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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第140話 薔薇は血を喰む

 昼下がり。

 ムビが修行に励んでいると、リリスがやって来た。


「ムビ様。お一人にしてしまい、申し訳ありません」

「ううん、大丈夫。王女様は忙しいもんね」

「昨日と一昨日は時間が取れましたが、普段は一日中予定が組まれておりまして。できるだけ時間を作って、ムビ様の修行のお手伝いをと思います」

「ありがとう。無理しないでね」

「ムビ様が優勝するためですもの」


 リリスは剣を手に取り、ムビと向き合った。


(今日、リンさんに決めた技、早速使うぞ……!)


 ムビは一気に距離を詰め、強烈な一閃を放つ———


 ———が、リリスはその剣を受け止め、螺旋を描くような動きで剣を弾き飛ばした。


「……ああっ!」


 ムビは悔しそうな声を上げた。


「今のは、縮地を使った奇襲ですか。起こりが読みやすく、縮地をするまでに若干のタメがあります。肩甲骨の可動域もまだ狭いですし、私の剣を弾くには闘気がまだまだ足りません」


 リンには通じた技が、リリスには全く通じなかった。

 そしてたった一撃で、ものすごくたくさんの指摘を受けた。


「あはは……。姉弟子には成功したのに……。やっぱり師匠はすごいや」

「姉弟子?」

「リンさんです。今日、少し立ち合い稽古をしてもらったんです」

「ふーん。そうなんですね。あの子が……」


 ---


「リリス様、失礼します」


 夕方。

 リンが紅茶を持ってリリスの部屋を訪れた。


「ありがとう」

「2時間も修行に付き合われていたんですね。大丈夫ですか?」

「大丈夫。仕事は何とか終わらせるから」


 リリスの机には書類が山積みになっていた。


「どうかご無理をなさらずに。お体を壊されては大変です」

「そうね。あなたの入れてくれた紅茶で回復するわ」


 リリスの細やかな気遣いに、リンは嬉しそうに微笑んだ。


「ところでリン。今朝、ムビ様と立ち会ったそうね」


 リンはピクリと反応する。


「申し訳ございません。リリス様のご友人に、無礼を働いてしまって……」

「いいのよ。で、結果はどうだったの?」


 リンは数秒間固まった。


「負けました……。正直、何をされたのかも分かりませんでした」

「あら、そうなの」


 リリスはクスリと笑った。


「気にする必要はないわ、リン。あなたは十分天才よ。ムビ様が特別なだけ」

「リリス様。私は、リリス様の修行にも耐え抜きました。リリス様には遠く及ばずとも、それなりの剣の技量はあると自負しています。修行初日でボロボロになったあんな男に、遅れをとった自分が許せません」

「やっぱりね。そんな風に思ってると思った」


 リリスは紅茶を一口飲み、口を開いた。


「単純なこと。あなたや他の騎士たちに課した修行とは、別メニューというだけ」

「べ……別メニュー……?」

「そう。仮にあなたがあの修行をしたら、恐らく死ぬわ」


 リンは言葉を失った。


「総合的な剣の技量、闘気の扱い方はまだあなたの方が上よ。でも、ムビ様とあなたには埋めようが無い程の大きなパラメータ差がある。今日の敗北は忘れていいわ。……でも、ムビ様は、とてつもない速度で剣の腕を上げている。恐らくあと数日もすれば、剣の技量でも敵わなくなると思うわ」

「……あの男は、何者なのですか……?」

「さぁね。だから、すごく興味があるの」


 リリスは窓の外を見た。

 修行に励むムビの姿を見て、嬉しそうに笑った。


 ---


 18時。

 ムビはヘトヘトになりながら修行を終えた。


(きょ……今日も体が限界……早く休めないと……)


 風呂に入り、夕食を済ませ、離れへ向かう。


「ムビ様」


 後ろから、呼び止められた。

 振り返ると、そこにいたのはリリスだった。


「ふふ。今日は私が不在でしたが、その様子なら変わらず鍛錬に励んだようですね」

「あはは……。早く上達したいから、手を抜いてる暇なんてないよ……」


 ムビは疲労と眠気でフラフラしていた。


「明日からは今日のように、少ししかお付き合いできないと思います。初日教えたことを、きちんと守ってくださいね」

「分かった……。まかせて……」

「ふふふ。では、あまり引き留めては悪いですね。おやすみなさい」

「おやすみ~……」


 ムビはフラフラした足取りで、離れの中へ入っていった。


「ふふ。ムビ様も頑張っているみたいですね。さて、私も、仕事に取り掛かるとしましょうか」


 ---


 部屋に戻ったリリスの前には、拘束された男がいた。


「ひいいいいっ!!」


 リリスの顔を見るなり、悲鳴を上げる。


「あらあら可哀そうに。何か怖いことでもあった?」


 そう言うなり、リリスは鞭で男を叩く。


「ぎゃああああああああっ!!」


 男の悲鳴が部屋に響き渡った。

 男の皮膚が剥がれ、血が流れる。


「はぁ。もういいわ。セバス、片付けておいて頂戴」

「かしこまりました、リリス様」


 リリスは男の血液を採取し、部屋を後にした。


 ---


 尋問官。

 齢16になったリリスに与えられた仕事の一つ。


 リリスは口を割らせるのが上手いと評判で、どうしても口を割らない強情な捕虜がいた場合、尋問を担当することになっていた。


 先程部屋にいた男は、帝国軍の捕虜。

 重要な情報を知っている可能性が高いと、リリスに尋問が任された。


(尋問というより、やっている内容は完全に拷問ですが……。それでも、他の変態拷問官と比べたら、だいぶ優しくしていますが)


 リリスは月明かりの中庭園を歩き、立ち止まった。

 目の前には、〈ヴェルノクの薔薇〉があった。

 採取した男の血液を、薔薇の根元に垂らす。


「さぁ、たんと吸って、大きくなぁれ」


 伝承で伝わる、〈ヴェルノクの薔薇〉の逸話。

 夜になると、吸った血の記憶が微かな囁きとなって風に乗る———。


 もちろん、そんな囁きなど聞こえない。

 ()()()()()()()


 血を吸った〈ヴェルノクの薔薇〉は、男の記憶を囁き始めた。


「ふむふむ。———へぇ、そうなの。教えてくれて、ありがとう」


 リリスは笑顔で自分の指先をナイフで切り、お礼とばかりに〈ヴェルノクの薔薇〉に血を与えた。


「さて。これで仕事は終わり」


 リリスは夜空を見上げる。

 見事な満月が浮かんでいた。


「こんなにも月が綺麗だと、たぎってしまうわ……」


 リリスは部屋に戻った。

 男の姿は既に無く、セバスチャンの姿もない。


 部屋の鍵を閉めると、鍵付きの引き出しを開けた。

 中には、厳重に封がされた禁書があった。

 〈ヴェルノクの薔薇〉に教えてもらった、王家に隠された禁書だった。


(久しぶりに、発散させてもらおうかしら)


 リリスは禁書を開くと、転移の魔法が発動した。


 リリスが転移した先は———未踏破ダンジョン、「無限迷宮」の深層だった。

 目の前には、巨大な狼の魔物がいた。


「禁忌指定……討伐推奨レベル320———フェンリルね」


「Grr……」


 フェンリルはリリスに気付くと、強大な口を開け、リリスに飛び掛かった。


 ザンッ!


 リリスはフェンリルの前足を両断した。


「キャインッ———!」


 大量の血液が噴き出し、雨となって滴り落ちた。


「———あはぁっ♡」


 強い魔物は好きだ———。

 体が大きいから。


 体の大きい魔物は好きだ———。

 血がいっぱい出るから。


 フェンリルは狂気の笑顔を浮かべたリリスに、何度も何度も斬られた。


「グギャアアアアアアアッ!」


 斬撃が30を超えたあたりで、フェンリルは断末魔の声を上げて息絶えた。


 リリスは血の海の中で、自分の体を抱き締めた。


(なんて温かい血!ああ、体が熱い———!全然、興奮が収まらない———!)


 リリスの脳裏にはムビが浮かんでいた。


(それもこれも、ムビ様のせい!修行でいっぱい傷つくから———!いっぱい血を流すから———!捕虜の男を拷問したぐらいじゃ、全然足りない!フェンリル一体じゃ、全然足りない!!)


 リリスは灼熱の衝動に駆られ、ダンジョンの奥へ突き進んでいく。

 魔物に遭遇する度に、周囲は血の地獄と化す。


(この血がもしも、ムビ様のものだったら———。だめ。だめだめだめ。想像してはだめ。そんなことは、許されない———)


 理性で抑え込めば抑え込むほど、本能がマグマのように溢れ出す。

 血を見るだけで、いとも簡単に狂える。


「グオオオオオッ!」


 大型の魔物の群れに遭遇した。


「いいよぉッ……きてぇぇッ♡♡♡」


 リリスは甘く蕩けた顔を浮かべながら、無我夢中で剣を振るった。

お読みいただきありがとうございます。


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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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