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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第195話 聖装

「あっ、ムビさん」


 病院着姿のシノが、包帯を巻いた頭を揺らしながら朗らかに声をかけてきた。


「君は確か……ムビ君だね。ちゃんと話すのは初めてだね。『ドラゴンテール』のマルスです。よろしく」


 マルスは爽やかな笑みを浮かべた。

 ゼルのような外見だけのイケメンとは違い、言葉の端々や表情から、内面の誠実さが滲み出ている。


「あっ、『四星の絆』のムビです。どうも……」


 人見知りが発動し、ムビはペコリと頭を下げることしかできなかった。

 マルスの自然な振る舞いと比べて、自分の陰キャぶりが少し恥ずかしくなる。


「昨日の夜はユリさんがお見舞いに来て、今朝はサヨさんがお見舞いに来ていたよ。君にもぜひ、会いたかったんだ」

「は、はぁ……」


 一体マルスはいつから病室にいるのだろう。

 もしかして、シノが入院してからずっと付き添っていたのでは……?


「マルスは幼馴染なんです。予選で偶然再会して、一緒に行動していたんです」

「そうだったんですね。シノさんを助けてくださって、ありがとうございます」

「いや……肝心なときに助けられなかった。離れてしまったことを、今でも後悔してる」


 マルスの表情が一瞬、陰りを帯びる。


「ところでシノさん、具合はどうですか?」

「はい。もうすっかり良くなりました。明日には退院しようと思います」

「それは良かった……」


 ムビは安堵しつつも、どこか引っかかるものを感じていた。

 シノは以前も、仲間に心配をかけまいと強がっていたことがある。

 ネット上では、シノの切り抜きが拡散されていたが、あれで“平気”なはずはない。


「無理しちゃダメだよ。シノはいつも強がるから。悩みがあったら、医者に遠慮なく相談するべきだ」

「う……うるさいなぁ!本当に大丈夫だってば!」


 頬を膨らませるシノ。

 その素直な感情表現を、ムビは『四星の絆』以外の場面で初めて見た。

 マルスも、シノのことをよく理解しているようだ。

 二人の距離感が、自然と伝わってくる。


「さて。僕はパーティの集まりがあるから、そろそろ失礼しようと思う。その前に、ランチでも食べようかな。ムビ君、よかったら一緒にどう?」

「えっ……俺ですか!?」

「うん。シノがいつもお世話になってるし、ゆっくり話してみたくてね」




 ◆ ◆ ◆




 ムビはマルスとともに、近くのレストランに入った。


「いやー、光栄だね。『四星の絆』のムビ君と食事できるなんて」

「いえ……俺の方こそ光栄です。『ドラゴンテール』のマルスさんとご一緒できるなんて」

「ははは!そう言ってもらえると、僕も鼻が高いよ♪」


 マルスは実に気さくな人物だった。初対面とは思えないほど、次々と話題を振ってきて、ムビは料理に手をつける暇もないほどだった。

 気づけば1時間が経ち、ムビは『四星の絆』に加入してからの出来事をほぼ語り終えていた。


「なるほど!シノから聞いていたけれど、ムビ君は本当に頼りになる人だね」

「いえ、そんなことは……」

「謙遜しなくていい。君とミラがいなければ、遺跡の化物とやらは討伐できなかっただろう」


 ムビはようやく料理を食べる隙を見つけ、ハンバーグを一口食べることに成功した。

 料理はまだ半分残っている。

 冷め切ってしまう前に、マルスに話させ続けなければならない


「マルスさん。『ドラゴンテール』は、なぜそんなに強いんですか?戦闘を拝見しましたが、臨界者の域を遥かに超えていたと思います」


 いかに臨界者とはいえ、Aランクパーティ100人を蹂躙するなんて到底不可能だ。

 何か秘密があるに違いない。


「そうだね……本当はあまり話したくないんだけど、シノがいつもお世話になっているからね。ムビ君には特別に教えてあげよう」


 マルスは最後の一口を食べ終え、紅茶を口に含んだ。

 あれだけ話していたのに、いつの間に食べ終えたのかとムビは驚いた。


「人間のレベルは100が上限。そこに到達した者は“臨界者”と呼ばれる。これは常識だ。でも、実はその壁を超える方法がある」

「人間性の喪失、ですか?」


 マルスは目を見開いた。


「正解。よく知っていたね」

「いえ。シンラさんたち……ミラのパーティの方から聞きました」

「なるほど。彼女たちは亜人だから、当然知っているだろうね。彼女たちは、生まれながらに人間性を半分喪失している、と言える。だから、レベル上限100を超えて、人間では到底到達できない強さを身に着けることができる」


 マルスは紅茶を飲み干し、静かに続けた。


「でも、人間でも後天的にその壁を破る方法がある。“聖装”を装備するんだ」

「セイソウ……ですか?」


 ムビは初めて聞く言葉に、ハンバーグを口に運ぶことを忘れた。


「"聖装"とは、神の力が宿った装備品のことさ。装備者は人間の領域から逸脱した存在になり、レベル上限がなくなる」

「上限がなくなる……?引き上げられる、ではなく?」

「その通り。亜人のように、レベル上限が200になる、というわけではない。魔物と同じように、レベル上限という概念自体がなくなるんだ」


 レベル上限がない……。

 無限にレベルを上げられるなんて、夢のような話だ。


「その……マルスさんは、"聖装"を装備しているんですか?」

「ああ。常に装備しているよ」


 ムビはマルスの装備を見回す。

 盾も鎧もない。

 剣は持っているが、それが“聖装”なのだろうか?


 マルスはムビの視線に気づき、笑った。


「ははは。これは、普通の剣だよ。いや、これも結構高価な剣ではあるんだけど。"聖装"ではないかな」

「……ちなみに、どれが"聖装"なんですか?」

「ふふ。本当は秘密なんだけど、特別に見せてあげよう」


 マルスが手を翳すと、眩い閃光が走り、手中に剣が現れた。

 凄まじい魔力が空気を震わせる。


「聖剣ファフニール。普段は僕の体内に魔力の粒子として隠れている」

「す……すごい魔力ですね……。これが聖剣……」

「"聖装"は全て、持ち主の体と融合するんだ。持ち主の体は強化され、市販の装備品に身を包むよりも体が頑丈になる。だから、"聖装"を装備することができれば、他の装備品なんていらなくなるんだ。あまり見せびらかしたくないから、剣だけは別のものを持ち歩いているんだけどね」


(なるほど、だからマルスさんはこんなに身軽なのか)


「あの……ちなみに、マルスさんのレベルって……いくつなんですか?」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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