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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第175話 飛翔

 復活した"欠番の幹部"を目の当たりにし、五人は息を呑んだ。


「おいおい……あいつ、生き返ったぞ」


 ミラは顎に手を当て、考える仕草を見せる。


「うーむ……。シェリー、どう思う?」

「普通は、核を壊せばってパターンだと思うんだけど……こんな化物になると、自信ないな」

「ふむ。確実に倒すなら、完全に消し去るしかないようじゃな」


 "欠番の幹部"は翼を広げ、甲高い咆哮を上げた。


「ギィィィィッ!」


 五人は身構える。


「く……来るか!?」


 ——バサッ バサッ。


 だが、"欠番の幹部"は五人に向かってくることなく、天井の大穴へと飛び立ち、そのまま姿を消した。


「お……おい!あいつ、地上に出る気じゃ……!?」

「嘘!?あんな化物が地上に出たら、大惨事だよ……!」


 ミラは大穴の真下まで駆け寄り、"欠番の幹部"の姿を視界に捉える。


「追うぞ!あやつを仕留めにゃならん!」


 ナズナが困惑した表情を浮かべる。


「追うって言っても……どうするの?ミラでも倒しきれない化物なんて、どうしようもないじゃん?」


 ミラはニカッと笑った。


「大丈夫じゃ!ワシらにはムビがいるじゃろう♪」


 突然名前を呼ばれたムビは驚いた。


「えっ……俺……?」

「ムビよ。シンラ、ナズナ、シェリーのステータスを貰い受けろ。ワシとお主の二人で奴を倒すんじゃ。な、簡単じゃろ?」


 ムビは呆然と立ち尽くす。

 ステータスを自分に集中させる……考えたこともなかった。


「お……俺より、シンラさんやナズナさんの方が適任なんじゃ……」


 好戦的な二人だ。きっと引き受けると思った。だが、シンラが口を挟む。


「いや……私も、ムビが適任だと思う」


 ムビは驚いた。


「えっ!?どうして……?」

「私やナズナは、直接奴に触れることができない。魔法を使えるムビやシェリーの方が適任だ。とはいえシェリーだと、接近戦に不安がある。近距離、遠距離どちらもこなすミラと連携が取れるのは、同じく近距離、遠距離で戦えるお前しかいない」


 ナズナも頷く。


「確かに、ムビ君が適任かも!」

「で、でも……ステータス上昇スキルを持つ皆さんの方が……」


 ミラはムビを真っすぐ見つめる。


「お主、自分のことを無意識にサポート要因と思っとらんか?お主はワシが認めた男じゃ、胸を張れい♪お主の力は、お主自身を強くするためにあるんじゃ!」


 シンラがムビの背中を叩く。


「私は、お前になら任せられるぜ?私たちのステータス、持ってけ」


 ナズナとシェリーも頷く。


「しょうがないな、力を貸してあげようじゃないか♪」

「負けたら承知しないからね?」


 皆が、全ての力をムビに託そうとしてる。

 こんなことは、『白銀の獅子』はもちろん、『四星の絆』でもなかったことだ。


「……分かりました。皆さんの力……お借りします!」


 ムビの心は、不思議な高揚感に満たされていた。


「さっ、ムビ君!早くスキルを!」


 ムビはスキルを発動した。

 シンラ、ナズナ、シェリーのステータスを自分に集中させる。


 ——ドクン!


 ムビに三人分のステータスが一気に集まる。

 あまりのエネルギー量に驚いた。


(す……すごい力だ……!これなら……!)


 ミラは微笑むと、ムビに向かって拳を突き出す。


「さぁ、行くか♪任せたぞ、相棒?」

「お……おう」


 ムビも遠慮がちに拳を突き合わせた。




 ◆ ◆ ◆




 木のうろの中から、ユリは外の様子を伺っていた。


(どうしたんだろう……今日は、魔物が全然来ないな……)


 もうすぐ朝だ。

 一晩中うろに隠れて転移石を見ていたが、夜の間も数字はほとんど減らなかった。

 今晩は魔物の襲撃が起きていないと考えるのが妥当だ。


 昨日の魔物の襲撃は突発的に起きただけなのだろうか?

 それとも、誰かが既に解決してしまったのだろうか?


(ムビ君なら、できるかもなぁ……。ああ、会いたいなぁ……)


 ムビが近くにいてくれたら、どれだけ心強いだろうか。

 うろの中に隠れていようと、魔物に遭遇しようと、ムビと一緒ならちっとも怖くない気がする。


(むしろ、二人っきりの方が……って、何考えてんだ、私)


 そのとき——


 ——ズズン!


 強烈な魔力の圧がユリを襲う。


(な……何なの、これ……!?)


 今まで感じたこともないほど、膨大で、凶悪な魔力。

 直感的に、ここにいたら死ぬ、という予感がする。


(こ……怖い……)


 ユリは動くことができず、自分の体を抱き締める。

 本能は逃げろと全力で警鐘を鳴らしているのに、理性は下手に動くべきではないと叫ぶ。

 まるで大津波や火砕流が目の前に迫っているのに、身動きがとれずにいるような……。


「助けて……ムビ君……」


 ユリは暗闇の中で蹲り、小さく悲鳴を上げた。




 ◆ ◆ ◆




 森にいた冒険者たちは皆、安息の夜にホッとしていたが、突如感じた魔力の圧に戦慄していた。

『ドラゴンテール』も、例外ではなかった。


「なんだろう、この魔力……」

「これ……まさか、単体の魔物が発しているの……!?」

「もしそうだとすれば……化物だな……」


 シノは体が震えていた。


「シノ、大丈夫?」


 マルスが心配そうに声をかける。


「ごめん……魔力にあてられちゃって……」

「仕方ないよ。俺たちだって、この魔力はキツイ」


『ドラゴンテール』とシノは、魔力の感じる方向を油断なく見つめていた。




 ◆ ◆ ◆




 森中の冒険者たちが恐怖で慄く中、歓声を上げる冒険者たちがいた。

『白銀の獅子』である。

 ゼルは高揚していた。


「はは……この魔力!ついに復活したか!!」


 ゴリも同調する。


「ったくよ!『両面宿儺』の奴ら、古の魔王軍なんてほざきやがったときには半信半疑だったが、この膨大な魔力!こいつぁ、マジだな!」


 ゼルは勝ち誇ったような笑みを浮かべてゴリを見た。


「今夜はシャドウサーヴァントが森に出現しなくて心配していたがな。これで、"欠番の幹部"が残りの冒険者共を一掃してくれるだろう」

「俺達だけは、シャドウサーヴァントが見逃してくれてたもんな♪いやー、ただじっとしているだけで予選が終わって、ラクチンだったぜ♪」

「まぁ、のんびりと冒険者が減るのを待つか。おい、リゼ、酒を出せ」


 リゼはゼルを睨みながら、言われた通りに酒を出す。


「はは。そんな眼をしても、ギアスには逆らえないぜ?」


 ゼルはリゼの悔しそうな顔を肴にしながら、森の片隅で祝杯をあげた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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