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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第129話 激情

 ムビは差し出された手を握ることができずにいた。


 正直、とても嬉しい。

 だが、少女にとってそれが不利益になることは、火を見るよりも明らかだった。


 今、周囲の視線は、公爵の息子と踊っていたときとは一変していた。

 戸惑い、嫉妬、侮蔑———それらが混ざり合い、ムビと少女に突き刺さる。


「アメリア……嬉しいけど、今日はやめておいた方がいいよ。せっかく皆、君のことを見ているのに……」

「だからこそです。私はムビ様と踊りたいのです」


 数百人が集う会場で、少女だけがムビに温かな視線を向けていた。


 ムビが躊躇っていると、『栄誉騎士』の8人が少女に歩み寄る。


「リリス様!『栄誉騎士』と踊られるおつもりですか?よろしければ、私どもがお相手いたします!」


 主賓である騎士たちが跪き、手を差し伸べる光景は圧巻だった。

 女性たちから黄色い歓声が上がる。


(リリス……?何を言ってるんだ?この子の名前はアメリアだぞ……?)


「まぁ。皆様からのお誘い、とても光栄です。ですが、パーティもそろそろ終わりが近付いています。恐らくお相手は一人が限界でしょう。またの機会に、よろしくお願いします」


 8人の騎士たちは、えっ、と声を上げ、少女の顔を見上げた。


「恐れながら……この男は『四星の絆』に所属するムビです。リリス様も、一度は聞いたことがあるでしょう?世間を騒がせている、騎士の風上にもおけない人格不適合者です」

「左様。冒険者ギルドへの虚偽報告、ストーカー、性犯罪。栄誉騎士顕彰典の返事の遅れなど、不敬罪も適用されかけました」


『栄誉騎士』達の口からムビの悪評が、矢継ぎ早に発せられる。

 少女は微笑みながら『栄誉騎士』達の言葉を聞いていた。


「そうですか。お気遣いいただきありがとうございます。でも、私は気にしません」


 騎士達はポカンと口を開けていた。

 これだけ言えば、リリスが考えを改めると思っていたからだ。

 しかし、実際はどうだ。

 リリスはムビに変わらぬ視線を送っていた。


「私は、それらの話は全てデマであると考えます。皆様も、メディアやSNSの情報は慎重に判断されることをおすすめします」


『栄誉騎士』達は、少しムッとした表情をした。


「リリス様。それらの話は全て本当ですよ」


 少女に近付く一人の男がいた。

『白銀の獅子』———ゼルだ。


「あなたは?」

「申し遅れました。私は『白銀の獅子』、ゼルと申します。レベル100に到達したため、此度の栄誉騎士顕彰典に招待されました」


 ゼルは優雅な動きで頭を下げる。


「この男は私の元パーティメンバーでしたが、断言します。この男は口先だけの詐欺師です。パーティを抜ける前も抜けた後も、散々俺達の足を引っ張ってきました。執念深い男で、うちのリゼも性被害に遭っています。この男を信用すると、美しいリリス様も被害に遭われるかもしれません」

「あら?そうなんですか?」


 少女は微笑む。


「それは楽しみですね。ムビ様になら、ぜひ固執されてみたいものです」


 場がざわつく。

 ゼルの顔に驚きが走る。


「はは……。流石はリリス様、度量の広いお方ですね。しかし、周囲がそのように見るとは限りませんよ。それよりも、よろしければ僕と踊りませんか?」

「申し訳ありませんが、私はあなたとは踊りたくありません。ムビ様だから踊りたいのです」


 ゼルは笑顔を崩さなかったが、眉がピクピク動いていた。

 イライラしているときに顔に出るサインだ。


「次の機会があれば、ぜひ。さぁ、ムビ様……行きましょう」


 少女は笑顔を浮かべ、ムビの手を取り引っ張った。


「リリス様!」


『栄誉騎士』の一人が叫ぶ。


「お考え直しください!周囲の目があります!」


 少女は溜息をついた。


「ですから、私はそんなもの気にしないと……」

「『栄誉騎士』と踊りたいならば、我らが立派にお相手いたします!このような者と踊られては、リリス様の品格が疑われるだけですぞ!?」




 ———ピキッ




 テーブルのグラスに一斉にヒビが入った。


「私の品格が……疑われる、だと……?」


 周囲が、無数の針で刺すような空気に包まれる。


(これは……殺気!?)


 少女は騎士の顔面をつかんだ。


「ぐがあぁッ……!!?」


 騎士は振り解こうと少女の腕を掴むが、ビクともしない。


「舐めるなよ下郎。その程度で、私の品格が揺らぐと思っているのか?例えこの場でお前を八つ裂きにしたところで、私の品格が揺らぐことはない。試してみるか?」


 少女の手に力が入り、騎士の頭蓋が軋む。


「ぎゃああああっ!!!……お……お助けをッ……!!」

「そもそもお前はどうなんだ?王族に対するその言動———お前こそ不敬罪ではないのか?『栄誉騎士』に選ばれ、浮かれたか?刑の執行を待つまでもない。この場で、私が裁いてやろう」

「ひ……ひいいいいいっ……!」


 そのとき、ムビが少女の腕を掴んだ。


「やめてっ!ほんとに死んじゃう!」


 少女はムビの顔を見る。


「ムビ様……」


 冷静さを取り戻した少女は、騎士の顔から手を離した。


「ひいっ!ひいいいいいいいいっ!!」


 騎士は痛みのあまり、顔を抑えて床を転げ回った。

 他の『栄誉騎士』達も、先程までの威厳はどこへやら、少女の殺気に縮こまっていた。


「お優しいのですね、ムビ様は。こんなゴミを庇われるなんて」


 少女の睨みに、騎士たちは蛇に睨まれた蛙のように凍りついた。


「そもそも、何故お前達は『栄誉騎士』に選ばれたか理解しているのか?帝国に負け続け、報償を与える余裕がないからだ。従来の基準を引き下げ、大量の『栄誉騎士』を生み出し、少ない報酬で満足させる……。お前らはそれに気付かず、犬のように尻尾を振っていただけだ。その程度の慧眼しか持たぬお前達が、私に意見するだと……?身の程を弁えろ」

「はっ……ははぁーーーっ!」


 騎士達は頭を地面に擦り付けて平伏した。


(どうなってるんだ?明らかにアメリアがやり過ぎだと思うけど、騎士達のこの反応……。それに今、王族って聞こえたような……。アメリアは、子爵の娘じゃなかったのか……?)


 そのとき、王が壇上に上がり、会場全体に声をかけた。


「皆の集、今日のパーティは楽しんでもらえたじゃろうか?名残惜しいが、そろそろパーティを締めくくろうと思う。改めて、『栄誉騎士』の13名に拍手を送ってやってくれ!」


『栄誉騎士』に向け、会場中から拍手が送られた。

 そのうち7人は平伏し、1人は床で蹲っていたが。

 一部始終を見ていた者は気の毒な表情を浮かべ、今気付いた者は不思議そうに覗き込んでいた。


「さて、パーティはこれで終わりじゃが、最後に余から発表がある!我が自慢の第六王女、リリスの専属冒険者の後任についてじゃ!まずはリリス、壇上へ来るのじゃ!」


 王の呼びかけに、少女は壇上へと向かった。

 ムビは目を見開いた。


(えっ……!?そういえば思い出した……!確か、第六王女様の名前はリリス……。ちょっと待って、彼女はもしかして……リリス様!?)

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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