第179話 最強パーティからの勧誘
ムビは目を丸くした。
「……え?」
「いや、なんていうかさ。私、冒険者活動なんてしたことないんだけど。今回初めてミラと組んでみて、こういうのも悪くないなぁって思って……」
ナズナの耳が垂れる。
「私ね、獣人だから、里の外には友達とかほとんどいないんだよ。好き勝手言えるのも、本当にここにいるバカ共ぐらいで」
「おい、聞こえてんぞ」
シンラが即座に突っ込む。
「ま、別に一人で生きていくのに不満があるわけじゃないんだけど。こうやってパーティを組んで冒険していくのも、悪くないなぁって思ったわけ。皆はさ、ぶっちゃけどう思う?」
シンラが腕を組みながら答える。
「そうさなぁ。正直私は、徒党を組む奴なんてザコだと思ってる口だ。鬼ってのは、そういう生き物だからな」
「いや、お前鬼人の中でも浮いてんだろ?」
「うるせぇな。私は同族だろうがなんだろうが、弱ぇのは嫌いなんだよ」
シンラが頭をかく。
「でもまぁ、お前らは強ぇし……。正直、一人で飲むよりも、酒が美味え。飲むついでに冒険するってんなら、まぁ付き合ってやってもいいよ」
「おうおう、なんだお前ツンデレか?」
「るせぇ!ぶち殺すぞ!」
シンラとナズナが小競り合いを始める。
ミラが笑いながら言った。
「いいのう♪ワシもずっとソロ活動してきたが、別に相手がいなかっただけだしのう♪お前らとなら、ワシは全然パーティを組みたいぞ♪シェリーはどうじゃ?」
シェリーは無表情のまま、少し考えてから答える。
「私はそうだねぇ……。魔法の研究ができるなら、どっちでもいいかなぁ」
「パーティには、後衛が必要だよ?シェリーにはいてもらわなきゃ困るっての!」
ナズナがシェリーと肩を組む。
「うーん……。まぁ、そんなに言うなら別にいいけど……」
無表情のシェリーだったが、長い耳がほんのり赤く染まっていた。
「よし、決まりだね♪前衛は私とシンラ、後衛はミラとシェリー!考えただけでワクワクするね♪」
ナズナは楽しそうに笑って、ムビに視線を向ける。
「さぁて♪あとはムビ君だけだ……」
「おう、ムビ!こうなりゃもう入っちまえ!ほら、酒だ、飲め飲め!ちなみに飲んだら、仲間入り確定な?」
シンラが笑ってムビに酒を注ごうとする。
ムビは慌てて手を振った。
「あっ、あの!すごく嬉しいんですけど、俺やっぱり『四星の絆』を抜けるわけにはいかなくて……!」
シンラがキョトンとした顔をする。
「何言ってんだ?そんなもん、両方入ればいいだろうが?ダメなのか?」
ムビがあんぐりと口を開けた。
シェリーが頭をかく。
「あー、シンラ?一応、冒険者は二重加盟は禁じられてるわけではないんだけど、結構ご法度みたいだよ?パーティ間の抗争に繋がりやすいみたいで……」
「なぁに言ってんだ!そんなこと気にする奴なんて、うちにゃいねぇだろ!?」
「うちにはいなくても、『四星の絆』が気にするかもしれないでしょ!?」
シェリーがピシャリと言う。
「ならよ、ムビ。お前、仲間を説得してこい」
シンラがずいっと、ムビに顔を近付けた。
「というかムビよ。結構マジで、うちのパーティに入った方がいいと思うぞ?お前、借金を返すためにこの大会に出てるんだろ?冷静に考えてみろ。本選は、パーティ同士のタイマンだぞ?『四星の絆』が、私たちに勝てると思うか?」
シンラの問いに対して、ムビは1秒も迷わず結論が出た。
絶対に無理だ。
この化物メンバーには、逆立ちしたって勝てっこない。
「どう考えたって無理だろ?というか普通に、この大会は私たちが優勝する。ぶっちぎりでだ。お前が『四星の絆』に所属したまま借金を返せる確率は、0%だぞ?」
嫌味でもなんでもなく、シンラはただ淡々と事実を告げる。
そして、声を潜める。
「……だからよ。うちらが優勝して王女の専属パーティになったら、お前、うちに入れ。二重加盟でいいからよ。そして、お前の借金の利息も0%にしてもらえ」
シンラの提案にムビは目を見開いた。
「えぇっ……!?」
「別に構わないだろ?王女は『四星の絆』じゃなくて、お前が欲しいんだ。ヤサが変わったって問題ねぇだろ?」
言われてみれば、確かに……。
リリスならそれでも構わない気がする。
「それに、私が言うのもなんだがよ。借金3000億は、さすがになりふり構ってる場合じゃないと思うぜ?お前も、お前の仲間たちも、『四星の絆』には思い入れがあるんだろうがよ。本当に仲間のためを思うなら、二重加盟くらい目を瞑って、借金返済に協力してやるべきだぜ?」
……うーむ。確かに『四星の絆』の皆なら、許してくれそうな気がする……。
「それによ、ムビ。一旦、所属とか立場とか、そういうメンドクサイのは取っ払ってよ。周りを見てみろ」
ムビは、ミラ、シンラ、ナズナ、シェリーを見回した。
「この最強メンバーに適した『動画編集者』が、お前以外にいると思うか?いねぇだろ」
シンラの言葉に、ムビは胸が熱くなる。
「そうそう♪ムビ君ってさ、戦闘もできるし、頭も回るし、料理も褒めてくれるし。うちのパーティに向いてると思うんだよね」
「おうおう、ナズナが褒めるなんて珍しいじゃねぇか。こりゃ本気だな?」
シンラがニヤニヤしながら茶化す。
「ちょっと! いつも褒めてるでしょ!? まぁ、ムビ君は素直だし、礼儀もあるし、うちのバカどもと違ってまともだからね」
「おいおい、バカどもって誰のことだよ!」
シンラが肉を頬張りながら抗議する。
ナズナはムビと肩を組む。
「まぁ、別に『四星の絆』を抜けろ、なんて言わないからさ♪時々一緒に来てくれるだけでもいいから、考えてみてよ♪」
正直、全然悪い話ではない。
むしろ魅力的でさえある。
ムビは少し考えて答えた。
「……分かりました。仲間と相談してみます」
シンラはニヤリと笑う。
「よっしゃ! 決まりだな! じゃあ、正式なパーティ名どうするよ? 『ミラと愉快な仲間たち』はダサイだろ?」
「えー!? ワシの名前が入ってるのに!?」
「じゃあ『ムビと愉快な化物たち』でいいんじゃね?」
「それ、ワシらが化物ってことになるじゃろが!」
「事実だろ? ぎゃっはっはっは!」
森に、笑い声が響いた。
朝の光が、5人の姿を柔らかく包み込む。
——そのとき。
「いたっ……!」
ムビの肩がチクリと痛む。
「どうしたんじゃ、ムビ?」
「ああ、いや……。魔物に最後攻撃されたところが、少し痛くて……」
その瞬間、ナズナが目を見開いた。
「……あれ?ムビ君、肩に変な紋章浮かんでない!?」
「え……?」




