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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第137話 打撃の修行

 午前六時。

 朝靄が庭を包み込む中、メイドのリンは離れへと向かっていた。

 その足取りは静かだが、心はざわついていた。


 あのムビという少年。

 テレビやSNSで頻繁に見かけるが、耳にする評判は芳しくない。

 リリス様が、なぜあのような男を「友人」と呼ぶのか。

 理解できない。

 いや、理解したくない。


 リリスは孤高の存在だ。

 王族の中でも際立つ才覚を持ち、ゆえに孤立している。

 だが、誰にも媚びず、誰にも染まらないその在り方を、リンは深く尊敬していた。


 ようやく友人を持てたのは喜ばしいことだが、悪い虫がつくのは許せない。

 特に、リリス様はあの美貌の持ち主だ。

 リリス様に限って過ちは犯さないだろうが、もしも男にそういう目的があったなら———。


 リンは、太ももに忍ばせたナイフにそっと手を添えた。


 離れの近くに差しかかると、空気が揺れた。

 人の気配——いや、剣の気配。


 ビュッ!ビュッ!


 離れの庭で、ムビが剣を振っていた。

 朝靄を裂くような鋭い軌道。

 その姿に、リンは思わず息を呑んだ。


「あっ、リンさん!おはようございます」

「ムビ様……いつから鍛錬を?」

「いやいや、鍛錬ってほどじゃないです。教わったことを復習してて。4時に起きたから、ちょうど2時間くらいかな?」


 リンは言葉を失った。

 使用人の自分がまだ夢の中にいる時間から、彼は剣を振っていたのか———。


「ムビ様。朝食は七時からです。お着替えをお手伝いしましょうか?」

「えっ!? いやいや、王族じゃあるまいし! それより、お風呂って入れるかな? 汗かいちゃって」

「湯舟ですか?ええ、毎朝六時から入浴可能です」

「ほんと!? じゃあ急いで入ってくるね! 朝食の場所は昨日と同じ?」

「はい、そうですが……」

「ありがとう!七時には必ず行くから!」


 そう言って、ムビは風のように走り去った。


(速い……! 臨界者とはいえ、なんという走力……。なるほど、リリス様が関心を寄せるわけですね)


 ---


 ムビは朝風呂で汗を流し、七時ちょうどに朝食会場へと姿を現した。

 リリスと共に食事を済ませると、七時半には稽古が始まった。


「本日から、本格的な稽古を始めます。午前中は体術、午後は剣術を重点的に鍛えましょう」

「はい!よろしくお願いします!」

「では、まずは当身をお教えします。ムビ様、私を殴ってみてください」

「えっ……殴る!?いやいや、そんなことできないよ!」

「大丈夫です。遠慮なく、思い切り打ってください」

「無理だよ、女の子を殴るなんて……」


 リリスは少し考えるような仕草を見せた後、穏やかに言った。


「では、まずは一割の力で。軽くで構いません」

「ほ、ほんとに軽くだよ……?」


 ムビは、リリスの腹部に軽くパンチをした。


 ———!?


 リリスは微動だにせず、くすりと笑った。


「ね?大丈夫でしょう?さぁさぁ、少しずつ本気を出してください」


 ムビは徐々に力を込めて数発パンチを放ったが、リリスは平然と受け続けた。


(何だこの感触!?人を殴っている感じがしない……。まるで水袋を叩いているみたいだ……)


 5割……7割……8割……。

 ついにムビは、全力で拳を振るった。


 ボスッ!


 鈍い音とともに、リリスの身体が宙に浮く。

 だが、リリスは軽やかに着地し、まるでワインを味わうように拳の衝撃を吟味した。


「んー……なるほど。まぁまぁのパンチですね」


(嘘でしょ……!?デスストーカーでさえ吹っ飛ばせるのに……!?)


 ムビは言葉を失った。


「ムビ様のパンチ力は相当です。ただ、今の打ち方では衝撃が表面で散ってしまいます」


 リリスは手を頭上に掲げる。


「当て身の質を高めるには、“脱力”が重要です。このまま力を抜いて、自然に落とします」


 リリスの手が落下し、パンと音を立てて足に当たった。


「まずはこれが基本です。やってみてください」


 ムビは手を頭上に掲げ、そのまま落とす。

 落下した手は足に当たる。


「痛かったですか?」

「ううん、別に?」

「では、脱力ができていません。力が完全に抜けると、足が痛くなります。コピーしてみてください」


 リリスはもう一度同じ動きをやって見せる。

 ムビは今度はリリスの動きをトレースする。


(うわっ、全然手に力が入ってない!これが脱力……)


 頭上に掲げた手が、そのまま落ちてくる。


 パンッ


(いたっ……!?」


 足に鈍い痛みが走った。


「それが脱力の感覚です。ムビさん、腕を出してみてください」


 ムビは地面と水平に腕を突き出す。

 リリスは頭上から腕を振り下ろし、ムビの腕に当てる。


「例えば、こんな風に力任せに落としたって、痛くないんです」


(確かに、別に何ともない)


「それを、脱力して落とすと……」


 バチッ!


「いったあ!?」


 ムビは腕を押さえて飛び跳ねた。


「力は全く入れていません。ただ、腕を自然に落としただけです。体重をフルに乗せることができれば、腕の重さだけでも結構痛いんです。これを当て身に応用します」


 リリスは拳を握る。


「試しに右胸に、軽く1割くらいの力で打ちますね。左は心臓があって危ないので」

「お、おっけー……」

「いきますよ?」


 パァンッ!!


「うへぇっ!!?」


 ムビは数メートル吹き飛ばされ、膝をついた。

 胸の奥に残る衝撃が、じわじわと広がっていく。


「いかがですか?」

「こ……これ、本当に1割なの!?」

「はい。ほとんど力は使っていません。脱力すると、“闘気”も深く浸透するのです」


 確かに、胸の奥に“闘気”が残っていて、嫌な気持ち悪さが続いている。


「浸透系の打撃は、後から効いてきます。内臓を破壊し、後日相手を死に至らしめる技も存在します」

「だ……打撃って、思った以上に奥が深いんだね……」

「慣れれば、2~3割の力で、力任せの10割に匹敵する威力が出せるようになります。コピーはできましたか?今度は、私に打ってみてください」


 リリスは両腕を広げ、ムビに当て身を促した。


(俺も、こんなすごい打撃が打てるのか……?よーし、リリスには打撃が効かないし、遠慮なく打たせてもらおう!)


 ムビは構え、リリスの動きを完璧にトレースする。

 結果、リリスの右胸におもいっきり拳が当たった。


「きゃっ!?」


 リリスは胸を押さえた。

 ムビの顔が青ざめた。


「ご……ごめん!トレースしちゃったから、そのまま右胸に……!」

「い、いえ……。脂肪がある方が、衝撃は散らせますので……」


 腹を突いたときとは違う、柔らかい感触がムビの手に残っていた。


(なるほど……これだけ脂肪が厚いと、俺の打撃は全然浸透しなかったかも……)

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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