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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第145話 転移の罠

 場内にアナウンスが響き渡ると、空気が一変した。

 ゼルはフン、と鼻を鳴らし、『白銀の獅子』を引き連れて去っていった。


「いよいよだね……」


 会場全体が、まるで息を潜めるような緊張感に包まれる。


「皆さん、転移されたらまずは一塊に。孤立したら最悪です。俺から離れないでください」

「うん。格上の冒険者ばかりだし、魔物もたくさんいるしね。無理せず、ムビ君についていく」


『四星の絆』は最終確認を行い、転移に備えた。


「私が5つ数えますので、0になった瞬間に各々一斉に赤い転移石を割ってください!」


 ムビは周囲を見渡す。

 先程『四星の絆』に声をかけてきたスネルの周辺には、50人を超える冒険者たちが集まっていた。


(あれが『銀の羅針盤』とその協力者たちか。判別できるように、顔を覚えておこう)


 と、その先に、とある人物を見つけた。

 ミラ・ファンタジアだ。


(あれが……ミラのパーティか?獣人族に、エルフ……。亜人で構成されているのか?)


 ふと、ミラと目が合った。

 ムビはふい、と顔を背けた。


「それではいきますよ?5、4、3、2、1……転移してください!」


 会場の冒険者たちが、一斉に赤い転移石を割った。

 ムビも転移石を地面に叩きつける。

 体が光に包まれた。


「それでは予選……開始ですっ!」


 冒険者たちは一斉に転移した。


 ---


 次の瞬間、ムビの体は空中に放り出された。


(えっ!?空中!?嘘でしょ……!?)


 眼下には、百を超える魔物の群れが蠢いていた。


(何てところに!皆は……!?)


 ムビは周囲を見渡すが、『四星の絆』の姿が見当たらない。

 探知魔法を使うが、周囲に人の気配がない。


(待って……もしかして、俺一人!?)


 ---


 王宮にて。

 王は映像で、エルバニアの森に転移した冒険者たちを見ていた。


 有力な冒険者には浮遊カメラが付き、イナヅマとセキの実況解説付きで放映される。

 どの冒険者もパーティーは全員同じ地点に転移されていた。


「無事転移したようだな。手筈通りに進んだか?」

「はい。『四星の絆』は全員バラバラの地点に転移させました」

「そうか、ご苦労。うはは、格上の冒険者パーティが森中に散らばっている。しかも、モンスター災害で討伐推奨レベル40~80のBランクモンスターがウヨウヨしているのだ。とても生き残れまいて」

「特に、あのムビという男は、モンスター災害の発生源と思われる、森の中心部に転移させました」


 モンスター災害は数が異常発生するだけでなく、通常は存在しえない強力な魔物が発生する。

 エルバニアの森はBランクダンジョン。

 通常はBランクモンスターが最強個体だが、今はAランクモンスターも確認されている。

 Aランクモンスターの討伐推奨レベルは80~160。

 100レベルが限界の人間は、決して一人で戦ってはいけないとされている。

 まして、震源地ともなれば、Aランクモンスターの群れと遭遇する可能性が極めて高い。


 そんな場所に一人で転移させるなど、死刑執行に等しい仕打ちだった。


「しまった、カメラが付いていない!有力冒険者に指定するべきだったなぁー!残念だ、ワハハ!」


 ---


(くそっ……!何でこんなことに……!)


 地上の魔物達は口を開けて、落下してくるムビを待つ。


 ———やるしかない。


 ムビは剣を抜いた。


「Grrrrrr!」


 魔物の牙がムビを襲う。

 ムビは身をひるがえして牙を躱し、回転しながら魔物の群れを斬り付けた。


「GYAAAAAAA!」


 ムビは着地に成功する。


(よし!今ので3体倒した!)


 間髪を置かず、100体の魔物が全方位からムビを襲う。


 ムビは闘気を剣に集中させた。

 剣から闘気がほとばしる。


 ———"闘気剣"!


 一閃。


 ムビの斬撃は半径数十メートル以内の全てを切り裂いた。

 結果、100体の魔物は一撃のもと全滅した。


(やったぁ!実戦で"闘気剣"成功したぞ!)


 ムビは周囲を見渡す。

 生き残っている魔物はいないようだ。


(これ、全部Bランク以上の魔物じゃない?うわぁ、Aランクも混じってる……)


 こんなところに落ちたら、大概のパーティは全滅だ。

 一人ならなおさらだ。

 転移場所は、もっと考えてほしいものだとムビは頬を膨らませた。


(それにしても、パーティは同じ地点に転移されるって話だった気がするんだけど……)


 何かの手違いだろうか。

 いずれにしても、パーティがバラバラなのか非常にまずい。

 一刻も早く合流したいところだが……この広大な森の中、見つけることができるだろうか?


 そのとき。


 ———ズシィン

 ———ズシィン


 大地を揺るがす足音が響き渡った。

 鳥たちが一斉に飛び立つ。


(な……何だ!?)


 ムビが振り返ると———目の前に、山がそびえ立っていた。

 いや、山ではなく、それは木だった。


(木が……移動してる!?)


 数百メートルはあろうかという巨大な木。

 幹の中央に悪魔のような顔がある。


 ボトッ ボトッ


 歩くたびに、樹上から魔物が地面に落下してくる。

 まるで果実を落とすように。


(これは———エンシェント・ユグドラシル!?)


 エンシェント・ユグドラシル。

 Aランク~Bランクの魔物を生成し続ける禁忌指定の魔物だ。

 数十年に一度の災害と呼ばれ、討伐の際は国中の冒険者が召集される。

 討伐推奨レベルは不明とされている。


(もしかして、こいつがモンスター災害の原因!?)


 エンシェント・ユグドラシルはムビを発見すると、大地がうねりを上げた。

 地面から大量の太い根が現れる。


「わわっ!」


 ムビは木の根を蹴り上げながらジャンプする。

 大地は嵐の大海原のように隆起を繰り返していた。


(これは接近が難しそうだ。久々に、魔法を使うか)


 ムビは空中で詠唱を始める。


 我が魂よ、紅蓮に染まりて滅びを謳え

 千の怒りを束ね、万の絶望を焚べよ

 天を裂き、地を焦がし、時の理を焼却せよ


 ———"終焉の業火フレイム・アポカリプス"!


 ムビの詠唱が終わると同時に、空が赤く染まり、天より一筋の光が降り注いだ。

 それは炎の神が怒りを顕現させたかのような、巨大な火柱となってエンシェント・ユグドラシルを包み込む。


「GYAAAAAAAAAAA!!!!!」


 雷鳴のごとく響き渡る巨木の悲鳴。

 枝も葉も根も、全身隅々まで煌々とした炎が広がり、火の粉の舞い散る終末のような光景が広がる。

 数十秒間、地獄の炎に焼き尽くされ———エンシェント・ユグドラシルは、ついに倒れた。


 ズシィィィィィン……!


 山崩れのような衝撃が周囲に響き渡り、地面が揺れる。

 ムビは空中で体勢を整え、黒ずんだ巨木の前に着地した。


(……よしっ!これでモンスター災害の元凶は絶ったぞ!)


 幹の中央には、巨大な魔石が埋め込まれていた。

 それは家屋ほどの大きさで、赤黒く脈動している。


(な……なんてデカい魔石!家より大きいじゃん……!こんなの売ったら、いくらになるんだ!?)


 借金王ムビは、なんとか持って帰れないかと保存袋を確認する。


(駄目だ、こんな小さな保存袋じゃとても……!くそっ、流石にこれは想定していなかった!利子の足しになるかもしれないのに……!)


 そのとき、探知魔法に異常な反応が現れた。

 数多の魔物の気配が、森の四方から迫ってくる。


(なんだこれ……?集まってきてる?)


 360度全方位から、数千の魔物の気配。

 目視できる範囲まで接近すると、全ての魔物がムビを見て怒り狂い始めた。


(そうか、母親を殺されて怒っているんだ……)


 怒りの咆哮が森を震わせる。

 魔物たちは一斉にムビへ向かって突進を始めた。


(……くそっ!まずはこれを片づけないと!……皆、どうか無事でいてくれ!)


 ムビは剣を握り直し、再び闘気を集中させた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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