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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第139話 姉弟子

 翌朝、リンは離れへと足を運んだ。


 昨日の様子からして、今日あたりあの男は限界を迎えているはずだ。

 もしかすると、すでに逃げ出しているかもしれない。


 リリス様の修行は苛烈を極める。

 かつてリリス様と共に修行を試みた貴族や騎士たちは、一時間と持たなかった。

 中には腕に覚えのある臨界者もいたが、半日が限界だった。


 丸一日耐えただけでも、あの男が初めてだ。

 見かけによらず少しは根性があるようだが、すでに体は傷だらけだった。

 目立ちたがりの『Mtuber』風情が、これ以上耐えられるはずもない。


 そう思いながら離れに近付くと———


 ビュッ!ビュッ!


 昨日と同じ、風を切る音が耳に届いた。


 まさか———


 そこには、昨日と変わらぬ姿で剣を振るムビがいた。


「あっ、リンさん!おはようございます!」


 リンは唖然とした。


「ムビ様……お体は、大丈夫なのですか?」

「あはは、あちこち痛いし、めちゃくちゃ疲れてるけど、これくらいはへっちゃらです」


 へっちゃらだと……?

 リリス様の修行が……?


「それよりも、全然リリスに勝てなくて。もっともっと修行して強くならないと……」


 そう言ってムビは剣を振り続ける。


 ……この男、今何と言った?

 リリス様に勝つ……?


「恐れながら、ムビ様。リリス様は、齢12歳で王国騎士団長を打ち破った天才です。ここ数年は、苦戦すらしたことがありません。勝つというのは、とても不可能かと……」

「ははは。まぁ、少し前の俺ならそう思うんだけど。今は、充分なパラメータがあるからね。これで勝てないなら、単なる俺の努力不足だよ」


 そう言いながら剣を振るムビの太刀筋には迷いが無かった。


「パラメータを理由にそう思われるなら、なおさら気にする必要はありません。リリス様には、()()()()()()()()のです。一対一で、太刀打ちできる者はこの世におりません」


 ムビは剣を止めた。


「どういうこと?」

「通常、人間のレベルは100が上限となり、そこに到達した者は臨界者と呼ばれます。人間のパラメータ上昇はそこで止まり、それ以上のステータスを求める場合は、希少なステータス上昇アイテムを使用するか、バフを強化する以外に道はありません。しかし、どういうわけかリリス様にはそのレベル上限が無いのです。特殊なステータスウォッチを使い、レベル200に到達したことまでは判明していますが、それも3年前です。今は一体、どれだけの強さに到達しているのか、誰にも分かりません」

「うへぇ……なるほど、あの強さには、そういう理由があったのか。納得したよ」


 極一部の者しか知らない情報だ。

 たまにリリス様の強さを認めない馬鹿がいるが、これを聞かせると皆顔を青ざめていた。

 この男もそれを知れば、馬鹿な妄想を抱くのは止めるだろう。


「なら、なおさら負けてられないな。少しでも差を埋めないと」


 ムビはまた剣を振り始め、リンは驚いた。


「ムビ様……私の話を聞いていましたか?」

「聞いていたよ。でも、せっかくなら目標は大きい方がいいでしょう?それに、あの強さはパラメータだけのものじゃないよ。単純に、剣や体術の腕前がまるで違うんだ。だから、その差を埋められるうちは、頑張ってみようと思う」


 リンは、無性に苛立ちを覚えた。


 この男……。

『動画編集者』ごときが、リリス様の剣を語るだと……?

 誰よりもリリス様を見てきた、この私に……?


「———ムビ様。少し、手合わせをしませんか?」

「手合わせ?……って、俺とリンさんが、ですか!?」

「ええ。どうもムビ様は、ご自身の強さを勘違いされているようですので」

「えっと……でも、リンさんってメイドさんでしょ?やめておいた方が……」

「ご心配なく。私も、ムビ様と同じ臨界者ですから」


 ムビは驚いた。


「えっ!?リンさんって、臨界者だったんですか?」

「そうです。もちろん、経験値ブーストは一切使っていません。生粋の戦闘職なので、ご安心を。それに私も、リリス様から戦闘訓練を受けています」


 リンは近くの剣を手に取り、構えた。


 リリス様の修行に耐えたものは、ただの一人もいない———私を除いて。

 この男には、現実を教えてやる必要がある。

 リリス様と数日もいて、リリス様の強さも見抜けないゴミは、リリス様に近付く資格はない。


「ええっ!あの厳しい修行を耐えたんですか!?す……すごい……!それなら、俺の姉弟子ですね!それなら一つ、胸を借りさせていただきます!」


 ムビは目を輝かせ、ワクワクしながら剣を構えた。


「ええ。どこからでもどうぞ」


 たった一日の修行でボロボロになったお前と、耐え抜いた私とでは、格が違う。

 それを今から———


 ———ピィン


 ムビが剣を構えた瞬間、空気が張り詰めた。


 な……何だこの男?構えに隙が———


 カァンッ!


 ———えっ?


 ムビの一閃により、リンの剣は弾き飛ばされた。

 数メートル先で、剣が地面に落ちる音が響く。


 ———瞬間、リンの全身に戦慄が走り、冷や汗が噴き出した。


 この男———今、何をした?


 いつ私に近付いた?

 いつ剣を振った?

 何も……何も見えなかった……だと!?


「やったぁ!成功した!」


 ムビは飛び跳ねて喜んでいた。


「昨日習った動きを朝からずっと練習してて!ほら、リリスがよく使うやつです!縮地で距離を詰めて、肩甲骨と闘気を使った一閃で、相手の武器を弾き飛ばすって技です!」


 子どものように喜ぶムビは、リンの青ざめた顔に気づいていない。


「今の動き、どうでした?どの辺が改善ポイントでしたかね?」


 ———動きだと?そんなもの、まるで見えなかった……。


「ま……まぁまぁ、だったんじゃないですか……?」

「本当ですか?昨日全然修行について行けなくて落ち込んでたけど、リンさんにそう言われたら自信がつきました!ありがとうございます!」


 満面の笑顔を向けられ、リンの顔は赤く染まった。


「———ムビ様っ!本日はリリス様はお忙しく、修行を付けられないとのことです!手合わせの時間だけはなんとか作るとのことでしたが!朝食はいつもの場所ですが、お一人でお召し上がりください!以上です!」


 リンは早口で言い放つと、足早にその場を去った。

 ムビはぽかんとした表情で、ただその場に立ち尽くしていた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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