第154話 一人で万を討つ者
ミラは眼下の少年を何度も見つめ、確信する。
(間違いない……ムビだ)
その様子に気づいたシンラが、眉をひそめて声をかける。
「あ?なんだ、知り合いか?」
「あれは、ムビじゃ……。ほら、ワシが写真見せた……」
「何っ!?あいつがそうなのか!?」
シンラは急に興味を示し、魔物の死骸に囲まれたムビをじっと観察する。
「へぇ……ってことは、あの死体の山、あいつが築いたってことか?」
「恐らく、な……」
「ふぅん。いいねぇ……」
ナズナも獣人族の視力を活かして、まじまじとムビを観察する。
「ほんとだ、写真の通りの顔だね。相当強そうだけど、さすがに多勢に無勢かな?」
「うっし!手助けしてやろうぜ!」
「ちょ、ちょっとシンラ!そのムビって人と、戦闘になるかもしれないんだよ!?」
「だーいじょうぶ。そうなったら、私が戦ってやるさ」
そう言うなり、シンラは崖を飛び降りた。
「ちょ、ちょっと!?ああもう!」
ナズナも続いて飛び降り、少し遅れてミラとシェリーも後を追った。
---
ムビは剣を構え、魔物の群れと対峙していた。
(くそっ……!もう丸一日戦ってる……!さすがに体力が……)
ドゴオオォォォッ!!
前方の魔物が吹き飛び、ムビは目を見開く。
(な……何だ……!?)
土煙の中から現れたのは、長身で髪の長い鬼人。
仁王立ちの姿が、まるで戦神のようだった。
「よぉ、少年!加勢に来たぜぇ!」
突然現れた鬼人はムビに話しかけ、そのまま暴れ始めた。
ドゴォォォッ!!
左側の魔物も吹き飛び、獣人の少女が叫ぶ。
「ったく、どうなっても知らないからね!」
ムビはポカンとした表情を浮かべ、その場に立ち尽くす。
(獣人……?冒険者か?見覚えがあるような……でも、ありがたい……!)
「あ……ありがとうございます!助かります!」
ムビは声を張り上げ、二人にお礼を言った。
さらに、右方向、後方の魔物が吹き飛ぶ。
(また加勢か!?ありがたい……!)
ムビも最後の力を振り絞り、魔物の群れへと突っ込んだ。
---
突如現れた加勢のおかげで、魔物はすべて討伐された。
「あの……ありがとうございました!本当に助かりました!」
ムビは四人に深々と頭を下げる。
(獣人、鬼人、エルフ……亜人で統一されたパーティかな?もう一人は、鬼人の後ろに隠れてて見えないけど……)
「いいってことよ。なにやら、孤軍奮闘している様子だったからな。……ところで、これ全部、お前がやったのか?」
シンラが魔物の山を指差す。
「はい。実は、昨日転移されてからずっと戦ってて……」
「なにっ!?てことは、丸一日戦ってたってのか?」
「はい。もう魔力も闘気もほとんど残ってなくて……」
「そいつは災難だったな。ところでお前、仲間は?」
「それが、ここに転移されたのは俺だけみたいで……」
「なんだそりゃ?そんなことあんのか?」
「みたいですね。幸い、俺が転移されてないってことは、まだ皆生き残ってるみたいですけど……」
ムビは魔物の山に腰を下ろし、ポーションを飲み始めた。
「ははっ、お前面白いな。私は、シンラ。見ての通り鬼人だ」
「私はナズナ。獣人だよ」
「エルフのシェリーです。よろしくね」
ムビは三人と握手を交わす。
「あの……もう一人の方は?」
「ははは。ほら、出てこい」
シンラに背中を押され、隠れていた四人目が姿を現した。
途端に、ムビに緊張が走った。
「……ミラ……」
「ひ、久しぶりじゃな、ムビ。元気か?……ははは……」
ミラは下を向き、もじもじしている。
(あー。これ、ガチで好きなやつだわ)
亜人の三人は、同時に同じことを思った。
「何しに来たの?ひょっとして、俺を狙いに?」
「ははは!狙ってんのは間違いねぇよなぁ、ミラ?」
シンラが笑いながらミラと肩を組む。
「ち……違うんじゃ!昨夜のモンスター災害の原因を探っていたら、たまたまお前がいて……!」
「昨夜のモンスター災害?」
「なんだお前、知らないのか?転移石に通知来てんだろ。……あぁ、戦いっぱなしで見てねぇのか」
(転移石?そういえば、通知機能があるって話だったな)
ムビは、チラッと四人を見る。
「大丈夫。私たちはお前に何もしない。安心して転移石を見な」
シンラの言葉に、ムビの嘘探知は反応しなかった。
「ありがとうございます。それじゃあ、確認します」
ムビは保存袋から転移石を取り出し——驚愕した。
「冒険者が、一晩で2000人も……!?」
「あぁ、そうだ。お前のところにも来なかったか?黒い奴」
「無我夢中だったので……。そういえば、そんな魔物もいたような気がします」
「……ははは。Aランクを一晩中討伐し続けたっていうのかよ。お前、やっぱりいいな」
シンラが屈託のない笑みを浮かべる。
「私たちは、その原因を突き止めようと思ってんだ。どうだ、お前も協力してくれねぇか?」
「協力……ですか……」
ムビはミラをちらりと見る。
ミラは申し訳なさそうにうつむいていた。
「お前たちの間に、何かあったのは知ってる。だけど、少なくとも今回は私たちに敵意はねぇ。それに、お前の仲間も、まだこの森のどこかにいるんだろ?早く解決しないと、今晩死ぬかもしれないぜ?それとも、今からこの広大な森を探してみるか?」
確かに、今から『四星の絆』と合流を目指すのは現実的ではない。
いちいちシンラの言う通りだ。
「……分かりました。モンスター災害の原因調査、俺も手伝います」
「おう、よろしく頼むぜ。お前、有能なんだってな?期待してるぜ♪」
シンラは笑顔で、再びムビと握手を交わした。
お読みいただきありがとうございます!
よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!
ブクマとリアクションもよろしければお願いします!




