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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第177話 暁の祝杯

 ムビは、極大魔法を放った地点に静かに降り立った。

 半径数百メートルが焼け野原と化している。

 "欠番の幹部"がいた辺りを確認するが、肉片はおろか、灰すらも残っていない。

 ――"欠番の幹部"の討伐に成功したようだ。


「ムビ!ようやったのう♪」


 ミラがふわりと舞い降り、勢いよく抱きついてくる。


「あはは……ミラのおかげだよ。こんなに凄い力を持っていたなんて、ビックリしたよ」

「何を言う?お主がおらねば奴を討伐するのは難しかったと思うぞ?もっと自信を持て♪」


 そのとき、大穴の中から顔を覗かせる影があった。

 周囲を見渡し、ムビとミラを見つけると、三人が勢いよく飛び出してくる。

 シンラ、ナズナ、シェリーだ。


「おいおい……なんだこりゃ。地形が変わっちまってるじゃねぇか」


 焼け野原を見て、シンラが苦笑する。


「おお、お前たち!上がってきたか!」

「おう!どうやら終わったみてぇだな!」

「魔力の圧が消えたから、登って来たんだ」

「ステータスをほとんど持って行かれて、地上まで来るのも一苦労だったけどね」


 三人は息も絶え絶えだった。無理もない。

 今の三人のステータスは、低級冒険者と変わらない水準まで落ちているのだから。


「ごめんなさい。ステータスをお返ししますね」


 ムビはスキルを解除すると、全員のステータスが元に戻った。


「うひょー!力が漲ってくるぜ!」

「ほんと、ステータスがない状態はもうコリゴリだね。魔物に遭遇したら一巻の終わりだもん」


 ナズナは、デバフ耐性の指輪をはめながら笑う。


「本当に皆さん、ありがとうございました。皆さんのおかげで、あの魔物を退治することができました」

「なぁに。お前がいなきゃ、私たちも多分死んでるわ。お前にゃ感謝してるぜ、ムビ?」


 シンラが屈託のない笑みを浮かべた。


「おっ、見ろ!夜が明けるぞ♪」


 東の空から太陽が昇り始め、森全体を暖かい光で包んだ。

 それは、一晩中続いた激闘の終わりを、森全体に告げるようでもあった。


「はぁ~、まったくしんどかったぜ。まさか、こんな大仕事になるとは思わなかった」


 シンラが肩を叩く。


「ほんとだよね。予選を生き残ったっていうより、世界の危機を救ったって方がしっくり来るよ」


 ナズナも日の光を思いっきり浴びながら目を細めた。


「あれは多分、悪魔種の中でも最上級だったと思う。古の魔王軍幹部並の強さだったんじゃないかな」


 シェリーが冷静に分析する。


「ちげぇねぇ!あーあ、これでタダ働きなんざやってらんねぇ!酒だ、酒!祝杯だ!」

「おお!いいねー♪」


 ムビは驚いた。


「えぇっ!?今から飲むんですか!?」

「バッキャロウ!今だから飲むんだよ!勝利の後は祝い酒って決まってんだろ?それに、お前らの戦いっぷりをまだ聞いてねぇしな♪ま、飲みながら語れや!ガハハ!」

「ほんじゃあ、昨日のとこね!先に行って肉焼いとくわ♪」


 ナズナが一瞬で姿を消す。


(速い……さすがスキル《瞬神》)


「おーし、そんじゃあ気合い入れて飲むぞー♪」


 五人は昨日、宴会を開いた場所まで移動した。

 朝焼けの中、仲間と味わう勝利の美酒は格別だった。

 肉にかぶりつきながら大声で笑い続け、日が完全に昇りきっても、どんちゃん騒ぎが止むことはなかった。




 ◆ ◆ ◆




 森の冒険者たちは、巨大な魔力の波動が消えたことを察知し、安堵していた。

 ただ、困惑するパーティが一組あった。

『白銀の獅子』である。


「どうなっている!?なぜ、魔力が消えた!?」


 ゼルは苛立ちを隠せなかった。

 転移石に表示されている数はほとんど減っていない。

 まだ250人ほどの冒険者が残っている。


「……ひょっとして、森の外に移動したとか……?」

「そんなわけないだろう!突然魔力が消えたんだぞ?」

「じゃあ、倒されたとか……?」


 ゼルは黙り込む。

 恐らく、そうなのだろう。


「考えられるのは——ミラ・ファンタジア。あいつしかいない」

「まじかよ……魔王軍の幹部だぞ!?ミラは、そこまで化物なのか……!?」

「ふん……魔王軍の幹部ってのも、大したことないってことだな」


 ゼルは鼻を鳴らした。

 所詮はかつて人類に敗北した負け犬の残党。

 期待したのが間違いだったのだろう。


「ともかく、予選も終盤戦だ。冒険者の数もかなり減っている。ここからは自力で、なんとしても予選を突破するぞ」




 ◆ ◆ ◆




『ドラゴンテール』とシノは朝食を取っていた。


「朝方の巨大な魔力の正体は分からないけど、なんとかなったみたいだね」

「この森、夜は訳が分からないことばかり起きるわね」

「できれば、今日の昼のうちになんとか予選を終わらせたいな。冒険者の数も、かなり減っているようだし」

「そうだな。今晩、また何が起こるか分からない。今日は積極的に冒険者の数を減らしに行こう」


 シノは魔物の肉を噛みながら、申し訳なさそうに口を開く。


「あの……私、そろそろ皆さんと離れた方が……」


『ドラゴンテール』のメンバーはシノを見つめる。


「どうしたんだい、シノ?」

「いえ、正直とてもありがたいんです。でも、私の実力では皆さんの足を引っ張ってしまうし……。それに予選なのに、いつまでも皆さんのご厚意に甘えてばかりでは申し訳なくて……」


 マルスは優しく微笑む。


「気にしなくていいんだよシノ。俺たちはちっとも、負担だなんて思っていない」

「でも、孤立してるのは私の自己責任だし……」

「君が一人なのは君のせいじゃない。システムの手違いだろう?せめて、君が仲間と合流するまでは、俺達と一緒にいた方が安全だ」

「……いいの?ごめんね、ありがとう」


 シノは引け目だけが理由で提案したわけではなかった。

『ドラゴンテール』が今後積極的に戦闘を行う方針は、間違っていないと思う。

 だが、レベル50前半のシノには、敗退のリスクが高まる選択だ。


『ドラゴンテール』の強さは本物だ。

 だが、もしも相手パーティがシノに狙いを集中したら?

 それに、もしも……『ドラゴンテール』がシノを裏切ったら?


『ドラゴンテール』のメンバーは気のいい人々だ。

 だが、もしも予選突破まで残り1組……シノを倒せば予選通過という状況になっても、彼らはシノを守ってくれるだろうか?


 何事も可能性はゼロではない。

 シノは、ムビの借金返済のためにも、必ず生き残ると決意していた。

 例え幼馴染のマルスといえど、絶対に油断するわけにはいかない。


 そのとき。

 ジュリが、ピクリと反応する。


「……来るわね。冒険者が。しかも、複数パーティ」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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