第16話 『白銀の獅子』の野盗討伐戦5
敵はゼルに容赦なく襲い掛かり、一人で孤立しているゼルは大技を使って対応せざるを得ない。
疲労はどんどん大きくなり、余裕がなくなってきた。
くそっ……徹夜で駆けつけてきて、流石に調子が悪いか……?
「マリー、入口を固めるのは良い!俺の援護を頼む!」
「えぇっ!?……ごめんなさい、私今日はちょっと疲れてるみたいで……!」
マリーもか!?
……どういうことだ!?
あいつも急いで駆けつけてきて疲れているのか!?
「……おおおおおおおおお!!」
ゴリが大技を繰り出し、魔物の群れを蹴散らしてゼルと合流する。
「……すまんゴリ、助かった!」
「3人でしっかり陣形を組もう!俺はまだMPが残っているから、なんとか活路を開く!」
ゴリは大技を繰り出して突破口を開き、入口付近のマリーと合流した。
「背後からは敵は来ない!囲まれないよう入口付近で戦うぞ!」
『白銀の獅子』は入口付近で陣形を組みながら戦闘を再開した。
これまでと違い30分程時間を費やしたが、なんとか広間の敵を全滅させることに成功した。
はぁ……はぁ……どういうことだ!?
これしきの戦闘でこんなに疲れるなんて……。
ゼルは肩で息をしていた。
正直もうこれ以上の戦闘は回避したい。
「……すまん、俺も限界が近い……」
ゴリも入口付近でゼルやマリーよりも奮戦したため、疲れ切っている様子だった。
マリーも同じような状態だ。
「どうやら今日は、徹夜で駆けつけたせいか調子が悪いみたいだ……マリー、お前もか?」
「確かに調子が悪いみたいです……。でも、私は昨日の夜にはルワノールに着いていたので、一晩しっかり眠ったのですが……」
どういうことだ?
俺達に何が起きている?
「マリー、例えばこのアジト内に、侵入者へデバフがかかる魔法は掛かっていないか?」
「調べてみます」
マリーは魔法を発動した。
「特にこのアジトにはそのような魔法は掛けられていないみたいです」
「そうか……念のため、俺達にもデバフが掛かっていないか調べてくれ」
「わかりました」
マリーが再び魔法を発動する。
「私達にもデバフは掛かっていないみたいです。状態異常も調べてみましたが、特に問題ありませんでした」
ということは、素の状態でこれだけ疲れているということか?
この疲れの原因は一体何なんだ?
「……一応俺も帰ってから調べたんだけどよ。この症状、魔力枯渇に似ているぜ」
ゴリが口を開いた。
「魔力枯渇ですか?通称、『魔力切れ』や『MP切れ』とも言われる?」
「ああ、それだ。MPが無くなると、息が苦しくなるんだとよ。ムビの奴がよくなってたじゃねぇか」
そういえばムビがよく魔力枯渇で苦しそうにしてたな。
「だが、俺達はこれまで魔力枯渇を起こしたことがない。なぜ急に?」
「なんでだろうな……それは分からん。長期バカンスの後からだから、それで疲れやすくなってるのかもな」
「確かにそれはあるかもしれない。というかそれしか考えられないな。原因は、調子が落ちている間に無理してしまったことか……」
しかし、この状況をどうするべきか。
皆疲労困憊で、これ以上の戦闘は厳しい。
今まで回復アイテムなんて使ってこなかったから、ポーションも持っていない。
だがここまで来て退却など……。
「おーい、『白銀の獅子』かぁ!?」
振り返ると、3~4組ほどの冒険者パーティがこちらに来ていた。
た……助かった!
『白銀の獅子』の面々は大いに安堵した。
「ギルド長から言われてよ、念のため応援をとよ。ま、お前達には必要なかったかもしれないがな」
「いや、助かったよ。ありがとう」
「なぁに。ここまでの敵、全部お前達が倒してきてくれたからな、スイスイ辿り着いたぜ。折角来たんだ、最後くらい俺達に見せ場をくれよ」
「あ……あぁ、そうだな。この先は、お前達に任せるよ……」
『白銀の獅子』の3人はホッとした。
ゴリが応援隊の一人に話しかける。
「なぁ……悪いが、魔力ポーション持ってねぇか?」
「おう、あるぞ。少し疲れたか?3人とも飲んで良いぞ」
『白銀の獅子』の3人は魔力ポーションを渡された。
「な……なぁ……。」
「ん?」
「……これ、どうやって飲むんだ……?」
「ゴリ、お前、初心者冒険者かよwwwこうやって飲み口を開くんだよ!」
「あ……あぁ、わりぃ。今まで魔力ポーションなんて飲んだことなくてよ……」
「まじかよ!?さすが『白銀の獅子』は補助がしっかりしてんだろうな。ていうか、ゼルやマリーに聞けよwww」
ははは、とゴリは笑った。
ゼルとマリーは今のやり取りを見て飲み口を開け、生まれて始めて魔力ポーションを飲んだ。
そこから先は、応援隊に戦闘を任せて、『白銀の獅子』は後ろから付いて行った。
もう少しで一番奥に辿り着く。
「そうらよっ!」
一番奥の部屋らしき扉の前を守っていたゴブリンオークを討伐した。
「気をつけろよ……」
先頭の男が慎重に扉を開いて、中の様子を覗く。
「お……おい、ありゃ……!」
男が部屋に入り、それに続いて皆が部屋に入る。
そこには、裸で椅子に縛られ、気を失っているリゼがいた。
「リゼ!」
ゼルが駆け寄って、縄を解いて自分が付けていたマントで体を包む。
「ぁ……うん……?」
リゼが目を覚ました。
「リゼ!大丈夫か?」
「あっ……ゼル……」
「助けに来たぞ!もう大丈夫だからな!」
リゼは安心したのか、そのままゼルにしがみ付いて泣きだした。
「野盗の頭はどこに行ったんだ……?」
応援隊が、部屋を警戒しながら捜索する。
「リゼ、野盗の頭がどこに行ったか知らないか?」
「えぇっと……ごめん……、私、気を失ってて……」
「あっ!なんだこれ!」
応援隊の一人が、テーブルを見て驚愕の声を上げる。
そこにはディスプレイがあり、ここにいる冒険者達が映っていた。
「これは……もしかして、配信中か?」
カメラが向けられており、間違いなく配信中のようだった。
画面いっぱいに、コメントとスパチャが乱れ飛んでいた。
今頃来たwwwww
おっそwwwww
間抜けな冒険者達wwwwww
全部終わったよ~んwwwwww
この間抜け面最高wwwwww
「くそっ!舐めた真似しやがって!」
冒険者の一人が、カメラを破壊する。
ディスプレイの画面は暗くなった。
「野盗の頭はどこ行ったんだ……?」
冒険者の一人が『Dtube』にアクセスし、アーカイブをチェックする。
映像は最後にゲロッグが映っているところから再生された。
映像の中のゲロッグはリゼへのセクハラに夢中になっている。
突如、侵入者を告げる笛の音が鳴った。
「おっ、笛が鳴っておる。リゼたんを取り戻しに来たようだな。仕方ない、ここまでか。それじゃあ最後に……」
ゲロッグがリゼに魔法をかけ、リゼは気を失う。
「視聴者諸君、リゼたんを救出しに冒険者が来たようだから、ワシはこのまま逃げるぞ♪そうだ、配信はこのまま続けるから、間抜けな冒険者共のアホ面が映ったら、赤スパ頼むぞ?♪……間抜けな冒険者諸君……リゼたんは、ワシが好き放題セクハラしましたよ~っと♪おかげでワシも億万長者じゃ♪目が覚めたら、リゼたんによろしく言っておいてくれ♪ウハハハ♪……では、最後に、チャンネル登録と、高評価、よろしくぅっ☆」
そういうとゲロッグは懐に忍ばせていたスクロールを開き、姿を消した。
「あっ、転移のスクロール!逃げたか……!」
「とても追いきれないな。どこに転移したかも分からないし……」
かくして一行は、『蝦蟇蜘蛛』の討伐は達成できなかったものの、リゼの救出に成功し、ルミノールの街に帰った。
ギルドに詳細を報告し、『蝦蟇蜘蛛』の頭領ゲロッグ討伐の依頼はBランク案件として修正された。
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