第174話 ミラ VS 欠番の幹部
フロア中央で“欠番の幹部”と対峙するミラの姿に、四人は息を呑んだ。
ムビが、亜人の三人に問いかける。
「あの……ミラって、あの化物と渡り合えるくらい強いんですか……?」
ナズナが答える。
「分からない……。ミラの全力を、まだ見たことないから……」
シンラが苛立ちを隠さず、声を荒げる。
「くそっ!ミラの野郎……私との喧嘩は、本気じゃなかったな!!?」
「ミラと喧嘩したことあるんですか!?」
「おうよ。鬼に変化して、引き分けみたいな形で終わったけどよ。どうやら、手を抜いていたらしい」
「……ミラは、勝てると思いますか?」
「私たち四人で勝てなかったんだ。いくらなんでも、厳しいと思うが……」
そのとき、欠番の幹部が羽を広げ、空気を震わせるように羽ばたいた。
ミラの周囲に大量の羽が舞い降りる。
しかし、ミラは何もしない。
「バカ、ミラ!避けろって……!!」
大量の羽がミラの全身に降り注ぐ。
欠番の幹部はニヤリと笑った。
しかし——ミラの体に、何の変化もなかった。
「ギィ……?」
欠番の幹部は戸惑いを見せる。
「直接触れなきゃいいんじゃろ?なら、全身を魔力でコーティングすれば大丈夫じゃ♪」
よく見ると、ミラの体の周囲には、数センチの魔力の層が形成されていた。
「ちょっと……あんなもの維持しながら戦うつもり!?魔力の消耗、半端ないよ!?」
「それとも、魔力量にそれだけ自信があるのか……」
欠番の幹部が爪を振り下ろす。
ドガァッ!
ミラが受け止めた瞬間、足元が陥没し、粉塵が舞い上がる。
「おぉ!やはり凄い一撃じゃのう♪なら次は、ワシの番——じゃっ!」
バキイィィィィッ!!
ミラは欠番の幹部を殴りつけ、巨体が壁まで吹き飛んだ。
欠番の幹部はヨロヨロと立ち上がる。
それを見て、ミラの顔がパッと輝いた。
「おぉっ!立ってきおった!ちゃんと殴って死ななかった奴は初めてじゃ!お前、強いのう♪」
ミラは笑いながら接近する。
欠番の幹部は反撃するが、全て躱され、ミラにタコ殴りにされる。
ムビと亜人の三人は呆然と立ち尽くしていた。
「おいおい……マジで、あいつ一人で倒しちまうんじゃねぇか……」
「ミラって、こんなに強かったんだ……」
「……あいつひょっとして、神話の時代の勇者や魔王並に強いんじゃ……?」
欠番の幹部は血を吐き、満身創痍に陥っていた。
ミラはペットに話しかけるような口調で言う。
「おい……大丈夫か?少し、強く殴り過ぎたかのう?」
その瞬間、幹部の表情が憎しみに染まり、魔力量が跳ね上がる。
「おお!まだ、力を隠しておったか♪」
「——ギィッ!」
欠番の幹部の周囲に巨大な魔法陣が展開される。
羽ばたくと、巨大な風の刃が放たれた。
ミラは飛んで躱すが、地面から壁にかけて、底の見えない穴が一直線に伸びる。
「うはぁっ!ヤバい魔法を持っておるのう!」
ミラは再び殴りかかる——
バチィッ!
「——む?」
幹部の周囲に結界が展開され、ミラの攻撃は弾かれた。
宙に浮かぶミラに向けて、ブレスが放たれる。
——カァッ!
今までとは比べ物にならない、ミラの全身を覆う程の巨大なブレス。
ミラに直撃し、ブレスは天井を突き破る。
「うわああああああっ!」
遺跡が崩れそうな程の地響きが起き、四人は地面に伏せて耐える。
地響きが収まり、フロアを見ると、天井に大穴が開いていた。
穴の奥から夜空が見える。
「なんてブレス……。あの化け物、まだ本気じゃなかったんだ……」
「ミラ……!おい、あいつ、死んだんじゃ……!?」
欠番の幹部は、天井の大穴を見つめていた。
「Grr……」
大穴の先。
宙に浮かぶ、人影が見えた。
「……やるのう、お前!ダメージを負ったのは、久しぶりじゃ♪」
欠番の幹部の口が大きく開く。
もう一度、ブレスを放つつもりだ。
「もう一発くるか?……ならワシも、秘蔵の魔法を見せてやるぞ♪」
落下しながら、ミラの周囲に魔法陣が展開される。
——カァッ!
特大のブレスが、ミラに向けて放たれた。
ミラの瞳が淡く輝き、空間が震え始める。
万象は沈黙し、時は凍てつく
光は裂け、闇は胎動する
魂は震え、理は崩れ、意志は一点に収束す
我は告げる、終焉の律を
古より刻まれし契約に従い
今、地を均さん
空間が裂け、光が奔流となって降り注ぐ。
「極大魔法——《終焉の極光》!」
巨大な彗星のような光が放たれる。
ブレスと衝突し、真っ二つに裂きながら、欠番の幹部に降り注ぐ。
「——ギィッ!!?」
幹部は結界を展開するが——
————————ッ!
フロアは轟音と眩い光に包まれた。
四人はあまりの眩しさに目を瞑る。
光が止み、恐る恐る目を開けると……欠番の幹部の肉片が、バラバラになって散乱していた。
「嘘だろ……倒したのかよ……」
ミラが着地し、笑顔で四人に駆け寄る。
「いやー、久々に楽しかった!すまんな、一人で倒してしまって♪」
「ミラ……ちょっと、強すぎない……?」
ムビが感嘆の声を漏らすと、ミラは頬に手を当てて、身を捩って喜んだ。
「そうかのぉー?ムビに褒められると照れるのう♪どうじゃ?ワシ、カッコ良かったか?」
「う、うん……カッコ良かったよ?」
「そうかそうか!ワシ、カッコ良かったか!何なら惚れ直してもいいんじゃぞ?」
ムビに引っ付くミラに、シンラが舌打ちする。
「てめぇ……私とやった時は、手ぇ抜いてやがったな?」
「いや、抜いてなどおらんぞ!素手の喧嘩ならあんなもんじゃ!」
「それが手ぇ抜いてるって言うんだよ!次は本気でかかってきやがれ!」
ミラとシンラが取っ組み合いを始める中、ナズナとシェリーが呆れた表情を浮かべる。
「全く、これだけ戦った後なのに、まだ喧嘩するのか……」
「それにしても、ミラがこんなに化物だったとは……。これ、大会は優勝確定だな……」
ズル……
そのとき、肉を引きずるような音が響いた。
振り向くと、欠番の幹部の肉片が、床を這いながら集まっていく。
「お……おい……まさか……」
グチュグチュ……。
肉片が融合し、再び一つの形を成していく。
血と魔力が混ざり合い、異様な気配がフロアを満たす。
「ギィィィィ……!」
不気味な声を響かせ——欠番の幹部が復活した。




