第160話 遺跡の守護者
地下入口でデスストーカーに足止めされたムビたちは、その後、順調に遺跡の奥へと進んでいた。
「そこ、罠があるから気を付けてくださいね」
「おう、サンキューな」
シンラはひょいと罠を飛び越える。
「ムビ君、助かるわ~。私たち、罠探知できる人がいなくてさ」
ナズナが耳をピョコピョコさせながら、ムビに笑いかける。
「本当よ。これだけ強くて、補助魔法にも長けてるなんて、幅広過ぎるわ」
シェリーが素直に感心する。
「しっかし、こりゃ完全に迷宮だな。どう進めばいいか、見当もつかねぇ」
「マッピングしながら、しらみ潰しに進むしかないね」
「あっ、道なら分かりますよ」
ムビの言葉に、全員が一斉に振り返った。
「えっ!?分かるの!?」
「はい。物理探知で、フロアの構造はある程度把握しました。かなり広いですけど、なんとか階段までのルートを見つけました」
「まじか!お前、ほんと有能だな♪」
シンラはムビと肩を組んだ。
(うわっ、近っ……!)
「なら、この道はどっちに行けばいいんだ?」
目の前に分岐が現れた。
「右ですね。ただ、すぐに魔物の群れと遭遇しそうです」
「なにっ?お前、もしかしてAランクの探知もできるのか?」
「いえ、そこまでは……。ただ、物理探知で動くものは分かるので……」
「十分だ♪よっしゃ、私が蹴散らしてやる」
シンラは先頭に立った。
右に曲がってすぐに、黒い魔物の大群が押し寄せてきた。
「またこいつらか!一気にいくぜ!」
シンラが大暴れしながら、一行は奥へ進んでいく。
その様子を、天井に張り付いた目玉がじぃっと見つめていた。
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遺跡の最深部。
モニターに映し出された映像を見つめる者がいた。
スーツを身にまとった男性。
眼鏡のレンズに、ムビたちの映像が反射していた。
一見、人間のようにも見える。
だが、長い耳と背中に生えた翼が、男が人間でないことを物語っていた。
「ふわぁー。おはよう、グリモール」
背後から、男に話しかける美少女が現れる。
白と黒のツートンカラーの髪が、サラサラと肩まで伸びている。
「おはよう、エレノア。三日ぶりだね」
「サードアイの映像を凝視するなんて、珍しいね。何見てるの?」
「ああ。ちょうど今、侵入者を監視しているんだよ」
「侵入者!?まじで!?」
エレノアは身を乗り出してモニターを覗き込む。
「うっはぁ、ほんとじゃん♪侵入者なんて千年ぶりじゃないの?」
「そうですね。それに、2階層のデスストーカーたちを突破しました。ここまで進んだ人類は初めてですね」
「へぇー、なかなかやるじゃん。ここまで来るかな?」
「ははは。それはさすがに無理でしょう。人間では、最深部の8階層に辿り着くことは不可能です」
モニターを見ていたエレノアの瞳が、怪しく輝いた。
「あらぁ、若い男がいるじゃない?グリモール、この子は生かしといて」
「何を言っているんですか。そんなわけないでしょう」
「えぇー、一人くらいいいじゃない?」
「はぁ……いいですか、エレノア。我らの本懐を忘れてはなりません」
グリモールが溜息をついてエレノアを諭す。
「ちぇっ。ケチー」
エレノアは頬を膨らませてどこかに行ってしまった。
「全く……。この遺跡の最高戦力があの調子では困りますね。……まぁいいでしょう。千年ぶりのお客様です。魔王軍が誇るこの遺跡で、どこまであがけるのか……。じっくり楽しませてもらおうじゃありませんか」
グリモールは悪魔のような笑みを浮かべた。
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「おおっ!本当に階段があるじゃねぇか!」
ムビたちは3階層への入口に辿り着いていた。
黒い魔物の群れが絶えず溢れ出てくるが、シンラが先頭で暴れるおかげで、難なく3階層への突入に成功した。
その様子を、グリモールはモニター越しに見ていた。
(ほう……。シャドウサーヴァントがまるで相手になりませんか。人間のレベル上限では、シャドウサーヴァントの討伐は難しいはずですが……。おや……?よく見たら、3人は亜人種ですね。なるほど、それならこの強さもあり得るかもしれません)
そのとき、ムビたちの前に新たな魔物の群れが現れた。
「おっ?今まで出てこなかったタイプの魔物だな?」
(くくく……3階層は強力な魔物の巣窟です。果たして、ここを突破できるかな?)
ドゴオォォォォォンッ!!
シンラの一撃で魔物たちは吹き飛んだ。
(なっ……なにぃ……!?)
ナズナも前に出る。
素早い動きで魔物を翻弄しながら、着実に魔物の数を減らしていく。
(どうなっている……!?この魔物たちは、単純な戦闘能力ならデスストーカーを上回るのだぞ……!?)
シンラが赤い目を光らせながら叫ぶ。
「はっはぁーーー!!まともに殴り合えるだけ、デスストーカーよりよっぽどやりやすいぜ!!」
「あたしも、こいつらなら遠慮なく前線で戦える!」
(くそっ……おのれぇっ……!)
シンラとナズナが前線に出られるようになったため、ムビは後方支援に徹する。
スキルを使用し、自分の戦闘ステータスをシンラに割り振る。
「う……おおおおおおお!?」
シンラの力はさらに増し、ナズナ並みの超スピードで動く。
凄まじい勢いで魔物たちを肉塊に変えた。
「こいつはすげぇ!!これなら無敵だぜ!!」
シンラの無双ぶりを見て、ナズナが頬を膨らませる。
「シンラばっかりずるい!ムビ君、私にもスキル使って!」
「わ……分かりました!」
ムビはナズナにスキルを使用する。
「どひゃーっ!こりゃあすごいや!」
ナズナは目に見えぬほどの速さで、シンラ並みの剛拳を振るった。
ほとんど広範囲魔法のような勢いで、魔物の骸の山ができあがる。
「二人とも、下がって!」
シェリーが呪文の詠唱を終える。
シンラとナズナは後方に下がった。
と同時に、ムビはスキルを発動し、シェリーの魔法攻撃力を高める。
「"星霜の氷鎖標識"!」
パッキイィィィィィン———!!
残りの魔物は全て一瞬で凍りつき、氷塊となって砕け散った。
「いよっしゃあ!楽勝だぜ!」
シンラが拳を振り上げ、ナズナとムビがハイタッチを交わす。
シェリーも微笑みながら、杖を軽く振った。
(……なんという強さだ!?……くっ、こうなれば持久戦が上策か……)
モニター越しに様子を見ていたグリモールは、眉間に皺を寄せる。
(各階層は迷宮のように複雑な作りになっている。奴らが迷っているうちに、疲れ果てるまでシャドウサーヴァントを投入し続けて……)
「おいムビ?下に続く道は分かるか?」
「はい。探知で階段を見つけました。案内します」
シャドウサーヴァントを3階層に送ろうとしている間に、ムビたちは正解のルートを迷わず走り抜ける。
(どうなっているんだこいつら!?なぜそんなに迷いなく正解のルートを選べる!?……くそっ、これでは3階層を突破されてしまう……!)
グリモールは歯噛みしながら、ムビたちの動きを観察する。
(やはりセオリーではあるが、パーティを分断し、確実に一人ずつ仕留めていくのが上策か。くくく……4階層はトラップの階層。まずはあの中の一人を、確実に消すか……)




