第187話 カメラの前で
「おい、見ろよ。カメラが来たぜ♪」
ゴリのその一言に、シノは顔を上げる。
ゴリのすぐ後ろに、カメラが浮遊していた。
カメラはそのままゆっくりとシノに近付いていく。
(ちょっ……!何で近付いてくるの!?)
カメラは結界の目の前まで迫り、空中で停止した。
低俗な魔物に弄ばれるシノの痴態が、全国に放送される。
「だははは!よかったじゃねぇか!アイドルなんだから、カメラ向けられて嬉しいだろ??」
シノは怒りに体が震えた。
エヴァンジェリンに散々妨害され、一切映ることのなかった全国放送。
ようやくカメラを向けられたのに、ブラウン管に映るのは、粘液塗れの中、触手に拘束されうずくまる情けない姿。
「お前、ずっとテレビ出たかったんだろ?ほら、笑顔でWピースでもしてみたらどうだ?だーっはっはっはっは!!」
「う……わあぁぁーーーッ!!!」
シノは全力で暴れた。
触手の拘束を振りほどこうと、渾身の力で身をよじる。
だが、抵抗するシノを見て、ゴリはニヤニヤと笑みを浮かべた。
「おっ、まだそんな力が残ってたか?おい、マリー」
「《力減少》」
シノの体から力が抜けていく。
(くそっ……!またデバフ……!)
「《力上昇》」
魔物にバフがかけられ、触手の締め付けが強まる。
——ギチィッ!
一瞬緩みかけた拘束は、前以上にきつく体を締め上げた。
皮膚に食い込む感触が、シノの呼吸を奪う。
(ダメだ……力が入らない……)
筋肉が言うことを聞かない。
心はまだ折れていないのに、体がついてこない。
「ははは!なーにがS級冒険者だよ!こんな低俗な魔物の拘束も破れねぇでよ!ザコ過ぎて茶の間で笑われてんぜ、おめぇ!(笑)」
シノは身をよじり、何度も脱出を試みる。
だが、力は入らず、体は微動だにしない。
見悶えるシノを捉えながら、カメラはさらに寄ってくる。
レンズが無遠慮にシノの姿を追い続ける。
「お願い……映さないで!」
顔を背けても、カメラのレンズはシノを逃さない。
冷たい視線が、まるでシノの心をも覗き込むようだった。
「へへへ、エロ過ぎてたまんねぇぜ♪お前、アイドルなんかより、こういう方が向いてんじゃねぇか?AVデビューでもしたらどうだ?んん??」
シノの絶望に満ちた表情が、カメラに鮮明に映し出される。
この映像を、きっと大勢のファンが見ている。
絶対に弱みを見せたくない人たちも。
切り抜かれ、SNSで拡散され、アンチが喜々として騒ぎ立てるだろう。
(こんな情けない姿……絶対に見せたくないのに……!)
怒りと悔しさが胸を焼き、目の奥が熱くなる。
「キィ♪」
魔物の嬉しそうな鳴き声に、シノは背筋を凍らせた。
粘液が乾き、魔物はいよいよ触手を蠢かせた。
「おっ?そろそろ触手も動き出すか?なら、視聴者のためにも、応援してやらなきゃな♪おい、マリー」
「《雷属性付与》」
——パチパチッ。
魔物に雷属性が付与され、触手が微弱な電気を帯びる。
「へっへっへ♪さぁーて、カメラの前で、たっぷり可愛がってもらえよ??」
◆ ◆ ◆
放送スタッフルームは、全員画面にくぎ付けになる。
「へへへ……こりゃすげぇな」
「『四星の絆』のシノだっけ?スゲェいい体してんじゃねぇか」
「さすが現役アイドル。顔もピカ一だぜ」
「へへへ……おい、もっとカメラ近付けようぜ」
男性スタッフの中には涎を垂らしている者もいる。
「おい、視聴率はどうなっている?」
「かなりキープしていますよ。悪くない数字です」
「そうか……、なら続行だな」
「もっとエロいアングルで、視聴者を満足させてやりましょうや」
スタッフたちは謎の一体感に包まれていた。
「おぉっ、すげぇ跳ねた!まだビクビクしてやがる」
「いい画だ。もっとカメラ近付けろ」
プロデューサーの指示により、スタッフはカメラを操作する。
「うはぁ、見ろよあの触手!すげぇいやらしい動きしてんな」
「服の上からでも丸わかりだな。あんなのに犯されるとか、どんな気分なんだろうな」
「いやいや、『四星の絆』は性犯罪者抱えてる集団なんだろ?案外慣れてるかもしれねぇぜ」
「へへへ……AVよりよっぽど抜けるんじゃねぇか?」
「俺、この子のファンになっちゃいそう……」
「ちくしょー、俺もやりてぇー」
スタッフルームは、徹底的に『白銀の獅子』視点のカメラに集中し、下種な笑いがいつまでも響いた。
◆ ◆ ◆
「ふはは!さすが『白銀の獅子』、やるではないか!」
王は放送を見て歓声を上げていた。
傍らの家臣も放送を見守る。
「残り2組。ギリギリでしたが、なんとか『四星の絆』は脱落しそうですね」
「奴らにはふさわしい最後だな♪公衆の面前でこのような辱めを受けようとは!ワハハ!」
「いやー、それにしても絶景ですな」
「うむ。器量だけは良いな。娼婦としてなら雇ってもよいかもしれん♪」
王はご満悦で酒とチーズを口に運んだ。
「結局、全てワシの思い通りになるのだ!この予選が終わり次第、あのムビとやらには最前線への徴兵令をプレゼントしてやろう。ワハハ!」
その後も、放送は『白銀の獅子』視点の映像が流れ続けた。
王室には、王の笑い声が何度も響き渡った。




