第182話 出会って5秒で○○
ミラはムビに抱きつきながら、風を切って空を飛んでいた。
「あ……あの、ミラ。俺も空飛べるから……」
「ん?お主、スピードが落ちておるじゃろ?ワシが抱えた方が圧倒的に速いぞ♪」
そう言って、ミラはさらにムビを強く抱きしめた。
「で……でも、こんなに密着しなくても……」
「いやいや、万一落としたら大変じゃ!しっかり抱えておかねば♪」
(抱えるっていうか……。この態勢だと、胸が当たって……)
「おっ?探知に反応ありじゃ!行ってみるかのう♪」
ミラは急降下し、森の中にふわりと着地する。
目の前には、冒険者が4人。
「おっ、お前……!ミラ・ファンタジア……!」
冒険者たちは武器を構える。
「なんじゃ、ハズレか」
バチバチバチバチッ!
ミラのデコピンが炸裂し、2秒で戦闘が終わる。
あまりの早業にムビはあっけにとられた。
「えーと、転移石は……おっ、あったあった♪」
気絶した冒険者を物色し、転移石を見つけたミラは、すぐさま砕く。
冒険者たちは光に包まれ転移した。
「すご……出会って5秒で全滅じゃん……」
「まぁ、ワシにかかればこんなもんじゃ♪」
ムビのステータスは現在レベル100相当に下がっている。
今の状態だと、ミラの戦闘は全く目で追えない(恐らく、ミラにとっては戦闘ですらないが……)。
これが普通の感覚だと思うと、ムビは冒険者たちに同情した。
(この戦法、エグくないか?広範囲探知で見つかったら、高速飛行でミラが目の前に現れるって……。何もできずに終わるじゃん……)
「おっ?遠くにも反応があるな?」
ミラはムビを抱えて飛び立つ。
レベル100のムビの体感時間では、気づいたらもう空を飛んでいた。
「ま、待って……!早すぎ……」
言い終わる前に、ミラは地面に着地する。
「おっ、お前……!ミラ・ファンタジ——」
バチバチバチバチッ!
目を回したムビが顔を上げる頃には、既に戦闘は終わっていた。
「こいつらもハズレ……っと」
ミラは転移石を見つけ、破壊する。
「ミ、ミラ……ちょっと休憩していい?早すぎて酔っちゃって……」
「あ、すまんかったのう!少し休むか」
うなだれるムビの横にミラは腰かけた。
「弱体化してより感じるんだけど、ミラはやっぱり化物だね」
「ふふ、まぁワシがその気になれば、こんな予選すぐ終わるからの♪」
笑顔を浮かべるミラの言葉には、一切の誇張を感じられなかった。
「この調子だと、仲間が集まる前に予選が終わっちゃいそうだね」
「そうじゃのう♪なんならあと1時間以内に……」
そこでミラは、あっと声を上げる。
「どうしたの、ミラ?」
ミラの脳内では、計算が行われていた。
(おいおい……せっかくムビと二人きりなのに、1時間で終わらすのか?ワシのアホ!あまりにも勿体なかろうが!——なんとか一晩、もたせるんじゃ……!そうすれば、あんなことやこんなことが……)
「ミラ……大丈夫?」
「あ……ああ、大丈夫じゃ!……あっ!なんかワシも気分悪くなってきた!そういやワシ、飛行酔いするんじゃった!やっぱり飛び回るのはいかんのう!」
ムビはキョトンとした表情をした。
「えっ……?昨日、あんなに飛び回ってたのに?」
「あ……あれは我慢してたのじゃ!戦闘中だったしのう!ワシ、もう頭がグルグルして吐きそうじゃ!すまんが、これから先は徒歩じゃ!」
「あ……うん……」
ミラの熱量にムビは押し切られた。
「……おっ?早速反応ありじゃ!行くぞ、ムビ♪」
ムビとミラは、そのまま歩いて森の中を移動し始めた。
◆ ◆ ◆
「はぁ……はぁ……」
シノは茂みの中に身を隠していた。
先程から、魔物に執拗に追われている。
「ゴフッ ゴフッ」
シノとの距離、10メートル。
二足歩行の巨大な豚が、鼻を鳴らしながら周囲を嗅ぎ回っていた。
(まずい…完全に狙われてる…)
オークロード。
討伐推奨レベル80、Bランク最強種の魔物。
発情期には人間の女と交尾するため、人里を襲う習性がある。
(うっ……悪臭がここまで……)
オークロードの体は不潔を極めている。
体にわずかでも触れた作物は、食べられなくなると言われている。
一方、戦闘能力は極めて高く、単体で村一つを滅ぼした事例がいくつもある。
(戦っても絶対に勝てない……。なんとかやり過ごさないと……)
「フゴ フゴッ」
オークロードは涎を垂らしながら、豚鼻をピクピクさせる。
(お願い……このまま、どこかに行って……)
シノの願いもむなしく、オークロードはシノを発見する。
オークロードの嗅覚は非常に鋭く、数百メートル先の女性の匂いを嗅ぎ取る。
「プギィー!」
オークロードは雄叫びを上げ、シノに接近する。
(ダメだ、勘付かれた!)
シノは素早く茂みから走り出す。
オークロードとの距離、5メートル。
(速い……!どんどん距離を詰められる……!)
オークロードはスピードに特化した魔物ではないが、レベル差があり過ぎてスピード負けしている。
「くそっ……!」
シノは手当たり次第に木を殴る。
折れた木が障害物となるが、オークロードはなぎ倒しながらシノを追ってくる。
(このままじゃ、いつか追いつかれる……!)
——そのとき
グニュッ
シノは何かを踏みつけた。
(何……この感触?)
ビュルルッ!
ぬめる何かがシノの足に巻きついた。
「きゃあっ!?」
シノはバランスを崩して転倒する。
無数の触手の生えた魔物がシノの生足に絡みついていた。
(触手の魔物……!?)
シノは触手を振り解こうとするが、逆に絡みつかれる。
「嘘でしょ!?こんなときに……!」
もがけばもがくほど全身に触手が巻き付き、身動きが取れなくなった。
「フゴッ」
猛烈な悪臭。
背後に、巨大な魔物の影。
シノが振り返ると、目の前にオークロードが立っていた。
涎をベトベト地面に垂らし、生殖器らしきものがそそり立っている。
「ブギィッ!」
オークロードがシノに掴みかかった。
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