第15話 『白銀の獅子』の野盗討伐戦4
翌朝、ゼルは徹夜で馬車を走らせルミノールの街に帰ってきた。
「おい、ゴリ!?どういうことだ!?」
ゼルはギルドの会議室に大声で叫びながら入ってきた。
部屋にはゴリとマリー、それにギルド長を含むギルドの幹部が揃っていた。
「す・・・すまねぇ・・・」
「すまねぇじゃねぇ!何があったか説明しろ!」
「ゴリ君、何があったか、皆に詳細に説明願えないだろうか?」
ギルド長がゴリに説明を促す。
ゴリは詳細に、『蝦蟇蜘蛛』のアジトで起きたことを話した。
「お前、それで逃げ帰ってきたのか!?俺が王都でデカい案件取って来たのに、お前ら足引っ張りやがって!!」
ゼルがテーブルを叩く。
「す・・・すまねぇ。俺もリゼもどうにも調子が出なくて、俺ももう限界だったんだ・・・。リゼも後衛なのに俺よりだいぶ前に出ていたところを捕らえられて、到底助けられなくて・・・」
「Cランクの依頼くらい、お前達ならソロでも十分だろ!それを二人掛かりで失敗した上、リゼを捕らえられただと!?」
ゼルは怒りが収まらなかった。
相手は野盗だ。
リゼがどんな目にあうか、想像もしたくない。
「ゼル君、落ち着いて。幸いにも人質の救助は成功している。ギルドはこの件を依頼失敗とはカウントしない方針だ。それより、今は一刻も早くリゼ君を救出する方法を考えよう」
「今すぐ俺がアジトに行く!それで解決だ!ゴリ、場所を教えろ!」
そのとき、ギルド職員が勢いよく扉を開けて入ってきた。
「たっ、大変です!リゼさんが・・・」
「リゼ君に何かあったのか!?」
「『Dtube』の配信にリゼさんが映っているみたいなんです!」
『Dtube』は、ここ1年程で現れた闇の動画投稿サイトで、『Mtube』では規制されるような過激な動画が主に投稿されている。
規制が全く無く、殺人やレイプなど、犯罪行為の動画が主流を占めている。
「『Dtube』?・・・あの闇の動画サイトか!」
「モニターに映せ!」
会議室のモニターに、ゲロッグのチャンネルが映し出された。
「こ・・・これは・・・」
そこには、椅子に縛られ、全身ベトベトのリゼの痴態が映っていた。
その背後にはゲロッグが映っている。
「うほほ、お前のおかげでぶっちぎり過去最大の同接数じゃわい♪」
「キモイんだよ放せざこっ!・・・あぁッ!」
ゲロッグはいやらしい笑みを浮かべリゼにセクハラをしている。
「なんだこれは・・・!」
「こいつだ!この男が野盗の頭だ!」
ゴリが叫んだ。
ゼルは同接者数を見て驚愕する。
「同接者数・・・20万人だと・・・!?」
こんな数、この国最大のアイドル『エヴァンジェリン』メンバーの生配信並じゃないか・・・!
「配信時間は28時間・・・。つまり、28時間ずっとこんなことを・・・」
「ゼル君・・・!急いでリゼ君を救出し、この配信を止めた方が良いでしょう」
「すぐにでも!ゴリ、マリー!行くぞ!」
『白銀の獅子』は急いで野盗のアジトに向かった。
入り口にはゴブリンオークが2体いた。
「ザコに構っている暇はない!一気に行くぞ!」
ゼルは魔法剣の一撃でゴブリンオークを一掃し、アジトに侵入した。
アジト中に『白銀の獅子』の襲撃をしらせる笛の音が鳴り響くが、ゼルは一切気にせずアジトを一気に突き進む。
「邪魔だ!どけっ!」
野盗達は素手による一撃で気絶させ、マリーが捕縛魔法で縛り上げる。
複数体で襲ってくるゴブリンオークはMPを消費した大技でまとめて倒す。
敵がいない場合は駆け抜け、30分も経たないうちに、前回リゼとゴリがゲロッグと遭遇した広間まで辿り着いた。
広間には野盗数十人と、ゴブリンオークが数十体。
「マリーは今来た道を固めて、逃げ出そうとする奴を相手してくれ!フロアの敵は俺とゴリで瞬殺する!」
ゼルは全開で戦い、3分程で広間の敵を全滅させた。
そのうち8割以上はゼル一人で討伐した。
「おいゴリ・・・どういうことだ?いつまでチンケに戦ってる?いつもみたいにさっさと本気で戦え!」
「わ・・・悪い・・・。ただよ、前回のことがあってよ・・・。念のため、MPを温存して戦おうと・・・」
「この程度でMPが無くなるわけないだろう!?もたもたしているとリゼがこれ以上何されるか分からないんだぞ!?いいから全開で戦え!」
「わ・・・わかったよ!次からは本気で戦う!」
そこから先はゴリも全力で戦い、『白銀の獅子』の進行スピードは更に増した。
前回、リゼが捕まった地点まで辿り着く。
「あっ!リゼの服が落ちてる!」
ゼルは駆け寄って、破れたリゼの服を握りしめた。
「リゼ・・・あの野郎、必ず俺の手で殺してやる・・・!」
「ここでようやくアジトの半分というところですね。先を急ぎましょう」
敵を倒しながら更に1キロほど奥に進むと、また広間に出た。
野盗とゴブリンオークが大量にいる。
「さっさと片づけるぞ!マリーはさっきと同じで、逃げる奴の討伐を!」
戦闘が開始される。
ゼルはまた全開で敵を屠っていく。
ここを突破すれば、一番奥までもう一息だ。
マリーもそこにいるに違いない。
—――と、そのとき、ゼルは自分の息が乱れていることに気付いた。
なんだ・・・疲れてるのか?
おかしい、この程度で疲れる筈が・・・。




