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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第170話 魂の祭壇

 モリ—はほくそ笑んでいた。


「明日のトップニュースはこうだ。『リリス様、錯乱し王と委員会を惨殺、自らも自殺』……と」

「あら、私を打ち取るおつもりですか?」

「馬鹿が!我らは剣の達人!いかに王女といえど、三対一では成す術もあるまい!」


 ジリジリと、リリスの包囲網が狭まる。


「死ねぇっ!!」


 リリスの背後から二人が飛びかかる。


 ——ヒンッ


 一瞬、甲高い音が響いた。


 直後、二人の首がワインの栓のように弾け飛び、血飛沫が舞う。


「は……?」


 モリ—の目が驚愕のあまり見開かれる。

 リリスはくすくすと笑った。


「どうしましたか、達人のモリーさん?私の剣、見えましたか?」

「お、お……おのれぇーーーっ!!」


 モリ—は剣を振り上げるが、振り下ろす前に両手首を両断された。


「ぎゃああああああああッ!!!」


 転げ回るモリ—の顔面を、リリスは躊躇なく踏み抜く。

 衝撃で、床が砕け散った。


「あまり暴れてはいけません。血が勿体ないですよ?」


 モリ—の顔面は陥没し、すでに意識が飛んでいた。


 王は机の下から頭を覗かせながら、震える声で言った。


「で、でかしたぞ、リリス!お前がおらねば、殺されるところじゃった……」

「ありがとうございます、お父様。では皆様、冒険者の転移の準備を進めてください」


 リリスが剣を鞘に納めながら言った。


「お、お待ちください、リリス様!」


 幹部の一人が声を上げる。


「予選を中止してしまうと、その責任が委員会に向けられます!此度の委員には、王やリリス様も加わられております!ひいては、王族にも責任追及が及ぶかもしれませんぞ!?」


 リリスは目を丸くする。


「どうでもよいではありませんか、そのような些事。国が滅ぶよりは、遥かにマシです」

「そんなことはありません!王の権威に傷がつけば、国の衰退に繋がります!我らは、身命を賭して王を守るのが務め!であれば、今しばし検討するべきでは……!?」


 リリスは王やベック、幹部たちを見回す。

 皆、似たような表情を浮かべていた。


(これは、今晩中に決まりそうにありませんね)


 リリスは溜息をついた。


「そうですか。では、私はこの者を尋問いたします。皆様は、予選の中止についてご検討ください」

「あっ、リリス様……!」


 誰かが呼び止める声を背に、リリスはモリーの身体を引きずり、会議室を後にした。


 外に出ると、冷たい夜風がリリスの白い頬を撫でた。

 ふと、月を見上げる。

 美しい満月が夜空に浮かんでいた。


(ムビ様、どうかご無事で……)


 リリスは夜空に向かって跳躍し、屋根を飛びながら、闇の中へ消えて行った。




◆ ◆ ◆




「はぁ……はぁ……グフッ!」


 血に濡れた足音が、石畳に響く。

 グリモールは壁を支えに、八層の通路を這うように進んでいた。

 背後には、亜人の気配。

 シャドウサーヴァントが時間を稼いでいるが、もはや希望は薄い。


 通路を抜けると、グリモールは遺跡の最深部に辿り着いた。

 そこは広大な大広間。

 奥には祭壇があり、二つの人影が静かに佇んでいた。


「おや、あなたがやられてしまうとは」

「これはもう、助からぬのではないか?」


 祭壇の前にいたのは、『両面宿儺』のノームとゲロッグだった。

 グリモールは頭を下げる。


「お見苦しいところを。侵入者は、想定以上の強さでした」

「ミラはともかく、亜人たちも、あなたを倒すほどの実力者だったとは。召喚の儀はどうするおつもりで?あと少しというところなのに」

「御心配には及びません。儀式は必ず成功します。ここは危険です、お二人はお逃げください」

「ほっほ、分かりました。帰ってボスに伝えておきます。『儀式は成功した』と」


 ノームは転移石を取り出す。


「おい、良いのかじいさん?ワシらは予選敗退になるぞ?」


 ゲロッグがノームに話しかける。


「ほほ、問題無いでしょう。我らの他にも『両面宿儺』は予選に紛れ込んでいます。我らの任務は、あくまで儀式のサポート。あとは彼らに任せましょう」


 転移石が砕け、二人は光の中へと消えた。


 直後、通路から足音が聞こえる。

 亜人の三人が、大広間へと駆け込んできた。


「へへ……追い詰めたぜ」

「行き止まり……ってことは、ここが遺跡の最深部みたいね」

「ってことは、あれが祭壇……うっ!?」


 シェリーが口を押さえ、震え始めた。


「おい……どうした、シェリー!?」

「なんなのあれ……中に、無数の人の魂が閉じ込められてる……」


 祭壇の前に立つグリモールが、ゆっくりと振り返る。


「素晴らしい。たった数人で、ここまで辿り着くとは。感服いたしました」


「へっ……悪いが、その薄気味悪い祭壇は壊させてもらうぜ。そいつを壊せば、黒い魔物はもう呼べなくなるんだろ?」


 グリモールはニヤリと笑みを浮かべた。


「……どうやら、勘違いしているようだ。この祭壇は、主を召喚するためのもの。シャドウサーヴァントは、あくまでおまけ……。主が、魂を集めるために寄越した使い魔に過ぎない」

「……主だと?」

「そうだ。未だに覚えている。魔王さまと主に忠誠を誓った、あの日のことを……」


 グリモールはもはや立つ力も残っておらず、祭壇にもたれて座り込んだ。


「誇り高き千年であった……。未来永劫、忘れ得ぬほどの……」

「へっ……。悪ぃが、さっさと祭壇は破壊させてもらうぜ?」

「いや。もう遅い……」


 ——カッ!


 突如、祭壇を中心に巨大な魔法陣が展開される。


「な……なんだ!?」

「うわあああああっ!」


 シェリーが頭を抑えた。


「お、おい……どうした、シェリー!?」

「魂が……苦しんでる……!」


 シェリーの顔がどんどん青ざめていく。


 グリモールは笑みを浮かべながら、体が崩壊していく。


「良かった……。私の魂で、不足分は補えたようだ……」


 全てを察したシェリーが叫ぶ。


「これは……魂と引き換えの、悪魔召喚の儀式!こんな膨大な量の魂……一体、何を召喚するつもりで……!?」

「ふふ……残念です。主に虐殺されるあなたたちの姿を、この目で見てみたかった……」

「あの祭壇を破壊して!今すぐ!」


 ナズナが祭壇に向かって走り出す。

 しかし、繰り出した拳が、魔法の障壁によって止められた。


「なにこれ……結界!?」

「言ったはずです。もう遅いと」

「てめぇ……!いいのかよ!?自分の魂を犠牲にするんだぞ!?」


 グリモールはシンラを睨みつけた。


「貴様に分かるのか!?主なき、千年の空しさを!あんなものを再び味わうくらいなら、消えた方がマシだ!」


 ——バチバチッ!


 魔法陣が激しく光り始める。

 と同時に、祭壇の上空に巨大な顔が浮かび上がる。


「なに——あれ……?」


 ナズナが呟く。


「分からねぇが……ありゃ、良くねぇもんだ」


 シンラも厳しい表情を浮かべる。


 グリモールの高笑いが広間に響く。


「主よ……我が無念をお晴らしください……必ずや……魔王軍に、勝利を!」


 巨大な顔が口を開けながら地面に落ち——祭壇ごと、グリモールを飲み込んだ。

 顔は解け崩れ、蠢き——やがて、一体の巨大な魔物の形になった。


「へへ……ありゃ強ぇな……」


 膨大な魔力の圧がビリビリと伝わってくる。

 遺跡全体が震えているようだ。


「どうする……やるの?」

「あたりめぇだろ。あんなヤベェもんを地上に出すわけにはいかねぇ」


 魔物が顔を上げる。

 全身に白い毛の生えた、ドラゴンのような姿。

 全長は目測で約10メートル。

 しかし、顔は美しい少年のようだ。

 穏やかな表情で微笑んでいる。


 魔物は天使のような翼を広げた。

 幾百の羽が、広間に舞う。


「へっ……綺麗な羽じゃねぇか」


 舞い落ちる羽に、シンラの指先が触れた。


 ——ビキッ


「!?……ぐああああああっ!!?」


 羽に触れた部分から魔物と同じ白い毛が生え、シンラが苦悶の表情を浮かべる。


「それ、神経……!!?」

「ぐぅっ……!は、羽に触れるなっ!!」


 三人は懸命に羽を躱す。


「くそっ……!この羽、耐久性をゼロにする呪いか!」

「これじゃあ攻めきれないよ!」


 魔物はさらに羽ばたき、宙を舞う羽の量が数倍に増える。


「まずい!躱しきれねぇぞ!」


 そのとき、シェリーの声が響いた。


「"星霜の氷鎖標識(アビス・エーテリアス)"!」


 極大魔法が放たれ、宙に舞った羽ごと魔物を氷漬けにする。

 羽は、全て地面に落ちた。


「まじでナイスだ、シェリー!——ナズナ、行くぞっ!」


 シンラとナズナが氷漬けの魔物に躍りかかる。


「はあぁぁぁーーーっ!」


 ナズナが高速で動きながら、魔物の全身に闘気を込めた拳打を放つ。


「どいてろナズナ!」


 ナズナが飛び退き、シンラが懐に飛び込む。


「《螺旋竜煌砲》!!」


 ——ドオォォォォォォォン!!


 シンラの奥義が直撃し、広間が大きく揺れた。

 地面は割れ、砂埃が舞い上がる。


「さぁて……ちったぁ効いてると良いんだが……」


 砂埃が晴れ——そこに立っていたのは、無傷の魔物だった。

 氷は砕け、白い毛が再び風に揺れている。


「へへ……こりゃまずいな……」


 シンラの顔が引き攣った。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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