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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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199/206

第199話 耳かき配信

21時30分。

配信開始まで、あと30分。

ムビとルリは静かな部屋で打ち合わせをしていた。


「ASMR配信の概要は理解したかな?」

「はい。ルリさんの過去配信、全部見ました」

「ぜ、全部!?……相変わらず、すごいね」


ルリは苦笑しながらも、どこか誇らしげだった。

ムビは短時間でASMRの基礎から、ルリの配信スタイルまで徹底的に調べ上げていた。


ASMR——ここ1年ほどで『Mtube』を席巻し始めた新興ジャンル。

自然音や生活音を扱うチャンネルもあれば、配信者がロールプレイでリスナーに語りかけるスタイルも人気を集めている。

特に、バーチャルMtuber、通称『Vtuber』界隈では急速に注目度が高まっていた。


ムビの調査によれば、顔出しでASMRを行う配信者は、登録者10万人以上の規模ではまだ数えるほどしかいない。

アイドルとして活動するルリは、その中でも唯一無二の存在だった。


(ルリさん、着眼点が鋭いな……。これが当たれば、かなり熱いぞ)


ルリは三ヶ月前から週一でASMR配信を始め、すでに八本のアーカイブを残している。

どれも好評で、波に乗っていた矢先の一ヶ月休止は、さぞ悔しかっただろう。


(少しでも配信したい気持ち、分かるな……。今日の配信、絶対成功させないと)


「今日の配信は“形式的メイド”さんだよ」

「“形式的メイド”?」

「うん。ご主人様に対して、事務的にそっけなく対応するメイドを演じるの」

「要は、ツンデレみたいな感じですか?」

「そうそう、そんな感じ。配信画面には、メイド服を着た私の写真が表示されるよ。まぁ、ムビ君はじっとしてればいいから♪」


ルリはPCを操作しながらSNSで枠の告知を済ませると、立ち上がった。


「さーてムビ君、ちょっと準備するから待っててね♪」


そう言い残し、ルリは部屋を出て行った。


(なんだろう?トイレかな?)


ムビは魔力回路でPCと接続しているため、画面を見ずとも同接数やコメントの流れが把握できる。


(ふむふむ。順調に人が集まってきてるな)


待機画面をぼんやり眺めていると、ドアが開いた。


「お待たせ〜♪」


メイド服に着替えたルリが、満面の笑みで戻ってきた。

スカートは膝上、肩や胸元の露出も高め。

ムビは思わず目を見張った。


「ちょ、ちょっと……!ルリさん、その服……!」

「だって〜。この方が、気持ち入るでしょ?」


ルリはくるりと回ってみせる。

その姿は、サムネイルよりもずっと大胆だった。


「サムネより露出、高くないですか?」

「いいの、いいの。そこはムビ君へのサービス♪」


ルリがウィンクする。


「もうすぐ開始だけど、ムビ君、トイレ行くなら今のうちだよ?」

「そうですね、ちょっと行ってきます」


ムビはトイレを済ませて部屋に戻る。

21時55分。配信開始5分前。

なんだか緊張してきた。


「じゃあ、そろそろ準備しようか。“音遮断(エコーロック)”」


ルリは防音魔法を部屋全体に施した。


(ここまでやるのか……こだわりがすごいな)


「じゃあ、最終確認ね。配信が始まったら、まずは私が挨拶するから。その後“形式的メイド”始めて、終わったら私の挨拶で配信終了。分かってると思うけど、絶対声を出しちゃだめだよ?」

「もちろんです」

「それから、配信の進行の妨げになる行動もダメだよ?例えば、私が喋ってるのに離れようとする、とか」

「OKです」

「いよーし!それじゃあよろしくね♪」


配信が始まった。


「みんなー!久しぶりー♪元気にしてた?」


コメントが次々に流れる。


わこつー 

始まったー

久しぶりー

ルリ様ー


ルリはスパチャを読み上げながら、テンション高く配信を進めていく。

ムビはベッドに座ったまま、その様子を眺めていた。


(これが配信かぁ。思ったよりも、かなり声を張り上げるんだなぁ)


しばらくすると、ルリがムビに合図を送る。


「それじゃあ、“形式的メイド”始めるね♪」


マイクをオフにしたルリが、ムビの元へ駆け寄る。


「それじゃあお願いね、ムビ君?」

「はい」


ムビは自分の聴覚をPCに接続し、オンにする。


「——失礼します」


耳元で、いつもより低いルリの声が響いた。


(うわっ……いつもと声が全然違う。声優さんみたい……)


「ご主人様。就寝前に、生姜湯を持ってまいりました」


耳元でカップを注ぐ音が響く。


(うわ……この匂い、ほんとに生姜湯じゃん)


ムビは生姜が苦手だ。

体に良い、安眠効果がある、とは聞くが、苦味がどうしても受け付けない。


「どうぞ。早く飲んで寝てください」


ルリが冷たく促す。


「飲まないのですか?……ああ、苦手でしたね——生姜」


ムビはドキッとした。

一瞬、本当に話しかけられているのかと思った。


「——情けない。大人なのに、恥ずかしくないんですか?」


本当に生姜嫌いのムビに、ルリの言葉がグサグサと刺さる。


ぶひぃ

良い罵倒

もっと言ってください


一方、コメント欄はルリの冷たい態度に盛り上がっていた。


(リスナー、調教され過ぎだろ……)


「では、私はこれで……。えっ?寝る前に耳かきして欲しい?……はぁ。なんで私がご主人様に構わなきゃいけないんですか?残業代請求しますよ?」


辛辣な言葉の合間に、色気のある吐息が混じる。


「しょうがありませんね。ほら、寝てください」


ルリがベッドに座り、太ももをポンポンと叩いた。

右手には耳かきが握られている。


(えっ……これ、本当に耳かきするの……?)


ムビはベッドの淵に横になり、ルリの太ももに頭を乗せる。

ルリが髪をかき上げ、耳の中を覗き込む。


「うわっ……なんでこんなに汚れているんですか?」


顔から火が出るかと思った。

確かに、ここ最近耳の掃除をしていない。


(こんな大勢の前で指摘されるなんて……)


コメント欄はさらに盛り上がる。

ムビは恥ずかしさのあまり、涙目になっていた。


耳かきが耳の中をなぞる。


ガサガサ……ガサガサ……


あーいい音

音質がいい

なんかいつもよりリアル


コメント欄の反応は上々だった。

それもそのはず。だって本当に耳かきしてるのだから。


(やばい……耳掃除の音聞かれるの、思った以上に恥ずかしい……)


「ふー」


ふいに、耳に息を吹きかけられる。


(……ふわぁっ!?)


耳掃除としては何の意味もないが、ASMRとしては定石の一手。

耳の中を掃除されては、繰り返し息を吹きかけられる。


(ちょ……これヤバイ!)


「何をビクビクしているんですか?」


耳元で低く囁かれ、ムビは思わず声が漏れそうになる。


(これ……わざとなんじゃ……)


そっとルリの顔を見上げると、ルリは明らかにムビの反応を楽しんでいた。

目元に浮かぶいたずらな笑み。

その表情に、ムビは言葉を失う。


(ひ、ひどい……早く終わってくれ……!)

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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