表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

168/203

第168話 逆三日月の紋章

 リリスは説明を再開する。


「映像の続きをご覧ください。ミラのパーティは遺跡の内部に侵入し、地下フロアにて《デスストーカー》に遭遇しました。ですが、エルフの放った魔法が浮遊カメラに直撃し、映像はここで途切れています」


 会議室の壁面に、遺跡内部の映像が投影される。

 石壁に刻まれた古代文字、響く足音、そして突如現れる巨大な影——《デスストーカー》の不気味な声が空気を震わせた。


「デスストーカー……。こんな危険な魔物までいるとは……」


 幹部たちが息を呑む中、王が眉をひそめて口を開いた。


「それも気になるが、なぜあの男が一緒に映っているのじゃ!?」


 映像に映るムビの姿に、王は憤りを隠せない。


「それは、私にも分かりません。しかし、ミラと同じく、彼は出場者の中でも屈指の力を持つ冒険者です。遺跡内部の探索に、強力な冒険者が集まるのは悪いことではありません」


 王は口を噤んだ。


(どうなっておる……。奴は、モンスター災害の渦中に落としたはず……。どうやって生き残ったのじゃ……!?)


「それよりも、壁画にご注目ください」


 リリスは映像を止め、壁画の場面を指し示す。


「これは……何かの儀式か?それに、紋章……?」

「まずは紋章から。この紋章は、魔王軍の紋章です」

「魔王軍の!?」


 会議室がざわめいた。


「双頭の竜に六芒星。文献に記される魔王軍の紋章と一致します。この遺跡が魔王軍と関係している証拠です」

「まさか……本当に《エルバニアの森》に、魔王軍の遺跡が眠っていたとは……」


 ベックが息を呑む。


「加えて壁画は、《魂喰の儀》《深淵招来式》を描いています。人間の魂を生贄にし、悪魔を召喚する儀式です。恐らく、遺跡の最深部に祭壇があると考えられます」

「なんとおぞましい……」

「つまり、夜ごとに儀式召喚が行われ、《シャドウサーヴァント》が大量に発生していたということか」


 幹部たちの考察に、リリスは首を振った。


「いいえ。私は、この儀式はまだ途中だと思っています」


「途中?どういうことですか?」

「皆さん、魔王軍についてはどのくらいご存知ですか?」


 幹部たちは顔を見合わせる。


「人類を滅ぼそうとした魔物の軍勢……という認識です。魔王とその幹部七体で構成され、幹部一体で一国を滅ぼす力を持っていたとか」


 他の幹部たちも頷く。


「ほぼ正解です。現代ではそのように伝わっています。しかし、古文書では、幹部は八体と記述されています」

「欠番のことですか?」

「その通りです」


 王が周囲を見渡し、問いかける。


「欠番とはなんじゃ?」

「魔王軍には七体の幹部がいたとされますが、欠番と呼ばれる、八番目の幹部が存在したという説があります」


 リリスの説明に、王が首を傾げる。


「どういうことじゃ?なぜそんな説があるのじゃ?」

「『アレネイの戦い』はご存知ですよね?千二百年前、魔王が一度だけ自ら軍を率いた戦いです。勇者パーティと最強の軍事国家アレネイを滅ぼし、人類を絶望の底に叩き落とした戦です。《火の三日間》とも呼ばれます」

「もちろん知っておるが……それがどうした?」

「そのとき、魔王が残した言葉があります。『勇者は死んだ。これより、我が八つの軍が、人類を滅ぼすであろう』と。この言葉を根拠に、魔王軍には八体の幹部がいたとする説があるのです。しかし、歴史上で確認された幹部は七体。ゆえに、八体目の幹部は《欠番》と呼ばれているのです」


 幹部たちの表情から、初めて知った者が多いことが窺えた。


「《欠番》については諸説あります。裏で暗躍していた説、魔王に反旗を翻して殺された説、軍編成上の理由で存在しなかった説、あるいは最終兵器として今も眠っている説……。ところで皆さん、もう一度映像をご覧ください」


 リリスは壁画と紋章が映る場面で映像を止めた。


「この場面がどうしたのじゃ?」

「先程も言った通り、この紋章は魔王軍のものです。魔王軍の紋章にはいくつかの種類があります。双頭の竜に六芒星のみの紋章は《無印》と呼ばれ、魔王自身を表します。後方に象徴画が加わると、幹部の紋章になります。世界に残る魔王軍の遺物から、魔王と幹部の数に対応する八種類の紋章が確認されています。この紋章には、逆三日月が描かれています。つまり、幹部の紋章と解釈できます」


 王がゴクリと喉を鳴らす。


「ならば……この紋章は、魔王軍の、どの幹部の紋章なのじゃ?」


 リリスは少し、目を伏せて答えた。


「それが……()()()()()()()()()()()()()()()()


 幹部たちの間に動揺が走る。


「存在しない?どういうことですか?」

「つまり、この紋章は偽物ということですか!?」


 リリスは首を振った。


「私はそうは思いません。エルバニアの森に関する古代の記述、遺跡の年代、そして実際に出現する魔物の強さ……これらから鑑みて、本物の魔王軍の紋章であると見て間違いないでしょう」

「では、この紋章は一体……?」

「……ここから先は私の推測なのですが……」


 リリスは一呼吸置いて、静かに告げた。


「この紋章が示すのは……歴史の闇に葬られた、八番目の幹部——《欠番》の存在です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ