第185話 愛してるゲーム
ムビとミラは探知に反応があった地点に徒歩で向かい、遭遇した冒険者を倒した。
「またハズレじゃのう」
「地道に探すしかないね」
ムビは転移石を見た。
表示されている冒険者の残り人数は145人。
朝からすでに100人近い冒険者が脱落した計算だ。
今日はかなり早いペースで冒険者の数が減っている。
「シンラさんたちがかなり削っているみたいだね」
「うむ。しかし、いくらなんでもシンラたちだけではここまで減らんじゃろうしのう。全体的に、今日は活発に戦闘が行われておるようじゃのう」
「『四星の絆』の皆、大丈夫かな……。心配だなぁ」
「なに、皆頑張っておるじゃろう。ゆっくり探して行けば、そのうち見つかるじゃろ」
ミラは気まずそうにチラチラとムビを見た。
この状況を受けて、早く移動したいと言い出しやしないだろうか。
それは困る。
せっかくムビと二人きりなのに。
できるだけ長引かせたい。
最悪でも夜まで……できれば一日。
その後なら、瞬殺でこの予選を終わらせよう。
日が高く昇っていた。
もうすっかりお昼時だ。
「なぁムビ。一旦昼飯休憩でもしないか?ワシ、腹減ってのう」
本当は別に、大して空腹ではない。
だが、ムビとゆっくりできる時間が欲しい。
「あっ、そうだね。じゃあ、一旦お昼ご飯にしようか」
ミラの顔がパッと輝く。
ムビも実は、そこまで焦っていなかった。
『ミラと愉快な仲間たち』がムビのパーティ加入を認めてくれたからだ。
『四星の絆』が仮に敗退しても、『ミラと愉快な仲間たち』が優勝すれば、ムビの借金3000億円の利息が0%になる。
利息返済の目途が立ったムビにとって、既にこの大会はあまり意味を持たない。
今行っている捜索も、大会のためというよりは、純粋な四人の安否確認の意味が強い。
ムビ個人としては、今すぐ転移石を割って敗退しても構わない。
だが、せっかく数十年ぶりに行われている貴重な大会だ。
行けるところまで勝ち進みたいと思っているメンバーもいるかもしれない。
ユリなんかは間違いなくそのうちの一人だろう。
ムビが自主的に転移石を割った、などと知れば、怒られるかもしれない。
二人は近くの岩に腰かけ、保存袋の食料を口にした。
「ふふふ。ムビとこうして冒険できる日がくるとはのう♪」
「確かに。もう絶対、口なんか聞いてやるかって思ってたもん」
「その節はすまんかった。じゃが思った通り、お主との冒険は楽しいよ」
ミラが微笑み、ムビは少し照れる。
ミラは少し真っすぐすぎる、とムビは思った。
「まぁ、確かに。俺も思ったより楽しかったよ」
「ははは。こうやって、これから5人で冒険していけたらいいのう♪」
「『四星の絆』の仕事の合間だったら、いつでもいいよ」
「分かっておる。ワシらを楽しませる冒険なんて、そうそう毎日転がってるわけないしのう。面白い冒険が見つかったらその都度集まる、というパーティでいいと思う」
とは言いつつ、ミラの本心としては、若干の寂しさもある。
理想は、ムビと毎日一緒にいたいのだ。
「なぁムビ。ワシ、アイドル目指したらどうなると思う?」
「えっ……急にどうしたの?」
「いやいや、ふと思ったのじゃ♪アイドルプロデューサー目線で、ワシがデビューしたらやっていけるじゃろうか?」
ムビは改めてミラを見る。
綺麗な顔立ち。
可愛い声。
生まれ持った愛嬌。
どれも、その辺のアイドル以上の魅力がある。
うん、絶対うまくいくだろう。
「そりゃ圧倒的知名度あるし、絶対うまくいくでしょ」
けどあえて、そのあたりには触れない。
「えー?そういうんじゃなくて、素材としてワシを見て欲しいんじゃ!」
ミラは、そのあたりに触れて欲しかったらしい。
「うーん。まぁ……大丈夫、だと思う」
控え目なムビに対し、ミラはニヤニヤする。
「ふーん……ワシ、可愛いと思う?」
「え……?多分、アイドルとしてはやっていけると……」
「そうじゃなくて!ムビが可愛いと思うか聞きたいの!」
要するに、可愛いの一言が聞きたいようだ。
「ま、まぁ……」
ムビは、できるだけミラが調子に乗らないように細心の注意を払ったつもりだったが、ミラをウキウキさせるには十分だった。
「そうかー!ワシのこと可愛いと思っておったか♪いやー、それならそうと言ってくれれば良かったのにー♪」
「いや……周りに散々言われてるんだから、自覚あるでしょ」
「そうじゃないの!ムビに言って欲しいの!」
ミラはムビの膝をパシパシ叩く。
「ワシもムビのこと可愛いと思うぞ♪」
急な不意打ちパンチ。
「いや……別に……」
「なんじゃ、顔が赤くなっておるぞ♪あれっ、もしかして照れておるのか??」
わざとらしく様子を伺うようなミラの仕草が癪に障る。
「いや、男だし、可愛いなんて言われても嬉しくないし」
「えー?じゃあかっこいいとか言われる方が嬉しいのか?しょうがないなー」
ミラはすっと、顔をムビに近付ける。
「かっこいいぞ。ムビ」
普段見せない凛々しい顔。
謎のイケボ。
ムビは思わず吹き出す。
「やーい、照れたからムビの負けー♪」
煽り顔で小躍りするミラに、ムビはイラっとする。
「別に照れてない!笑っただけ!」
「ほーん?なら、愛してるゲームするぞムビ♪」
ムビはキョトンとする。
「なにそれ?」
「『愛してる』って交互に言い合うんじゃ。照れた方が負けな♪」
「……はぁ?何それ、やんないし」
「あれー?ひょっとして、照れ顔見せるのが恥ずかしいのかなー??」
照れ顔はともかく、煽り顔だけは超一流だ。
「いいよ。別にどうってことないし」
「よし!じゃあワシからいくぞ?ムビ——」
ミラはムビの手を取り、顔を近付ける。
絶対普段人に見せない表情。
「愛してる///」
「ぶふっ!」
咳き込むムビの目の前で、ミラの小躍りが始まる。
「やーい!ムビの負け—♪」
「あのさ……その、普段絶対しない顔するのやめて!?」
「なんじゃー、ギャップ萌えに弱いのかー?」
「違うっ!笑っちゃうの!」
「なーにが笑っちゃうのじゃ顔赤くして!」
「あ……赤くなってない!」
「はい論破ァ!顔真っ赤ァ!」
ミラは水を得た魚のようにウキウキする。
調子に乗ったミラには勝てそうにない。
「ほらほら、次、ムビが先攻な?はいどーぞ♪」
勝手に2回戦が始まる。
ムビは言葉に出そうとして、言い淀む。
(あれ……?これ、言われるより言う方が恥ずい……)
ムビの心を見透かしたかのうように、ミラがニヤニヤする。
「あれー?まだかなー?早く言ってくれないと日が暮れちゃいそうなんだけどー?」
ムビは勝手に顔が赤くなっていく。
「ムビパイセン、降参ですか?ひょっとしてワシのこと、ほんとに愛してる?」
ミラの煽り芸が止まらない。
(くそっ……!愛してるっていうだけだ!さっさと言ってしまえ!)
ムビはキッ!とミラを睨んだ。
「あ……あいしてる……」
ムビは自分で言って恥ずかしくなった。
(くそー!噛んだし、声震えた!めっちゃ恥ずい!)
しかし、ミラは目を見開いた。
「へ……?」
直後、顔がぼっと赤くなった。
「あっ。赤くなった」
「ほ、ほーう?少しはやるようじゃのう?」
ミラは腕を組んで顔を背け、照れ隠しする。
内心、心臓バクバクだった。
(なんじゃ今の!?反則じゃろ!!?ワシ、愛してるゲーム、人生初敗北なんじゃが!?)
ムビはようやく反撃のチャンスが訪れたことを悟り、ふふんと笑う。
「愛してるよ、ミラ」
「なっ……なななななな!?」
ミラの顔から湯気が立ち上る。
「どうしたのミラ、こっち向いて?あ・い・し・て・る」
ムビも段々慣れてきた。
攻撃呪文だと思ったら、全然恥ずかしくない。
「な……なんじゃお主、急に積極的になりよって!」
「いやいや、積極的も何も、そういうゲームだから♪ほらほら、目を合わせてー」
ミラはチラッと、ムビと目を合わせる。
「愛してる」
「ぐはぁっ」
ミラは矢で射抜かれたようにのけ反った。
ムビに言われたら、心に深くぶっ刺さる。
魔物の精神攻撃の100倍効く。
「えへへ……。俺の勝ちね?」
照れながら勝ち誇るムビの顔さえいとおしく見えてしまう。
「しょ、しょうがない。お互い先攻1キルで終わったから、1勝1敗じゃ。では、3回戦を……」
「何言ってるの、もう終わり。ほら、行くよ」
「えっ!そんな、あと1回だけ……!」
「だーめ。ご飯食べ終わったでしょ?もう行くよ」
ミラはしばらく駄々をこねたが、見かねたムビが先に進み出したので、慌てて後を追いかけた。




