第181話 多勢に無勢()
放送席は、100人の冒険者に囲まれた『ドラゴンテール』に注目していた。
「なんと!『ドラゴンテール』が完全に囲まれてしまいました!セキさん、これはどういう状況でしょうか?」
「おそらく、優勝候補を潰すために徒党を組んだ冒険者たちが動いたのでしょうな。数の暴力は褒められたものではありませんが、戦略としては実にクレバーですな」
「いかに『ドラゴンテール』といえど、これはさすがに多勢に無勢なのでは…?」
「通常なら敗退確実な状況と言えるでしょう。しかし、『ドラゴンテール』ならばあるいは……」
裏方のスタッフルームでは、視聴率の急上昇に歓喜の声が飛び交っていた。
「うひょー!視聴率がグングン上がってやがる!この3日間で最高記録更新だぜ!」
「『ドラゴンテール』の本気の戦闘シーンだからな!しかも、まさかの大ピンチときた!国民の半分が、画面の前で手を合わせてるだろうぜ!」
プロデューサーの怒号が飛ぶ。
「おい!ミラはまだ映らねぇのか!?」
「今、転移石の位置情報をもとに、浮遊カメラを3台向かわせています!」
「浮遊カメラ、現地に到着しました!まもなく、ミラが映ります!」
スタッフルームのモニターに、ミラの姿が映し出された。
「こ……これは……!?」
「こっちも囲まれてるじゃねぇか!?」
「ど、どうしますか?ドラゴンテールとミラ、どちらをメインに放送しますか!?」
「5分おきに切り替えろ!放送席にはミラの状況を伝えるんだ!くぅ~っ!これで視聴率がさらに上がるぞ♪」
◆ ◆ ◆
ムビとミラたちは、数多の冒険者に四方を囲まれていた。
「なんじゃあ?お主らは?」
ミラの問いかけに、冒険者の1人が答える。
「へへへ……。俺たちは、優勝候補を潰すために徒党を組んでるのさ。わりぃが、ここで消えてもらうぜ?ミラ・ファンタジア」
冒険者たちは一斉に武器を構えた。
軽く50人は超えている。
(そういえば、俺も勧誘されたっけ。スネルさんと同じことを考えていた冒険者がいたってことか)
勝利を確信しているのか、冒険者たちはニヤニヤと笑っている。
通常なら勝ち確の状況だ。気持ちは分かる。
だが、ここにいる化物たちは、眉一つ動かさない。
「あ~。わりぃんだがよ、こちとら刺激的な夜を過ごした後なんだわ。せめて、昨日来てくれたらなぁ~」
シンラが小指で耳をほじる。
「なんだ、どういうことだ!?」
「お前らじゃ、食後の運動にもならねぇーって言ってんだよ」
冒険者が笑い出す。
「ははは……!状況が絶望的すぎて、頭がおかしくなったか!?残念ながら、ここにいる者は皆、凄腕のAランクパーティだ!万に一つも、お前たちに勝ち目はない!」
シンラは小指に、ふっと息を吹きかけた。
「Aランクパーティどころか、全員臨界者でも物足りねぇんだよ。むしろ、殺さないように気遣うのがメンドクセェーんだわ」
「ぷっ……!お前ら、神話の世界の英雄気取りか?この状況で勝てる人間なんざ存在しねぇよ♪」
「まぁ、そこまで強くはねぇけどよ。神話の世界の化物なら、さっきまでやりあってたぜ」
冒険者たちは肩をすくめて失笑する。
「訳の分からんハッタリをwwそんなものが通じると思うなよ??」
——ブンッ
シンラが軽く拳を振る。
失笑していた冒険者は鼻血を撒き散らしながら、もんどりうって吹き飛んだ。
ついでに前歯が数本宙に舞う。
「なっ……!?」
冒険者たちの顔が青ざめる。
「わちゃー、顔面が陥没してら。おーい、死んでねぇか?」
「おっ、お前!何をした!?」
「挨拶代わりのジャブだよ。手加減したんだがなぁ」
「……全員、油断するな!手強いぞ!」
冒険者たちはバフ魔法で強化され、戦闘態勢に入る。
ムビは冒険者たちに同情した。
Aランクの魔物の群れを30秒で肉塊に変えるシンラに、一体どうやって勝つというのか。
「はぁ~。おいムビ、仲間を探しに行くんだろ?ここは私たちにまかせて、探しに行きな」
「えっ、いいんですか?」
「おうよ。ただ、そうだな……護衛が一人いるな。……よし!ミラ、お前ムビと一緒に行きな!」
「なっ、何っ!?」
ミラは、シンラがウィンクを飛ばしたのを見逃さなかった。
「すまん、恩に着るぞ♪」
「ははは。ムビ、全員見つかったらまたここに来いや。飲み直すぞ♪」
ミラはムビを抱えて、そのまま飛んで行った。
「お……おい、ミラが……!」
「構う必要はない!誰か一人の転移石を砕けばいいんだ!むしろ、最大戦力が消えてこちらが有利だ!一気に攻めるぞ!」
「へぇ。どっちが有利か、試してみるかい?」
シンラは拳を鳴らす。
「お前ら、Aランクパーティなんだろ?回復手段は十分だな?ポーションとMPが底を尽きるまで、半殺しにしてやるよ♪」
シンラは爽やかな表情で、ニッコリと笑った。




