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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第143話 30分の戦略

 スネルの熱弁に、『四星の絆』は耳を傾けていた。


「この予選は、徒党を組んだ方が圧倒的に有利だ。転移までに与えられた30分間で、どれだけ徒党を組めるかが勝利の鍵だ。俺達は元々、4つのパーティーで組む予定だったんだ」

「えぇっ!?あらかじめ組んでたんですか?」

「別に、ルール違反じゃねぇからな。目的のため知恵を絞るのも、冒険者の実力の内だぜ?計16人が、今周囲のパーティを口説きにかかってるのさ。お前達に声を掛ける前に、既に2組のパーティが俺達のグループに加わった。30分後には、それこそ予選を支配する程のデカい勢力になってるだろうさ。な?お前らも入らないか?予選突破の確率、格段に跳ね上がるぜ?」


『四星の絆』は、ムビの方を見た。


「ムビさん、どうしますか?」


 ムビは少し間を置いてから、静かに口を開いた。


「申し訳ありません。せっかくですが、ご遠慮いたします」


 ムビはきっぱりとした口調で断った。


「おいおい、俺の話を聞いてたか?これはチャンスなんだぞ?勝ち残りたくないのか?」

「もちろん、勝ち残るつもりです。ですが、せっかくの舞台ですから……正々堂々と勝ちたいんです。では、失礼します。皆さん、行きましょう」


 ムビは足早に出口の方へ向かった。


「お、おい……!」


 スネルが呼び止めようとするも、ムビは振り返らなかった。

『四星の絆』もペコリと頭を下げ、ムビの後に続いた。


「ムビ君、良かったの?せっかくの提案だったのに」


 ユリがムビに追いつき、問いかける。


「ほんとだよ。地図だって手に入るところだったのに……!」


 ルリが悔しそうに言った。


「で、ムビさん。本当の理由はなんですの?」

「本当の理由?」


 ルリが素っ頓狂な声を上げ、サヨは溜息をついた。


「あんなバカみたいな理由で断るわけないじゃありませんか」

「サヨさんの言う通りです。理由は別にあります。ルリさん、ちょっと失礼します」


 ムビがルリの胸元に手を伸ばす。

 ルリの顔が赤くなる。


「ちょっ、ちょっと……!何!?」


 ムビは、ルリの胸元に下げられた青い転移石を掴んだ。


「ギィッ!」


 転移石に、いつの間にか小さな蟲が付いていた。


「な……何っ!?こいつ!?」


 ムビは蟲を転移石から引き剥がす。


「魔蟲ですね。あの男、蟲使いのようです」


 ムビは体内の魔力回路を魔法ネットワークに接続し、蟲の正体を調べ始めた。


「起爆蟲……。小規模な爆発を起こす蟲ですね」

「なんでそんなものが!?」

「恐らく、転移石を破壊するためでしょう。徒党を組んで、目的を達成したあとに、裏切って脱落させるつもりだったのかもしれません」


 ルリは震えあがった。


「ひえっ……怖すぎ……。誰も信用できないわ……」

「ムビさん、よく気付きましたね」

「あの男の言っていることは、ほとんど本心だったみたいですが、ほんの少し嘘探知魔法に反応がありました。だから魔力探知をしたところ、ルリさんの体をよじ登っていた蟲を見つけたんです」

「い……いつの間に!?キモォッ……」

「話に気を引かせている間に、こっそり蟲を放ったのでしょうね。流石Aランク冒険者、油断なりませんね」

「もし気付かず仲間に入っていたら、転移石を割られて全員敗退していた、というわけですか……」

「そうですね。本当の負け組は、彼らと徒党を組んだパーティたちかもしれません」


 ムビ達は会場の外に出た。


「ムビ君、どうするの?」

「とりあえず、水と食料を買いましょう」

「えっ?でも、水と食料は買う意味無いって……」

「普通のサバイバルなら確かに自給自足でもなんとかなりますが、これは上位の冒険者達との戦いです。例えば水源で待ち伏せされたり、毒を混ぜられる可能性もあります。」

「えっ……えげつなぁ……」

「よくそんな発想出るね……」

「そうでしょうか?俺が毒使いなら、やりますけど」


 ムビは不思議そうな顔で『四星の絆』を見た。


「あとは地図があれば良いんですが、詳細な地図をこの短時間で手に入れるのは現実的ではありませんね。魔法ネットワークでエルバニア大森林の地図を調べましたが、詳細なものはありませんでした。地図は諦めましょう。それよりも、一番大事なのは転移石の守りです」

「転移石の守り?でも、首から下げろって……」

「それは止めた方がいいです。敵から簡単に狙われます。いざというときに割りやすく、敵からは狙われにくい隠し場所が必要です。小型の保存袋を複数買いましょう。それに食料と転移石を隠し持っておいたほうが安全です」

「なるほど、確かにそうだね!」

「手分けしましょうか。俺は保存袋を調達しに行くので、皆さんは食料をありったけ買ってきてください。20分後に、この入口に集合しましょう」


 ムビ達は散り散りになった。

 20分後、入口に再度集結した。


「ムビ君!水と食料、いっぱい買ってきたよ!ついでにハイポーションも追加で買ってきた!」

「俺も小型保存袋20個買ってきました。それから、プロテクトボールも10個買ってきました」


 プロテクトボールは、あらゆる衝撃に耐性のあるカプセルだ。


「まずは保存袋に転移石を入れて……」


 ムビは巾着のような小袋に転移石を入れた。


「これを、プロテクトボールに入れます。このプロテクトボールを保存袋に入れて、この保存袋を2個目のプロテクトボールに入れます。それをまた保存袋に入れて、その保存袋と水と食料とポーションは次の保存袋に入れて、最後にもう一回保存袋に入れて……完成です」


 見た目は巾着のような小袋に過ぎないが、実態は保存袋5個とプロテクトボール2個の重ね掛け。

 保存袋には軽量化魔法が掛けられているため、荷物の総重量は30キロだが、かなり軽く感じる。

 持ち運びの邪魔にならない、それでいてギッシリと荷物の詰まった、頑丈な収納袋の完成である。

『四星の絆』もムビを真似て自分の保存袋を作る。


「これで、ちょっとやそっとの衝撃でも転移石は壊れません。戦闘に集中できると思います」

「これは本当にありがたいですわ」


 ムビは時刻を確認した。


「そろそろ時間です。会場に戻りましょうか」

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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