第141話 S級冒険者選抜大会、開幕
一ヶ月後。
S級冒険者選抜大会・予選会場には、数千人の冒険者が集結していた。
どの冒険者も屈強な体躯をした、歴戦の強者を感じさせる風貌をしている。
その群衆の中に、ひときわ華のある存在———『四星の絆』の姿があった。
「うわぁ、どの冒険者も強そうだねぇ……」
「ムビさん、まだ来てないのかな……」
空には浮遊カメラが何台も飛び交い、冒険者たちの姿を次々と映し出していた。
そして放送開始時刻。
全国の茶の間に、熱狂の幕が開ける。
「さぁーついに始まります!32年ぶり!S級冒険者選抜大会です!実況は私イナヅマと、解説はおなじみセキさんです!セキさん、どうぞよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
「ご覧ください皆さん!3285人の冒険者が集まっています!!生き残るのは、この中からわずか一組のパーティのみ!優勝パーティには、リリス王女の専属パーティ、準王族の栄誉が与えられます!今大会の目玉となるパーティを紹介していきましょう!セキさん、どのパーティに注目していますか!?」
「まずは"決闘"のチャンピオン、『ドラゴンテール』でしょうな。自他ともに認める、最強の戦闘力を持ったパーティです。全員、臨界者。文句なしです」
「普段"決闘"で実況、解説をしている私たちとしては、『ドラゴンテール』の名前は外せませんね!」
「間違いなく優勝候補筆頭でしょうな。誰が『ドラゴンテール』を止めるのかが、今大会のポイントでしょう」
「『ドラゴンテール』が負けるところなど想像がつきませんが……。他に、どのようなパーティがいるのでしょうか?」
「注目するべきは、『ライオンハート』でしょう。このパーティは今大会用に急遽作られましたが、全員臨界者という破格の布陣です」
「やはり『ライオンハート』ですか!"コロシアム"で最強を誇る四天王で結成された、ドリームチームですね!」
「"コロシアム"を知らない方のために解説を。"コロシアム"は"決闘"と並ぶ、伝統ある闘技団体です。パーティ単位で戦う"決闘"に対し、1対1で戦うのが"コロシアム"。パーティとしての連携には難があると思われますが、1対1の戦いに引きずり込むことができれば、間違いなく最強でしょうな」
「"コロシアム"の刺客がどのような活躍をするのか!?大暴れに期待です!」
「同じく個の力、急造チームといえば、このチームを外すわけにはいかんでしょう。ミラ・ファンタジア率いる『ミラと仲間たち』です」
「なんか、適当なネーミングですね」
「全くもって理解に苦しむ。栄えある舞台を何だと思っているのか……。全員臨界者であるため注目していますが、そのようなふざけた態度で臨むようなら優勝など夢のまた夢でしょうな」
「とはいえ、絶対的カリスマ、ミラ・ファンタジアの所属するチームです!知名度は、全出場チームの中でもNo.1でしょう!」
「知名度で委縮するようなヤワな冒険者は、ここには一人もいませんよ。彼女は、目立つのが仕事なのでしょう?どこまで目立てるのか、注目しようじゃありませんか」
「しかし、同じく『Mtuber』といえば、『白銀の獅子』も外せませんね!」
「私は個人的に、『ドラゴンテール』を倒すとすれば、『白銀の獅子』なのではないかと思っています。今"冒険者ギルド"でも"決闘"でも、最も勢いがあるのが『白銀の獅子』です。この最高の舞台で、そのまま全てを持って行く可能性は大いにあります」
「今ご紹介いただいたのが、全員臨界者で構成される優勝候補ですね!他には、どのようなパーティがいるのでしょうか?」
「やはり『エヴァンジェリン』は要注目でしょう。アイドルパーティとして今年デビューして、あっという間にAランクにのし上がりました。話題性だけでなく、実力も本物です」
「まさに歌って踊れて戦うアイドル!No.1アイドルグループが、冒険者の頂点の座を掴むのか!?大会を彩る華としても期待大です!アイドルパーティといえば、元祖『四星の絆』も出場していますね!『白銀の獅子』に"決闘"で勝利したパーティです!」
「ああ、『エヴァンジェリン』にあっさり抜かれてしまったパーティですか?確かにそういう意味では注目に値しますが、あれは補助役のスキルによるところが大きかったです。今回は、そううまくはいきませんよ」
「というと?」
「どのパーティも、対人用の対策を万全にして臨みます。あのスキルは、ゼル選手の記者会見でネタが割れてしまいました。デバフ対策をすれば簡単に封じることができます」
「なるほど、ということはもうスキルは役に立たないと……?」
「その通り。そうなると、この大会のレベルには到底及ばないアイドル4人のパーティ。臨界者が一人いますが、所詮は非戦闘要員の動画編集者。予選突破も厳しいでしょうな。イカサマなしで、どれだけあがけるのか注目です」
「ありがとうございます!果たして、どのパーティが予選を突破するのか!?まもなく大会開始です!」
ユリ、シノ、ルリ、サヨはキョロキョロと周囲を見渡していた。
周囲の冒険者からの、冷たい視線を感じる。
鼻の下を伸ばした輩の視線も感じる。
半々といったところだろうか。
「やっぱり私達、嫌われてるみたいだねぇ」
「それにしても、あと数分で予選が始まってしまいますよ」
「ムビさん、まさか来ないなんてことは……」
そのとき、群衆の中から一人の少年が歩み寄ってきた。
「皆さん、お久しぶりです」
「ムビ君!来ないかと思ったよ!」
「ごめんなさい。受付は済ませていたんですけど、これだけ人が多いと見つけるのが大変で……」
ムビは苦笑しながら頭をかいた。
「ムビ君……なんか、たくましくなった?」
「あはは。修行したので、少しは強くなったと思いますよ」
「私たちもいっぱい修行したからね!他の冒険者たちには負けないよ!」
そのとき、会場にアナウンスが響いた。
「皆さん、大変長らくお待たせしました!これより——— S級冒険者選抜大会の予選を開始します!」




