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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第125話 パーティを抜け出して

「先ほどから、遠巻きにムビ様を拝見しておりましたが……ずっとお一人なのですか?」

「はい。なかなか声を掛けられなくて……ははは……」


 会場に集う貴族たちの多くは、レオニス王のようにテレビの報道を鵜呑みにしているのだろう。

 肩書きと建前を重んじる彼らにとって、「ムビと親しく話している」と見られるだけでも、十分なリスクだ。

『栄誉騎士』は他にも十二人いる。わざわざ火中の栗を拾う必要など、誰も感じていない。


「ふふ……。退屈なパーティでしょう?」

「えっ、そんなことは……」

「顔に書いてありますよ。私も、ちょうど退屈していたところです」


 少女がふわりと笑う。


 その仕草も、表情も———どこか艶やかで、愛嬌がある。

 ただ会話を交わすだけで、勘違いしてしまう男は少なくないだろう。


「建前と上辺だけの会話。純粋な友好関係に見せかけて、腹の中は欲でいっぱい。こうも見え透いていると、退屈で欠伸が出そうです」


 若いのに、随分と達観している。

 だが、ムビは少しだけ共感してしまった。


「ははは……。俺も、こういうのはちょっと苦手で……」

「ふふ。気が合いますね」


 またしても、男心を惑わせるような笑み。


「ねぇ———一緒に、パーティを抜け出しませんか?」

「えっ……」


 ムビは戸惑った。


「でも、王様が『栄誉騎士』のために開いてくださった場だし……」

「大丈夫です。少し抜けるくらいなら誰も気付きません。パーティはまだまだ長いですよ?気分転換に、外の空気でも吸いに行きませんか?」


 ムビは反射的に断ろうとしたが、ふと冷静になり周囲を見渡す。


 誰もムビに話そうとする者はいない。

 このままここにいようが外に行こうが、何も変わらないだろう。


「そうですね。少し、外に行きましょうか」


 少女は、満足げに微笑んだ。


 ---


 二人はグラスを手に、バルコニーへと向かった。

 夜風が心地よく、煌びやかな光が背後のガラス越しに二人を照らす。


 手すりに寄りかかり、少女はグラスを一口飲む。


「ムビ様は、おいくつなんですか?」

「俺は18です」

「あら、そうなんですね。私は16です。私の方が年下ですし、敬語は外してくださって構いませんよ?」

「えっ……そう、かな……?」


 少女がニコリと笑う。


「そうですよムビ様。気軽にお話いただける方が、私も嬉しいです」


 少女が上目遣いでムビを見つめる。

 年下のいとこがいたらこんな感じだろうか、とムビは思った。


 まぁ……年下だし、別にいいよな?


「分かったよ、アメリア。普通に喋るね」

「ふふっ。ムビ様は、どんな功績で『栄誉騎士』に選ばれたんですか?」

「臨界者になったから、みたい。他には特に理由はないよ」

「そんなことありませんよ。私、知ってるんですよ?ムビ様、色々と世間で噂されることが多いじゃないですか」


 うっ……。

 今日一日で蓄積されたトラウマが……。


「私、ムビ様にずっと聞いてみたかったんです。実際のところ、あれらの噂はどうなんですか?」

「あはは……。まぁ、俺もあちこちで言われてるのは知ってるから、とても信じてもらえないと思うけど……」


 卑屈に笑うムビの手を、少女はそっと握った。


「信じますわ。ムビ様がお話してくださるなら、全て信じます。だから、私にムビ様のことを、話して聞かせてください」


 柔らかな指の感触。

 誘うような瞳。


 ……この子は本当に、将来魔性の女になるな。


「分かった。その代わり、ちゃんと信じてくれよ?」


 ---


 それからムビは、これまでのことを話した。


『白銀の獅子』時代のこと。

『四星の絆』のこと。

『幽影鉱道』のこと。

『両面宿儺』のこと。

 記者会見や『エヴァンジェリン』、ライブでの出来事。

 そして、今日の控室や玉座の間での出来事。


 少女はとても聞き上手で、ムビも自然と話すことができた。

 話に熱中し続け、気付けば1時間が経過していた。


「ごめんね、俺ばっかり喋っちゃって」

「いえいえ。とても興味深い話でした。私、人との会話がこんなに楽しいのは久しぶりです」


 少女はグラスの最後の一口を飲み干し、空になった器をそっと手すりに置いた。


「ムビさんは、素敵な人ですね」


 少女のつぶやきに、ムビは心臓が跳ねた。


「えっ!?……いやいや、全然そんなことないよ!?」

「そんなことありますよ。『四星の絆』の皆さんが、どれだけ大切に想われているか分かります。後ろにいる、他の騎士様が声高におっしゃる『命を賭ける』という言葉の、どれだけ薄っぺらいことか」


 風が少女の髪を柔らかく揺らし、甘い香りがムビの鼻腔をくすぐる。

 少女は手すりに寄りかかり、王城の庭園を物憂げに見つめる。


「人間、どれだけ口では言っても、本当の本当は、その場を迎えなければ分かりません。命を賭けたこともない人間が命を賭ける大切さを説く———所詮、騎士道はプロパガンダに過ぎません。命を惜しむ人間が、他者の命を捨てさせるための、ね」


 ムビは静かに感心した。


(若いのに、難しいことを考えるんだな……)


 だが、今の彼には、その言葉が痛いほど響いた。


「ははは。せめて大事な人のために戦いたいものだね」

「そうですね。大切でないもののために力を尽くす———これ以上の不幸はありませんから」


 アメリアはひらりと身を翻し、手すりに腰かけた。

 その姿は、夜の風景に溶け込むように儚く、美しかった。


「ムビ様。よろしければ、庭園をお散歩しませんか?」

「庭園ですか?でも、流石に表に出るときバレる気が———」


 ムビが言い終わらないうちに、少女は手すりの向こうへ落ちた。


「危ないっ!」


 ムビは手を伸ばすが、間に合わなかった。


 しかし、少女はクルクルと宙返りをしながら、綺麗に地面に着地した。


「ほら。ムビ様も早く」


 ムビはあっけにとられていた。


(この子……一体何者なんだ?)

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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