第19話 ムビと『白銀の獅子』の接触1
「よっしゃー!MV撮影終わったー♪」
『四星の絆』はスタジオで大はしゃぎしていた。
ムビは体内の魔力回路で動画編集を行い、数分でMVを作り上げた。
「皆さん、こんな感じでどうでしょうか」
「おぉー!超カッコいい!」
「これは相当伸びるんじゃないかな?」
「これは凄い・・・。このまま完成で良いと思います」
「私も、これで完成で良いと思いますわ」
「分かりました。ではこの動画をそのままアップロードしようと思います」
最近ずっと打ち込んできたMV撮影がようやく終わり、皆安心しているようだった。
「今日は打ち上げだー!」
「どこにしましょう?『箒星』を予約しておきましょうか?」
ムビはスマホを取り出し電話を掛ける準備をする。
「それもいいんだがねぇ・・・今日は行きたい場所があってねぇ・・・♪」
ユリが腕を組みながらニヤニヤする。
「どこでも構いませんよ」
「本当かい?それじゃあ、ムビ君のお家集合ということで♪」
ムビは驚いた。
「えっ、僕のお家ですか!?いや、狭い家で何もないですし・・・」
「いやいや、皆で話し合ったのだが、ムビ君がどんなお家に住んでいるか気になってねぇ♪」
ルリも話に乗っかってくる。
「私も興味がありますわ」
「色々自由に持ち込めますし、宅飲みも悪くないかと思いまして」
サヨとシノも賛成する。
別に部屋が散らかっているわけではないが、男子の一人住まいにアイドル4人て・・・。
「本当に何も無いですけど、大丈夫ですか?」
「うん、いーのいーの♪いっぱい持ち込むから♪」
「じゃあ、19時にムビ君のお家集合ね?住所教えて?」
ユリとルリが一瞬で話を詰め、こうして打ち上げがムビ宅で行われることが決まった。
その頃、前日に『キングトロール』の討伐を行った『白銀の獅子』が拠点に集まっていた。
「昨日は苦戦をしたが、Bランクの依頼、皆ご苦労だった。今日は大事な話があって集まってもらった」
「大事な話って?」
リゼがゼルに問いかける。
ゼルはついにこの話ができると、胸がワクワクしていた。
「あぁ。聞いて驚くなよ?王都でミラ・ファンタジアとメディア出演したんだが、帰り際に話しかけて、ミラとのコラボが決まった」
「えぇっ!?嘘でしょう!!?」
「本当なのか、ゼル!!?」
「あのミラ・ファンタジアですか!?」
皆が驚くのも無理はない。
ミラ・ファンタジアは『Mtube』登録者数1000万を超える、国内で5指に入るトップインフルエンサーだ。
しかもこれまで他の『Mtuber』とあまりコラボをしたことがない。
もしも『白銀の獅子』がコラボすれば、大きな話題になることは確実だ。
チャンネル登録者数増加、企業案件の増加、超大物との追加コラボ・・・どれだけの恩恵が得られるか想像もできない。
「俺達もついにそのレベルってことだ。皆、俺の交渉力に感謝しろよ??」
「当たり前だ!やっぱりお前は俺達の大将だ!」
「凄いよゼル!カッコいい♪」
「これは一世一代のチャンスですね!」
皆に褒めたたえられ、ゼルは昨日の苦戦など忘れて有頂天になった。
その様子を壁に寄りかかって見ていたヘンリーが質問をする。
「凄いですね・・・企画などは、もう決まっているんですか?」
「いや、まだだ。だが、ミラは一つ条件を出してきた。うちの『動画編集者』に会いたいとよ」
「えっ・・・私に、ですか?」
「違うに決まってるだろタコ。お前の前任者にだよ」
昨日のことがあり、ゼルは露骨にヘンリーに冷たく当たった。
ヘンリーはむっとする。
「ムビのことか?どうしてあいつなんかに会いたがってるんだ?」
ゴリが不思議そうな顔をする。
「どうも、うちの動画を気に入っているらしくてな。あいつ一人で編集していたと聞いて、興味が湧いたんだとよ」
それを聞いて、ヘンリーが青ざめた。
「・・・『白銀の獅子』の動画、あれは一人で編集していたのですか・・・!?てっきり、『白銀の獅子』の中に動画編集班が数名いるものと・・・」
「・・・?ああ、その通りだ。今はお前一人しかいないぞ。動画の品質と投稿頻度は落とすなよ?」
「む・・・無茶言わないでください!あんな動画毎日作るなんて無理です!せめて2~3日はいただかないと・・・」
「はぁ?何を言っているんだお前は?つくづく無能だなお前は」
「その話が本当なら、私が無能なのではなく、その方が化け物なだけです!そんな優秀な方をクビにしてしまったのですか・・・!?」
何を言っているんだこいつは?
ムビが優秀?
つくづく才能のない凡人の考えることは分からない。
「しかし、ムビさんはもういませんし、それは困りましたね・・・」
「ああ、だから、ミラとのコラボのとき、一日限りであいつをパーティに加えようと思う」
「おぉ、それは名案だな♪」
ゴリがこれで全て解決、と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
そこに、ヘンリーが口を挟む。
「ちょっと待ってください・・・追放されたメンバーが、そんな虫のいい話に首を縦に振るわけがないでしょう!?誠意を尽くして謝って、最低でもパーティ再加入を条件にしないと・・・!」
「俺達が謝る?何にだ?戦闘で足を引っ張りまくって、迷惑をかけていたのはあいつだぞ?」
ゼルは心底疑問だと言わんばかりの顔をしていた。
「少なくとも『動画編集者』としてはこの上なく優秀です!その一点だけでも、私は彼のパーティ再加入を強く推奨します!これまでと同じ動画の品質、投稿頻度を保ちたいのであれば、そのようにしてください!」
必死の説得を行ったヘンリーに対し、『白銀の獅子』の四人は、つまらないものでも見るかのような、心底不満げな顔をしていた。
こいつ・・・折角俺が盛り上げていたのに、場の空気を台無しにしやがって・・・。
やっぱこいつ使えねぇわ・・・。
「いいだろう、ムビを再加入させてやろう」
「ちょっとゼル・・・本気なの!?」
「俺は反対だぜ?ただでさえ今調子が悪いのに、あいつのお守なんてごめんだぜ」
リゼとゴリが憤慨する。
「そこは大丈夫。ムビのお守はヘンリーに任せる。こいつの実力は昨日皆も見ただろう?二人仲良く自衛と動画編集をしてもらって、俺達は戦闘に専念できるって寸法さ」
「なるほど、それは名案だな!」
「それならば問題ありませんね」
「えー、私は反対だけどなー」
リゼが不満そうだが、他のメンバーの合意は得られた。
リゼは後で説得すれば問題ないだろう。
「まぁまぁリゼ、ミラとのコラボのためだ。我慢しよう。邪魔になるようだったら、ミラとのコラボが終わってからまたクビにすればいいさ」
ヘンリーは信じられないとばかりに目を見開いた。
「よし、ではその方向でいこう。ミラとコラボを約束した日まで、あまり時間がない。今からムビの家に行こう」
「えっ、あいつの家に行くの?嫌よあんな狭いボロ屋!」
「まぁまぁ、何も家に上がって酒を飲むわけじゃあ無いんだ。玄関で話してすぐに帰ればいいさ」
「・・・私は初対面ですので、行くのもどうかと。私は遠慮いたします」
「そうだなヘンリー、お前は帰っていいぞ」
ゼルがしっしと手で払うような仕草をした。
「では会議はこれまで。皆、ムビの家に行くぞ」
帰り際、ゴリがヘンリーに肩組みをして話しかけた。
「悪いなヘンリー、あいつ気難しいんだ。俺はお前に助けてもらったし、感謝してる。時間が経てば、あいつも心を開いてくるからよ」
「はぁ・・・そうでしょうか」
「それに、お前は全然マシな方だよ。前任者のムビは、この10倍は言われていたからなww今度酒でも飲みに行こうぜ」
そう言って、ゴリはゼル達に合流し、ムビの家へ向かった。




