第128話 高嶺の花
二人はバルコニーの下まで静かに戻ってきた。
「ムビ様、別々に戻りましょう。一緒だと、少し目立ってしまうかもしれません」
「そうだね、そうしようか」
「では、先にお戻りください。すぐに私も続きます」
ムビは軽やかにバルコニーへ跳び上がり、グラスを手に会場へと戻った。
煌びやかな音楽が響き渡る中、人々は楽しげに踊り、笑い合っていた。
ムビは目立たないように元の席に戻った。
どうやら、特に怪しまれてはいないようだ。
数分後に、少女が会場に入ってくるのが見えた。
そのまま、まっすぐこっちに向かってくるので、ムビは焦った。
「ふふ。どうやらバレていないようですね」
「いや、いいの?会場でも一緒に居て……」
「大丈夫です。周りからは、今お話ししているようにしか見えませんから。それより、お腹が空きました。ご飯食べましょ」
ムビと少女は、料理を皿に盛り合わせて食べ始めた。
周囲がダンスに熱中する中、二人は食事をしながら談笑した。
さっきまで食欲の無かったムビだったが、少女と時間を共にしたおかげで、すっかり食欲が戻っていた。
──ヒソヒソ……
──ヒソヒソ……
周囲の視線が徐々に集まり始めていることに、ムビは気づいた。
少女は気にしていない様子だったが、ムビは少女のことが心配になった。
(俺なんかと一緒にいて、評判が落ちたら申し訳ない……)
「あの……アメリア、そろそろ別々になった方が……」
「あぁ、周りの目ですか?私は気にしないから大丈夫ですよ」
少女はニコッと笑みを浮かべた。
「ところでムビ様。よろしければ、私と踊りませんか?」
その言葉に、ムビは思わず料理を噴き出しそうになった。
「えっ!?いやいや、こういう社交の踊りは経験ないから……」
「でも、ムビ様にはモノマネ魔法があるでしょう?数分もあれば習得が可能だと思いますが」
「いやぁ……俺と踊ったら、君の評判が……」
「ふふ、心配してくれるんですね。優しいですね、ムビ様は」
その時、一人のハンサムな青年が近付いてきた。
「こちらにいらしたのですね。お探ししておりました。私はアルベリック・ド・ヴァルモン――ヴァルモン公爵の長男にございます。この夜の一曲を、もし許されるなら、ご一緒に踊らせていただけますか」
アルベリックは跪いて、少女に手を差し出す。
(公爵って……貴族の階級の中でもトップじゃん!やっぱりこの子、貴族の間でも有名なんだろうな……)
「あら、ちょうど良いところに。では、お願いします」
少女はアルベリックの手を取り、ムビに視線を向けた。
「ムビ様。モノマネ魔法の準備、よろしくお願いしますね」
そのまま二人は中央へと進み、踊り始めた。
少女の美しさは群を抜いており、ハンサムな青年との舞踏は会場の視線を一身に集めていた。
「王よ、リリス王女が踊られております」
家臣が王に話しかけた。
「おお、姿が見えないと思っていたが。一体どこへ行っていたのか」
「やはり、お美しいですね」
「当然だ。舞踏会ではいつも、最も注目を集めるからな。リリスを見に来ている貴族もいるくらいだ、ワハハ」
「お相手は、ヴァルモン公爵のご子息のようですな」
「なかなかお似合いじゃないか。だが、リリスの相手としてはまだまだ釣り合わんな。あの器量なら、帝国の王子でもなければ割に合わん」
『栄誉騎士』たちもリリスに目を奪われていた。
「おぉ、リリス様、やはりお美しい……」
「俺も、一応パーティの主役だし、踊りを申し込んでみようかな……」
「よせ、いくら『栄誉騎士』だろうと、お前では釣り合わんぞ」
「でも、こんな機会でもなければ、リリス様にお近づきになれるチャンスは無いぞ……」
「確かに……。よし、ダメ元でお誘いしてみるか」
ゼルはリゼと踊りながら、リリスに視線を送っていた。
(あれがリリス王女……。『白銀の獅子』が仕えることになる主君……。天上の美しさだな。どれ、この後挨拶に向かうか。俺の器量なら踊りに誘うのが礼儀だろうか?惚れさせることができれば……王族入りも夢じゃない。ククク……)
踊り始めてわずか数分で、リリスはパーティの中心となっていた。
人々はその美しさと優雅さに、ため息を漏らす。
様々な思惑が交わる中、ムビは料理を口に運びながら少女を応援していた。
(やっぱりすごく綺麗な子だな。物知りだし、剣術もすごいし、公爵家から求婚を申し込まれても全然不思議じゃない……。頑張っていい人見つけて、玉の輿になるんだよ……)
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踊りが終わり、少女はムビの元へと戻ってきた。
ムビは正直、このまま少女が別のテーブルに行くと思っていたので、少し嬉しかった。
「コピーはできましたか?」
「うん……一応、できたけど」
「では、次は私と踊りましょう」
少女は微笑みながら、ムビに手を差し伸べた。
その瞬間、会場中の視線が二人に注がれた。
(なんだあの冴えない男!?なぜ、リリス王女と親しげに……!?)
「王よ。リリス王女は、もしや『栄誉騎士』の肩書だけで判断し、何も知らずに近付いているのでは……」
「そのようだ。全く、所詮はまだ16歳だな。人を見抜く力がまだまだ不足しておる」
「おい……あいつは、我ら『栄誉騎士』の面汚しじゃないか?」
「リリス王女はきっと『栄誉騎士』と踊るおつもりで、あいつに話しかけたのだろう。我らがはせ参じて、正しい認識を与えねば」
(なんでムビの野郎がリリス王女と親し気なんだ?……あの野郎、調子に乗りやがって!リリス王女と懇意になるのは俺だ!)
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