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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第127話 庭園に咲く魔性

 ガンッ!

 ギンッ!

 ギィンッ!


 少女が繰り出す斬撃の雨を、ムビは受け続けた。


(これ……本気で殺しに来てない!?)


 少女の剣撃は止まらない。

 どころか、どんどん重く、どんどん速さが増していく。


「ちょ……っと待って!!」


 ムビはたまらず、少女を弾き飛ばした。

 しかし、少女は軽やかに着地する。


「ふふ。やりますねムビ様。並の臨界者ならとっくに首を飛ばしていますが、まだついてきますね」


(……首を飛ばす気だったの!?)


「じゃあ次は……少し本気で行きますね」


 少女の動きがさらに鋭くなる。

 剣撃は重く、軌道は複雑に絡み合い、まるで舞のようだった。


「こ……のぉッ!」


 ムビは思わず剣で反撃する。

 ———が、躱されると同時に足払いを喰らう。


「うわっ……!」


 バランスを崩したムビに、袈裟懸けの一撃が迫る。

 反射的に剣で受け止めようとする———


 ———だが。


 !?


 少女の剣が、ムビの剣をすり抜けた。


(やばっ!死ぬ———っ!!)


 バキィンッ!!


 ムビは少女の斬撃を、まともに顔面に受けた。

 だが、剣の方が砕け散った。


 ムビはそのまま尻もちをつき、荒く呼吸をした。

 何が起きたのか、ムビにも分からない。


「ふふ。普通なら即死の一撃なのですが……この剣では、ムビ様は切れないみたいですね」


 少女は折れた剣を見つめ、微笑む。


(……パ……パラメータが高くて良かったぁ……)


「ふふ……。流石ですね、ムビ様。どうやら相当のパラメータをお持ちで———」


 少女はムビの顔を見て、ピタリと動きを止めた。


(……?)


 ムビの頬に、切り傷ができていた。

 少女の視線は、ムビの頬を流れる血に釘付けだった。


「ああ……これ?大丈夫、へっちゃらだよ」


 ムビはゆっくりと立ち上がり、服に着いた草や落ち葉を払いのける。


「いやぁ、何なの今の?剣をすり抜けてびっくりしたよ!本当に死んだかと……アメリア?」


 少女は人形のように動かなくなった。

 ただ一点を———瞳を揺らしながら、ムビの頬に流れる血を見つめ続けている。


「ごめん、気になるよね?すぐに治して———」


 ムビが頬に手を当て、回復魔法を掛けようとした、その時。

 少女はムビの手首を掴み、ハンカチでムビの血を拭き始めた。


「ア……アメリア?」

「ごめんなさい、私としたことが。楽しくて、思わず力が入ってしまって」


 少女の手が震えている。

 余程、申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。


「ほんとに大丈夫!かすり傷だし!こんなの、魔法で一瞬で……」

「いえ、そういう訳にはいきません。私がしてしまったことなので」


 ムビの手首を握る少女の手に力が入る。

 女性のものとは思えぬ、凄い力だ。


 結局、血は綺麗に拭き取られ、ハンカチは赤く染まった。


「ごめんね、ハンカチを汚してしまって……」

「いえいえ、とんでもありません。剣の稽古は、これくらいにしておきましょうか」

「そうだね、とても勉強になったよ」


 ムビは何か、魔法を解除するような仕草をすると、少女がふと問いかける。


「……ムビ様。もしかして、モノマネ魔法の記録をしながら戦ってました?」

「ああ、うん。とても素晴らしい動きだったから、つい……。」

「ふふ。片手間で私の動きについてくるなんて、大したものです」

「やや、別に手を抜いてたわけじゃないからね!?」


 少女はニッコリと笑った。


「久しぶりに楽しかったです。ありがとうございました」

「俺の方こそ……ちょっと怖かったけど、楽しかったよ!たくさん教えてくれてありがとね!」

「それは良かったです。あぁそうだ、剣はそちらの方に立てかけておいてください」

「うん、分かった」


 ムビが後ろを向いた瞬間、少女は落ちていた剣の破片をサッと拾い上げた。

 そこには、わずかな血痕が残っていた。


 少女は口を開け、剣の破片を頭上に掲げる。


 ———ポトリ。


 血が一滴、少女の口の中に落ちた。

 その瞬間、少女は目を見開き———。


「ここでいいかな?」


 ムビが振り返ると、少女は折れた剣の破片を集めている最中だったようだ。


「えぇ、そこで大丈夫です。ありがとうございます」


 ---


 二人は庭園をまた歩き始めた。

 王都の庭園は広く、色とりどりの花が咲き誇っていた。

 少女は庭園の花にも詳しく、歩きながらムビに説明する。


「これは〈ルミエルの涙〉。夜にしか咲きません。昼の光では、花弁が透けてしまって見えなくなるんです。伝承では、星の巫女が最後に流した涙が地に落ちて、この花になったと言われています」

「そうなんだ、とても綺麗だね」


 ムビは少女の説明を聞きながら、花への認識を改めた。

 本当に綺麗な花は、宝石に負けない程美しい。


 この庭園でなければお目にかかれない花を次々に紹介され、ムビは少女の説明に夢中になる。


 ふと、少女は座り込んで花を見つめる。


「その花はなんていうの?」

「〈ヴェルノクの薔薇〉といいます。私が、一番好きな花です」


 一輪の薔薇が咲いていた。

 少女が言うだけあり、これまで見たどの花よりも美しかった。


「かつて、千年戦争の終焉を告げた『赤の夜』に、最後の王が自らの命を捧げて封印した魔神の血が、大地に染み込みました。その地に、翌朝ひとつだけ咲いていた花が〈ヴェルノクの薔薇〉です」

「なにそれ……すごい謂れだね」

「ふふ。あくまで伝承ですけどね」


 少女は花弁を優しく撫でる。


「この花は、血を吸うことでしか咲かないんです」

「えっ、そうなの!?」

「はい。だから、〈ヴェルノクの薔薇〉は『語らぬ墓標』とも呼ばれ、戦場跡や処刑台の傍にひっそりと咲くことがあるんです。夜になると、吸った血の記憶が微かな囁きとなって風に乗り、聞く者の夢に入り込む、という話もあるんですよ」


 不気味な話だが、何故か花の美しさがより一層増したような気がした。

 花弁は深紅から漆黒へとグラデーションを描き、中心には金色の脈が走る。

 見る者の魂を奪うのではないか、と思える程の美しさだ。


「こんなに綺麗な花なのに、一輪しか咲いていないんだね」

「そうですね。この花は、第六王女様が植えたものなんです」


(第六王女。確か、若くして才能あふれる方だと聞いたことがある。名前はなんだったっけな……)


「王家の庭園に〈ヴェルノクの薔薇〉を植えることは、かつて禁忌とされていました。なぜなら、王の血を吸った花が咲いた時、王家の秘密が暴かれると信じられていたからです」

「これはまた、凄い伝承だね……」

「ええ。ですが、花好きの第六王女様がどうしてもと頼み込み、一輪だけ植えられたのです」


(これだけ美しい花なら、確かに自分の庭園に植えたい気持ちも分かるなぁ)


「でも、血しか吸わないって本当なのかな?」

「どうなんでしょうね。でも、本当だったらいけないので———」


 少女は自分の指を噛み、指先から血を滴らせた。


「こうやって、ときどき血をあげるんです」


 ポタポタと、薔薇の根元に血が滴った。

 ごく自然な少女の様子に、ムビは驚いた。


「い……痛くないの?」

「ええ。すぐ治りますから」


 少女は微笑みながら、治癒魔法を発動する。

 指先の傷は瞬く間に塞がり、血の痕すら残らなかった。


「〈ヴェルノクの薔薇〉は、吸った命の記憶を花弁に刻むと言われています。だから、この美しい花には、私のことを覚えていて欲しいなって思うんです。伝承通り、いつか微かな囁きを風に乗せ、誰かに届けてくれたらいいなって……」


 少女は愛おしそうに花を見つめている。

 少女自身も、この花に負けず劣らず美しい。

 蝶よ花よと愛でられ、輝かしい人生を歩んでいるように見えるが、そこは貴族。

 きっと、誰にも言えない悩みや、内に秘めた思いがあるのだろう。


「ムビ様はどう思いますか。この花、やっぱり不気味でしょうか」


 少女はムビを見上げる。

 ムビは少女の隣に腰を下ろし、薔薇を見つめる。


「折角だから、俺のことも覚えてもらおうかな」


 そう言って、頬についた血を指で拭い、根元に数滴垂らした。

 少女は目を見開いた。


「ちょっと怖いけど、こんな花もあっていいんじゃないかな。それにとっても綺麗だし、俺は好きだよ」


 少女はムビを見つめ、クスリと笑った。


「この花も、ムビ様のことを覚えたと思いますよ」

「本当かな?伝承通り、誰かに教えて欲しいなー。世間で言われてることが嘘で、俺は潔白ってこと」

「ふふ。大丈夫です。ムビ様の想いは、きっと誰かに伝わると思います」


 そのとき、鐘の音が庭園に響いた。


 ゴーン ゴーン


 時計塔の針は、九時を指していた。


「やばっ、もうこんな時間!?パーティ終わっちゃう!」

「あら。急いで会場に戻らなければ」


 鐘の音が鳴り響く中、二人は急いでパーティ会場へ戻った。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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