が大量に置かれていた。
「でも、流石に全員というわけには参りませんから、誰か一人を決めていただかないと」
サヨも乗っかりだす。
ムビが何かを言う前に、流れるような連携プレーで話が進んでいく。
「なんか俺嵌められてません!?ダンゴールの気分なんですど!?」
「あっはっはwwそうだねぇ、ムビ君はダンゴールだよぅ?討伐方法教えてもらえないかなぁ~?」
ユリが酒の回ったトロンとした目で詰め寄ってくる。
「こら皆っ・・・ムビさんが困ってるでしょう?」
シノがテンパりまくっているムビに助け船を出す。
しかし、他3人の熱量が凄過ぎて、シノの制止が全然効かない。
「そうですわ、ムビさんは私達4人の中なら誰が一番タイプですの?」
「おぉー!いい質問♪」
ムビはなんとか言い逃れようとするが、しつこく迫られ全然逃がしてもらえない。
・・・くそっ、これがダンゴールの気分か・・・!!
「・・・あぁ、もうっ!皆さん可愛いですし、誰とか選べませんよっ」
ムビが苦し紛れで放った一言に、一瞬シン・・・と静まり返った。
「・・・へぇ~、私達のこと、ちゃんと可愛いって思ってたんだぁ~?」
なんだろう・・・皆の様子がおかしい。
お酒のせいか、顔の赤みが少し増して、目がトロンとなった気がする。
「これは益々答えてもらわないとだねぇ~」
「誰が一番可愛いですかぁ?」
「ほ~らムビ君、答えたらその人と付き合えるかもしれないぞ~?」
美少女達が、どんどん詰め寄ってくる。
どうしよう、逃げられない・・・。
コンコン
その時、入口のドアをノックする音がした。




