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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第188話 鯖折り

 浮遊カメラが結界の周囲を旋回し、シノの姿をあらゆる角度から捉えていた。


「だはは!お前、やっぱこれに弱えぇみたいだな!?(笑)ほら、カメラに映ってるぞ!?魚みたいに跳ね回れや♪」


 ゴリの声には、嘲笑と悪意が混じっていた。


「キイィィィッ♪」


 魔物が興奮したように声を上げ、シノの服の隙間から触手が這い回る。

 シノは歯を食いしばり、必死に耐える。


「だっはっは!お前よっぽど気に入られてんな!カメラにバッチリ撮られて、これじゃまるで見世物だぜ!だーっはっはっは!!」


 結界の前で大爆笑するゴリ。

 そんなゴリに、ゼルが背後から声をかけた。


「ゴリ。残り冒険者数が69人になった。恐らく、あと一組の脱落で予選終了だ。そろそろお楽しみタイムを終わらせろ」


 ゼルの指示に、ゴリは舌打ちする。


「ちっ、しょうがねーなー。まっ、充分楽しんだし、そろそろ決めるか♪」


 ゴリがニヤつきながら結界へと歩を進める。


 ——ブンッ


 無造作に振るった拳が、空気を裂き、結界を一撃で粉砕した。


「おら。いつまで楽しんでんだ、てめぇは?」


 ゴリはシノの背中に手を突っ込み、魔物の本体を鷲掴みする。

 そのまま、容赦なく引き剥がした。


「キィッ……!?」


 魔物はシノにへばりつこうとするが、ゴリの腕力がそれを許さない。

 触手ごと引きずり出され、粘液が飛び散る。

 触手の拘束から解放されたシノは、ベチャリと音を立てて粘液の海に崩れ落ちた。


「気持ちわりぃな。死ね」


 ——ブチュリ!


 ゴリは魔物の本体を、熟れたトマトのように握り潰した。

 触手が一瞬ビクリと震え、力なく地面に垂れた。


「だはは!歯ごたえゼロじゃねぇか!こんな雑魚に手こずるなんて、お前マジでド底辺だな??」


 ゴリの足元には、粘液の海に沈むシノ。

 もはやゴリの煽りに反応する気力も残っていなかった。

 時折小さく体を震わせ、呼吸するのが精いっぱいという様子だ。


「ぎゃはは!もう動く体力も残ってねぇってか?敵の前で甘えてんじゃねーぞ?」


 ゴリは勝ち誇った笑みを浮かべ、シノの胸ぐらを掴み、引き起こした。


「さぁーて、転移石はどこだ?」


 いやらしい目つきで、シノの体を念入りにボディチェックする。


「ここか?ここか?それとも……ここかぁ~??」


 ゴリは鼻息を荒げていた。

 シノは両腕をゴリに抱えられ、身動きが取れない。

 顔をしかめ、悔しさを滲ませている。


「おいゴリ。他の冒険者が脱落して予選が終わったらどうする?さっさと片を付けろ」

「……ちっ。へいへい、分かったよ。……おっ?この小さい袋が怪しいなぁ?」


 ゴリはシノの腰にぶら下がった保存袋の中身を確認する。

 五重に重ねられた保存袋の底から、転移石が現れた。


「ぎゃっはっは!見ぃ~つけた♪こいつを壊しちまえばおしまいだなぁ??お前のこれまでの努力は、ぜーんぶ無駄になる♪」


 ゴリは転移石を摘まみながら、シノの眼前で揺らす。


「お前、少しは仲間に申し訳ねぇとか思わねぇのよ?お前みたいな無能に足引っ張られてよー、可哀想で目も当てられねーぜ♪ぎゃーっはっはっは!」


 シノは悔しさのあまり、涙を流していた。

 今すぐ目の前の汚い顔面にぶち込んでやりたいのに、体に全く力が入らない。


「おいゴリ。そろそろ決めろ」

「まぁ、もう少し待てって。こいつには借りがあるんだ」


 ゴリが胸ぐらを引き上げ、シノの足が宙にぶら下がる。

 人形のようなシノに、ゴリが語りかける。


「お前……、決闘(デュエル)のことは覚えてるか?お前の膝蹴りで、俺ぁ前歯が数本抜けちまってよ。鼻も骨折して、呼吸もろくにできなかったんだぜ?大勢の目の前で、あんだけ恥かかされたのは俺ぁ初めてだったぜ。いまだに、お前の膝蹴りが夢に出てくるんだよ」


 そして、ニタリと、残酷な笑みを浮かべる。


「だから——あのときの恨みは、数倍にして返さなきゃな


 ——ギチイィィッ!


 ゴリがシノの腕を巻き込みながら、シノの体を鯖折りする。

 シノの華奢な体が万力のような力で締め上げられる。


「うわあぁぁぁぁッ!!!」


 シノが悲鳴を上げる。

 デバフで防御力の下がった体は、ゴリの怪力に耐えられるはずもなく、簡単に骨が軋む。


「へへへ♪このままゆっくり、苦しめてやるぜ♪」


 ゴリは余裕の笑みを浮かべながら、さらに力を込める。


 ——ギリギリッ


「ああーーーッ!!う……あぁぁぁーーーーーッ!!!」


 シノの華奢な体が悲鳴を上げる。


「ぎゃはは!どうした、ムビがいなきゃ何にもできねぇのかお前は?ほらほら、命乞いでもしてみたらどうだ?俺の気が変わるかもしれないぜ!?」


 シノは直感的に、絶対に気が変わることはないだろうと悟る。

 だが、あえて挑発に乗る。


「た……助けてください……お願いします」


 シノの懇願を聞いて、ゴリが笑顔を浮かべる。


「ははは!『助けてくださいゴリ様』、だ!」

「た……助けてください、ゴリ様……」


 ゴリの口角が限界まで上がる。


「助けるわけねぇだろ、バーカ!!」


 ——ぎゅうううっ!


「……うわあぁぁぁーーーっ!!」


 シノは足をバタつかせながら苦痛の叫びをあげる。


「お……お願いします!助けてください、ゴリ様っ……!」


 苦しみながら懇願するシノに、ゴリの締め付けの圧力が弱まる。


「へへへ……もっと情けなく懇願してみな?そしたら、気が変わるかもしれないぜ?」


 シノは弱り切った表情をするが、内心、全く諦めてはいなかった。

 ゴリは絶対的優位に立ち、油断している。

 弱ったフリを見せ、優越感に浸らせれば、すぐにはトドメを刺されない。

 少しでも時間を稼ぎ、その間、他の冒険者が脱落することに賭ける。


「ゴリ様っ……お願いします!どうか私を許してください……!何でもしますから……」


 ゴリの締め付けの圧力がさらに弱まる。

 ゴリは目を見開いていた。

 女性に全くモテないゴリだ。

 そんなゴリが、現役アイドルの美少女に、涙ながらに懇願される……。

 どれだけ憎い相手だろうとも、シノの演技は、男性にとって破壊力抜群だった。


「おい、ゴリ……」

「わ、分かってるよ。へへへ……もう少し遊んだっていいだろ?」


 シノの作戦は通用しているようだ。

 どれだけ粘れるか分からないが、1分でも、1秒でも粘って見せる。


「ゴリ様……お願いします……」


 シノの潤む瞳に、ゴリはしばらくたじろいだ。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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