第130話 指差す先に
リリスが壇上に上がると、会場は拍手喝采に包まれた。
先ほどの騒動は会場の隅で起きたため、王を含め多くの者は気づいていないようだった。
リリスは拍手に応えるように、壇上で軽く一礼する。
「リリスは現在、専属冒険者パーティを持たぬ。皆も知っての通り、王族特務の冒険者パーティとは、Sランクパーティ———すなわち、Aランクを凌駕する実力者のみが選ばれる、冒険者の頂点である。だが、そんな存在は国中を探しても滅多に見つからぬ。選定は難航を極めると思われたが……嬉しいことに、相応しい者たちが現れた!」
王が手を掲げると、会場に驚きの歓声が広がる。
「紹介しよう!『白銀の獅子』の諸君、前へ!」
拍手が再び沸き起こり、ゼルは歓喜のあまり破顔した。
(ははは……向こうから転がり込んできやがった!)
万雷の拍手の中、『白銀の獅子』の四人は壇上へ向かう。
全身に受ける貴族たちからの祝福……ゼルにとっては至福の時間だった。
少しでも長く味わえるよう、ゆっくりと壇上へ向かう。
王とリリスが待つ壇上に上ると、拍手はさらに大きくなった。
王は笑顔で手を差し伸べ、ゼルと握手を交わす。
「皆も知っておるじゃろう。『白銀の獅子』は、今最も勢いのある冒険者パーティじゃ!Aランククエスト10連続達成、全員が臨界者という構成、決闘では直近でAランクパーティに5連勝中!極めつけは『幽影鉱道』事件における禁忌指定モンスター『デスストーカー』の討伐!実績・実力ともに申し分ない!そして何より———彼らの人柄が素晴らしい!」
王はゼルに視線を向け、満面の笑みを浮かべる。
「特にリーダーのゼル君は、若くして騎士道の鑑のような人物じゃ!その誠実さが評価され、彼らの一挙手一投足に多くの者が注目しておる!」
ゼルは貴族たちの羨望の眼差しに包まれ、承認欲求の絶頂に達していた。
「これ程素晴らしい人材をなぜ放っておくことができようか?ゆえに余は直々に、王族特務冒険者として彼らを推薦する!なんなら勇者パーティとして、余の専属にしたいくらいじゃ!ワハハ!」
王の高笑いとともに、会場は再び拍手の嵐に包まれる。
ゼルは渾身のイケメンスマイルを浮かべていた。
「では、この場で契約の儀式を始めよう!『白銀の獅子』リーダー、ゼルよ!跪き、リリスの手に口付けをするのじゃ!」
ゼルはこれまで生きてきた中で、最高のイケメンオーラを纏い、リリスの前で跪いた。
「王女、リリス様。この身、あなたの剣となり、永遠の忠誠を誓います」
ゼルが口上を述べ、リリスの手を優しく引き寄せ———
パシッ
———振り払われた。
「汚い手で触らないでください」
会場は一瞬、静寂に包まれた。
ざわめきが広がる。
「な、何をしておるのじゃリリス!?ゼル君に失礼ではないか!?」
「お父様。確かSランクパーティ就任には規定がありましたよね。王と王族、両者の承認が条件だと。私は、この方々を私のパーティとは認めません」
王はリリスの言葉を聞いて狼狽えた。
ゼルも、氷水を浴びせられたような顔をしている。
「な、何を言っておるのじゃ!?専属パーティは必ず付ける決まりになっておる!余は親心で、最高のパーティをと思って……!」
「最高のパーティ?彼らがですか……。お父様。彼ら程、疑惑に満ちたパーティは他にいませんよ?」
「疑惑じゃと?彼らの一体どこに疑惑がある?」
「私、彼らについて調べました。『幽影鉱道』事件以前、彼らのレベルはせいぜい40台。しかし事件直後、彼らは全員レベル100であると公表しました」
「それがどうしたのじゃ!?デスストーカーを討伐したのじゃ、レベル100に到達して当然じゃろう?」
「どうやって到達するのですか?デスストーカーは一体しかいないのに」
えっ……と王は声を漏らした。
「どれだけ連携しようが、最後に討伐するのは一人。その一人が経験値を総取りする。ならば、誕生する臨界者は一人の筈です。残りの三人はどうやって臨界者になったのでしょう?」
リリスは笑みを浮かべた。
「答えは、経験値ブーストです。推定価格数百億にも及ぶ莫大な財宝が『幽影鉱道』から消えています。彼らが持ち帰ったのでしょう。その資金を使えば、四人の臨界者を誕生させることが可能です。同じやり方で臨界者になられたお父様なら……分かりますよね?」
経験値ブースト。
王族や貴族が捕えた魔物を戦闘せずに殺し、経験値を得る手法。
この会場にいるほとんどの者が、一度は経験している。
そして国の王たるレオニスは、莫大な税金を使って臨界者となった。
(こいつ……なんで、そんなことまで知ってるんだ……!?勘の良いムビですら知らないはずなのに……!?)
ゼルは驚きを通り越し、恐怖を感じていた。
「お前の言うことは、初めて聞くことばかりじゃ。とても納得できぬわい」
「お父様こそ、表層の情報を信じすぎです。いつも言っていますが、もう少し自分で調べ、考えるべきですよ」
王は歯噛みする。
「ええい!では一体、誰が適任だと言うのじゃ!?これ以上の人材は、国中を探しても見つからんのだぞ!?」
リリスは微笑みながら、ゆっくりと腕を上げる。
「いるではありませんか。臨界者なら、もう一人」
リリスが指差す先を、会場中の人々が振り返る。
そこには———肉料理で腹ごしらえをしている最中のムビがいた。




