第147話 シノの戦い
「おーっ!君、もしかして『四星の絆』のシノちゃん!?」
「うわーっ、本物じゃん!実物、超かわいいね♪」
シノは震えていた。
こんなに強いパーティに勝てるわけがない。
勝算なんかゼロだ。
自分が負けたら、チームの敗退が決定してしまう。
だが———『黒鉄の蠍』は危険を顧みず、『幽影鉱道』に助けに来てくれたパーティだ。
シノにはどうしても見捨てることができない。
「もう決着はついているでしょう?その人たちを転移させてあげてください」
「えーっ?俺達に指図するの?自分の立場、分かってる?」
『ライオンハート』の圧がシノに向けられる。
臨界者四人の圧に、シノは気圧される。
「大丈夫、これがコロシアム流の交流だから♪」
「そうそう!男はリンチ、女はレイプってね♪」
愉快に笑う『ライオンハート』を、シノは凛とした瞳で睨みつける。
「吐き気がしますね、あなたたちの下劣な趣味には」
「あ~ん?なんだやんのか、クソビッチが?」
「お前も今から、その下劣な趣味を味わうことになるんだぞ~?」
シノはチラリと『黒鉄の蠍』を見る。
こうして挑発している間、暴行は止まっている。
しかし、両腕が折られ、ダメージも甚大で、自力で転移石も割る力も残っていない様子だった。
「俺はこの女魔導士ちゃんで先に遊ぶからよ、あとで回してくれや?」
「おっけー♪」
女魔導士に跨った男を除いて、三人がこちらに向かってくる。
———やるしかない。
シノは覚悟を決めた。
「へへっ、たっぷり可愛がってやる♪」
三人が走り出すのに合わせ、シノも『ライオンハート』目掛けて走り出した。
「馬鹿がっ!勝てると思ってるのか?」
シノは盾を地面に滑らせ、その上に飛び乗った。
加速しながら突進する。
「へっ、面白れぇ技じゃねぇか!だが、俺達には通じねぇよ!」
衝突寸前、シノは盾を持ち上げ、勢いのまま突進———
「おらぁっ!」
ガァンッ!
盾ごと殴りつけられ、数メートル後方に吹っ飛んだ。
「へへっ、そんなじゃ俺達には通じな……あれ?」
盾ごと吹っ飛ばしたはずが、いつの間にかシノの姿が無かった。
『ライオンハート』が周囲を見回すと、後方にシノを発見した。
シノは女魔導士に向かって走っているところだった。
(目くらまし、なんとか成功した———!)
シノは盾を持ち上げた瞬間、盾の下をくぐり、三人の足元をすり抜けていた。
盾に意識が集中した『ライオンハート』は、シノの動きに気付くことができなかった。
シノはそのまま突進し、女魔導士に夢中になっている男の顔面を、渾身の力で殴り飛ばした。
「ぶっ!?」
MPを込めた全力の一撃。
臨界者とはいえ、完全に意表をついた一撃に、男は数メートル吹き飛んだ。
すかさず、女魔導士の首に下がっている転移石を破壊した。
「あ……ありがとう……」
女魔導士は感謝の言葉と共に、光に包まれ、そのまま転移した。
「あーっ!俺の女魔導士ちゃんが!」
残り三名の『黒鉄の蠍』のメンバーも、体が光に包まれていく。
まもなく転移するだろう。
シノはそれを確認すると、茂みに向かって全力で走った。
(戦う必要はない……あとは逃げるだけだ!)
「待てよ、この野郎!」
後方から『ライオンハート』が追ってくる音が聞こえる。
流石は臨界者、速い。
音がどんどん近付いてくる。
シノは木を殴りつけながら逃げる。
倒木が道を塞いで、『ライオンハート』の邪魔をする。
「くそっ、邪魔クセェッ!!」
「ぜってぇ捕まえてやるからな、クソビッチが!!」
後方から怒号が聞こえる。
なんとか逃げることには成功しているが、かといって逃げ切ることもできていない。
ほぼ一定の距離を保ちながら、ずっとついてきている。
(お願い、神様……!)
そのとき、前方を見ていたシノは目を見開いた。
森の出口が見えた。
(まずいっ!このまま森を出ると失格してしまう……!)
シノは急いで方向転換するが、『ライオンハート』に先回りされていた。
「へへへ……もう逃げられねぇなぁ??」
シノは『ライオンハート』に包囲された。
森の出口を背後に、じりじりと迫られる。
(くそっ……もう逃げられない……!)
シノは両手を挙げた。
「降参します。好きにしていいですから、乱暴はしないでください」
戦意喪失したシノを見て、『ライオンハート』は勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ぎゃっはっは、なんだこいつ素直じゃねぇか?」
「いいぜ?大人しくしてるなら……な♡」
『ライオンハート』の視線が、シノの顔や胸に集中する。
シノは不快に感じながらも、表情には出さないよう努めた。
男がシノを抱き寄せる。
「くくく……近くで見たら、ますます良い女じゃねぇか」
「まずは交流がてら、発育をチェックしようか?」
もみっ
抱き寄せた腕で、気安く胸を揉まれる。
「おっ?意外とあるじゃねぇか?」
「まじかよ!着痩せするタイプか?」
「へへっ、そうみてぇだ♡ほら、こんなに実ってやがる♪」
服の上からでもサイズ感が分かるよう、胸を寄せ上げられる。
「おぉーっ♪エロい体してるじゃねぇか♡」
もみもみ
下種な視線を浴びながら、強調されたシノの胸はしこたま揉まれまくった。
屈辱感でシノは眉をしかめた。
「おっ?いい顔するじゃねぇか♡」
「発育チェックされるのがそんなにイイのか?」
「へへへ……もう我慢できねぇ♪もっと発育チェックしてやる」
シノはそのまま押し倒された。
馬乗りにされ、衣服を脱がされると、豊かな胸が露になった。
そこに、男の顔が降りる。
「はあぁぁッ」
「おっ、声が出たぞ?」
「感じやすいのか?んん?」
無防備で美しいシノの体に、男たちが興奮する。
しかし、シノは体を好きにされながら、機を伺っていた。
(まだだ……もう少し……)
先程この男に抱き寄せられたとき、シノは男の衣服を手で撫ぜた。
そのとき、ズボンのポケットに丸くて固い玉があることを確認した。
(こいつの転移石はポケットの中にある……。隙をついて、なんとか破壊できれば……)
男は愛撫に夢中のようだ。
しかし馬乗りにされているため、今は何もできない。
(耐えろ……耐えるんだ……)
シノは一身に男の愛撫を受け続け、屈辱に顔をしかめ続けた。
———5分。
———10分。
———15分。
そのとき、男が腰を上げ、ズボンを下ろし始めた。
(今だ!)
シノは、男の股間に思いっきり膝を入れた。
「いってぇーーー!?」
男が怯んだ隙に、シノは男のポケットに手を伸ばした。
(———とった!)
ガッ!
ポケットまであと数センチというところで、シノはシウバに腕を掴まれた。
「やるじゃねぇか。ずっと隙を伺ってたのか?アイドルのくせに強かじゃねぇか」
力が強くてビクともしない。
(くそっ……あと少しだったのに!)
シノはそのまま両腕を掴まれ組み伏せられた。
シウバは股間を押さえる男に声をかける。
「おい、大丈夫か?」
「ああ。むしろ、クルものがあったぜ。生意気な女は大好きだ」
男が舌なめずりした。
「こんなことして、タダで済むと思うなよ?」
「さぁて、どうしてやろうか……くくく……」
シノは目を瞑った。
(ごめんなさい、ムビさん……私はここまでみたいです……)
そのとき
「ねぇ。その子を放してくれないかな?」
声を掛けられ、『ライオンハート』はふり向く。
途端に、『ライオンハート』は殺気立った。
「お前らは……!」
全身、ドラゴンの装備品で固められたパーティ。
『ドラゴンテール』が其処には立っていた。




