第131話 S級冒険者選抜大会
数分前。
ムビは、壇上に立つリリスの姿を見て、言葉を失っていた。
(アメリアの正体が、第六王女リリス様だったなんて……!)
知らなかったとはいえ、あれこれ失礼を働いてしまった気がする。
いや、思い返せば失礼のオンパレードだ。
呼び捨てにする。
パーティから連れ出す。
真剣で対峙する。
親切なくらいに分かりやすい、不敬罪のフルコース。
打ち首どころか、歴史に残る愚行かもしれない。
そんな中、王が壇上に『白銀の獅子』を呼び寄せる。
ゼルは拍手の嵐の中、満面の笑みで壇上へと歩み出る。
(あーあ、やっぱりこうなるのか……)
栄誉騎士顕彰典のときから予感していた。
ゼルの喜ぶ顔なんて、見たくもない。
(何がSランクパーティだ。馬鹿らしいや。あーあ、腹ごしらえでもしてる方がマシだよ)
ムビは半ば意地になって、壇上から目を逸らし、テーブルの料理に手を伸ばした。
周囲が驚いた顔をしていたが、構うものか。
どれだけ拍手が会場を包み込もうと、ムビは目の前の肉に集中した。
(……この肉めちゃくちゃ美味しいな。しかも、まだまだ余ってる。よし、せめてお腹いっぱいになって帰ろう)
調子に乗って皿に山盛りの肉を盛った瞬間、周囲の視線がムビに集まった。
(あれ……流石に、この量は目立ち過ぎたかな……?)
しかも、気のせいか、会場全体がこちらを見ている気がする。
(待てよ……冷静に考えると、王様の話を無視して料理を食べるって、不敬罪じゃないか……?)
恐る恐る壇上を見ると———王とリリスが、こちらを見ていた。
しかも、指を差している。
(あっ……これ多分、アウトだわ……)
ムビはフォークに刺した肉を宙に浮かせたまま、固まった。
「……あの男が、お前の専属パーティに適任だと申すのか?」
王は溜息をつきながら、頭を振った。
「リリス。お前はもっと賢い子だと思っていたのじゃがな。よいか、あの者はムビと言ってな。ギルドへの虚偽報告、ストーカー、性犯罪など黒い噂が絶えぬ男じゃ。おまけに、つい先日までCランク冒険者。実績も乏しい。どんな手段で臨界者に到達したのか……疑惑に塗れた不心得者よ」
「それは違います、お父様。彼こそが、デスストーカーを討伐した真の勇者。彼の力を借りてこそ、クローディア王家は更なる発展を望めます」
「それはあいつの妄言なのだ。お前は騙されているのじゃ」
「騙されているのは、お父様の方です」
親子の言葉は交わることなく、会場の空気は徐々に緊迫していく。
「余は絶対にあやつを認めぬ!ゆえにあやつがお前の専属パーティになることはない、あきらめろ!」
「私は、彼以外を専属パーティと認めるつもりはありません」
「……馬鹿な!よりによって、あんな男に執心するとは……」
王の怒りに対し、リリスは静かに微笑んだ。
「ふふ。きっと、そうおっしゃると思っていました。ならば、第二の規則に従うしかありませんね」
「第二の規則って……お前、まさか……」
「ええ。そのまさかです」
王は目を細め、リリスを見つめる。
「わざわざ手を煩わせおって。どの道、『白銀の獅子』がお前の専属パーティに選ばれるんじゃぞ?」
「私は、自分の目を信じております。彼なら、必ずや勝ち残るでしょう」
「ならば……選抜大会を開催する、ということでいいんじゃな?」
「ええ。期限は、あと数日しかありませんからね」
会場の貴族たちがざわめき始める。
「おい……今の話って……」
「ああ……S級冒険者選抜大会だ……!」
「数十年ぶりの開催じゃないか!?」
S級冒険者選抜大会。
通常、S級冒険者は王と王族の認可が下りた人物に与えられる称号だ。
しかし、欠員が出てから三ヶ月以内にどうしても決まらぬ場合は、S級冒険者選抜大会を開くことが法律で決められている。
「国民的行事じゃないか!?」
「国中のトップ冒険者達の……本気の戦いが見られるってことか!?」
「おい……局の者に伝え、放送枠を今すぐ確保するように伝えろ!」
会場にいたメディア関係者が慌ただしく動き始める。
過去には視聴率70%を記録したこともある、伝説の大会。
王は壇上から、再び声を張り上げた。
「皆の衆、聞いての通りじゃ!本来はリリスの専任冒険者発表の場であったが……仕方ない!レオニス・クローディアの名において、ここにS級冒険者選抜大会の開催を宣言する!」
会場は大歓声に包まれた。
「うちの家からS級を出すぞ!」
「ニックは今帝国だったな!?すぐに帰国させろ!」
「これはチャンスだ……!何をしても構わん。必ず優勝させるんだ!」
貴族たちはその場で作戦会議を始め、連絡を取り合い、熱気に包まれていく。
「詳細は追って公表する!それでは、これにてパーティはお開きじゃ!」
王と家臣、リリスは会場を後にした。
貴族達も大慌てで帰る者、そのまま話し込む者に別れた。
ムビは、不敬罪に問われなかったことに胸を撫でおろし、皿に盛った肉を速やかに食べた。




