第144話 転移先で会ったら
王宮の玉座にて、レオニス王はS級選抜大会の中継を眺めていた。
「それで、準備の方は?」
家臣に目もくれず、画面越しの冒険者たちに視線を注ぎながら問う。
「はい。万全でございます。あの『四星の絆』とやらが予選を通過する可能性は、万に一つも無いかと」
「そうか。ご苦労」
王は満足げに口角を吊り上げる。
「あのムビとかいう男、ここ一ヶ月ほどリリスの客人として離れに住み込んでいたそうだな。全く、汚らわしい。戦場に送るまでもない、この予選で消してやろう」
「それが、リリス様のためにもなりますね」
「まったくだ。これぞ親心というものだ。ワハハハ!」
王の笑いは、玉座の間に不気味な余韻を残した。
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ムビたちは会場に戻ってきた。
転移開始まで、残り3分。
「そういえば皆さん。修行の成果は、どんな感じでしょうか?」
ムビの問いに、ユリが胸を張る。
「そうだよ、聞いて!皆でダンジョンに籠って、魔物を倒しながら鍛錬したの。レベルは、私とシノが53で、ルリとサヨが54ってところかな」
「一ヶ月で、レベルを10も上げたんですか!?」
「そうだよー♪ほんともう、滅茶苦茶頑張ったんだから!」
「装備品が良かったから、多少強い魔物相手にも無茶ができました。ムビさんのおかげです」
シノがファントムクリスタルの盾を掲げる。
通常の冒険者なら、レベルを10上げようとすれば丸一年は修行する必要がある。
わずか一ヶ月でここまでレベルアップできたのは、装備品だけでなく、『四星の絆』の非凡さ故だろう。
ただし、この会場はA~Bランクの冒険者がほとんどだ。
平均レベルは70~80はあるだろう。
やはり他の参加者と比べれば、パラメータ不足は否めない。
「ムビさんは、どんな修行をしていたんですか?」
「俺ですか?俺はリリス様に修行をつけてもらってました。剣と体術の基礎的な修行と、あとはリリス様との実戦ですね」
「リリス様と一ヶ月間……」
「確か、リリス様は剣の神童と伺ったことがあります。ムビ様、相当腕を上げられたのでは?」
「ははは。どれくらい通用するか、試してみます」
ムビは腰に差した剣をポンポンと叩いた。
「おっ、それムビ君の剣?カッコいいねー!ほんと剣士みたいだよ!」
「えへへ。そうでしょうか?」
「その剣は、どこで買ったの?」
「王都の鍛冶屋で、一番高い剣を買いました。自分の武器って初めてで、すごく嬉しくて……」
「分かるー!初めての剣って愛着が湧くよねー!」
ユリが剣士トークに花を咲かせようとしたそのとき
「よぉムビ。久しぶりだなぁ」
『四星の絆』に声をかけたのは、『白銀の獅子』のゼルだった。
ゴリ、リゼ、マリーを従え、余裕の笑みを浮かべる。
『四星の絆』は、厳しい表情で『白銀の獅子』の面々を睨んだ。
「ゼル……何の用?」
「いやなに。お前らの面を拝むのも最後かもしれないと思ってな。何せ死人もいとわない大会だ。2~3人欠けたっておかしくないだろう?」
シノが睨み返す。
「ゼルさんこそ、油断してたら痛い目を見ますよ?」
「おいおい、本気で言ってるのか?俺達は全員臨界者の優勝候補だぞ?こんな予選なんざ朝飯前さ。対して、お前らはどうなんだ?レベルはいくつだ?この会場でも、最底辺なんじゃないのか?」
図星を突かれ、『四星の絆』は言葉を失った。
ゴリも見下しながらゼルに同調する。
「そうだぞ?一人脱落したら終わりのこのルール。一人のお荷物でさえ致命的なのに、それが4人。お前らが予選を通過する可能性はどれくらいだ?死人が出る確率の方が余程高いだろうwwwせいぜい大好きなムビに守ってもらうんだな。……ああそうだ!股を開くなら、俺が守ってやってもいいぞ?ガハハッ!」
「……最低」
ユリが軽蔑の眼差しをゴリに向けた。
下品な笑いを浮かべるゴリは、ふと、ムビの腰の剣に気付いた。
「なんだお前、その剣は?剣士にでもなったのか?」
「いやいや、噂は本当だったようだな」
「噂?」
ゼルがやれやれと首を振る。
「お前、リリス様と修行をしていたんだろう?本当に女には手癖の早い……いや、世渡り上手と褒めておこう。だが、リリス様に少し気に入られたからって調子に乗るなよ?俺達はレオニス王に心底気に入られてな。先日、食事に誘われたんだ。王は嘆いておられたぞ、お前のような羽虫がリリスに纏わりつくってな?はっはっは!」
ゼルは高笑いをした。
「王はこうも言ったよ!リリスの専属パーティには、俺達みたいな気品のある冒険者が相応しいってな!リリス様に媚びを売って専属パーティになろうとしたようだが、残念だったな?リリス様の専属パーティになるのは、俺達だ」
ゼルの優勝宣言に、周囲の冒険者たちがにわかにざわめく。
「それにお前、たった一ヶ月の修行で剣士になったつもりか?やれやれ……剣の道は、そんなに甘くないぞ?たった一ヶ月の付け焼刃で、俺達トップ冒険者と張り合えると思っているのか?リリス様に優しく教えてもらった温室育ちの剣が、どこまで通用するのか見物だな?」
ゼルは冷たい眼差しをムビに向け、ゴリも隣でニヤニヤ笑みを浮かべていた。
「……ゼル。ゴリ。一つだけ忠告しておく」
ムビは静かに口を開いた。
「転移先で俺に会ったら、お前たちは終わりだ」
ムビの言葉を聞いて、ゼルはほくそ笑んだ。
「……なら、お前を探しに行くよ。せいぜい見つからないように気を付けるんだな?」
そのとき、会場にアナウンスが響き渡った。
「皆さん、お待たせいたしました!———全員、お揃いのようですね!只今より転移を開始します!」




