第152話 夜災の森
木のうろで眠っていたユリは、異様な気配に目を覚ました。
(何、この足音……。すごく嫌な感じがする……)
保存袋から転移石を取り出す。
『1564』という数字が表示されていた。
(え……?たった数時間で、冒険者が1000人も減ってる……?)
そのとき、転移石が淡く光り、メッセージが表示された。
(運営からだ……)
転移石には、以下のように書かれていた。
『夜間、森全域でモンスター災害が発生中。黒い人型の魔物で、探知に反応しません。推定Aランク。集団で囲まれ、死亡者が急増しています。もしも遭遇したら、無理をせず、早めに転移石を割ってリタイアしてください』
ユリは外の様子を伺った。
闇の中を、黒い人型の魔物が何体も徘徊していた。
(あいつらか……。通知の内容と特徴が一致している。見つかったら、終わりだ……)
ユリはうろの中で身を丸め、ひたすら足音が遠のくのを待った。
転移石に表示されている数字は、みるみるうちに減っていった。
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「……ん?なんじゃ?」
バカ騒ぎをしていたミラが、ふと森の方を見る。
「どうしたんだよ、ミラ?」
「ヤバイ気配が、森中を蠢いておる」
「……?私は何も感じないよ?」
エルフが耳をぴょこぴょこさせて首を傾げる。
「シェリーが感じないってことは、Aランクか?」
「ミラの探知は、Aランクにも反応するもんね」
鬼人が酒を飲みながらミラに問いかける。
「で?数はどれくらいだ?」
「分からん。アリの巣を探知しているような気分じゃ」
「なんだそりゃ?Aランクの群集なんざ、聞いたことねぇぞ?」
———ザリッ
暗闇の中から、人型の魔物が1体現れた。
「奴か……」
「そのようじゃ。しばらくしたら、わんさか集まってくるぞ」
「面白いじゃない♪私に任せてよ」
獣人の少女が前に出る。
「おいナズナ、ずりぃぞ!」
「へへっ、早い者勝ちー♪」
鬼人の呼びかけを振り切るように、ナズナと呼ばれた獣人の少女は魔物に向かって行った。
びゅるん
魔物が両腕を伸ばし、ナズナを捕えようとする。
が、ナズナは軽やかに躱す。
「やっば!ボディがガラ空きじゃん!」
獣人の圧倒的な身体能力を活かし、ナズナが急加速する。
ドゴオォォッ!!
ボディブローをまともに喰らった魔物は木に激突し、衝撃で木がへし折れる。
「ほぉ……?ナズナの一撃を受けて死なねぇか」
魔物がヨロヨロと立ち上がる。
「さすがAランク。なら、次は本気出すね」
ナズナがトントンと、その場で軽くジャンプする。
バキィッ!
———!?
魔物は、何が起きたか分からなかった。
気付いたときには、自分の顔面に膝が入っていた。
倒れる魔物に、ナズナは拳を振り被る。
右拳に闘気が集中する。
「トッドメー!!」
ドゴォォォッ!!!
ナズナの渾身の一撃により、魔物の腹部に大穴が開いた。
倒れた魔物はピクピクと痙攣し、そのまま動かなくなった。
ナズナはふぅ、と一息つく。
「流石じゃのう♪Aランクの魔物が相手にならぬか!」
「まぁ、人間にはキツイ相手だろうけどね。アタシら亜人は、レベル上限200だし♪」
ナズナが得意げにピースを決める。
———ザリッ
———ザリッ
———ザリッ
一体撃破したのも束の間、魔物の群れに周囲を囲まれる。
「たはぁー、こりゃすごい数だね。流石にこの数はきついかも」
「しょうがないのう、ワシが———」
立ち上がろうとしたミラを、鬼人が手で制止する。
「譲れよミラ。ちょうど退屈していたところだ」
鬼人はグイっと酒を飲み干し、盃を放り投げ、前に出た。
「いいぜ、かかってきな」
右手を差し出し、クイクイと手招きする。
魔物たちは一斉に鬼人に襲い掛かった。
バキィッ!
魔物の蹴りが鬼人の顔面にまともに入った。
が、鬼人はピクリとも動かない。
「こんなもんか?」
ドゴオオォォォッ———!!!
鬼人が拳を振ると、直線状にいる魔物が全て跡形もなく消し飛んだ。
千切れた魔物の残骸がバラバラと周囲に落ちる。
「うはぁ、流石シンラ!エッグいねぇ♪」
シンラと呼ばれた鬼人は、魔物の群れに突っ込み大暴れする。
「ははっ!お前らいいねぇ、夜遊びには最高だ!」
純粋な膂力のみで魔物を次々と屠っていく。
さながら鬼神のような戦いっぷりだった。
シンラはどんどん前に進んでいく。
「ちょっとちょっと!そんなに孤立したら、私たちの方にも来ちゃうじゃんか!」
背後から魔物の群れが、3人に向かって飛び掛かる。
その瞬間、エルフが魔法を発動した。
「極大魔法———"星霜の氷鎖標識"」
———キィン
3人に襲い掛かった魔物たちは全て氷漬けになり、砕け散った。
「おぉ、流石シェリーの魔法じゃ♪」
「これだけ詠唱時間があれば、当然よ」
シェリーと呼ばれたエルフは、髪をかき上げ余裕の笑みを浮かべた。
「ほぉら……もっと来いよ!」
シンラはそのまま暴れ回り、まるで戦場にいるような轟音と地響きが続いた。
3分もすると、周囲を囲んでいた魔物たちは全滅した。
座って酒を飲んでいたミラは、楽しそうに拍手をした。
「ははは、お前たち、やっぱ強いのう♪楽ができて助かるわい♪」
「まぁほとんどシンラがやっちゃったけどね」
「この戦闘狂め」
シンラは満足げに笑った。
「へへっ。Aランクに囲まれたのは初めてだ。なかなか楽しかったぜ……あーあ、何か滾ってきたわ。殴り合いしねぇか、ミラ?」
「よせよせ。鬼の性が出てきておるぞ」
赤い目をギラつかせるシンラに、ミラはひらひらと手を振った。
「それにしても、他のパーティならひとたまりもなかったでしょうね」
「モンスター災害とはいえ、ちょっと異常よね」
「うむ。まだまだこやつらと同じのが、森の中で大量に蠢いておるぞ」
「そりゃ、転移石の数字も減るわけだ。こりゃ、相当死人が出てるねー」
シェリーの転移石に示された数字は、1200を下回ろうとしていた。
「あんまり死人が出るのは感心しないね。私たちで、数を減らしておこうか」
「そうじゃのう!ちっとばかりボランティア活動でもするかのう♪」
「いいじゃねぇか、夜通し戦ってやるぜ。ミラ、魔物のいる方へ案内しな」
『ミラと愉快な仲間たち』は森の中を探索し、次々に魔物を狩って回った。
およそ6時間に渡り戦闘を続け、朝日が昇ると、魔物の姿は一斉に消えた。
「あ?こいつら、日が昇ると消えるのか?」
魔物の群れの中で暴れ回っていたシンラは、つまらなそうに言った。
「そうね。夜の間だけ活動するタイプの魔物のようね」
シェリーは転移石を見つめる。
「……あちゃー。次の夜が訪れたら、予選が終わるわ」
転移石には、『425』の数字が表示されていた。




