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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第124話 孤独な祝宴

「そなたがムビか?なぜ招待状の返事をすぐに出さなかった?」


 他の十二名への朗らかな祝辞とは打って変わり、王の声は冷たく、威圧的だった。


(まずい……機嫌を損ねてる……!)


 ムビの背中に冷たい汗が流れる。


「も……申し訳ありません」

「それにお前、随分評判が悪いな?討伐虚偽報告、ストーキング、性犯罪だと?何か申し開きはあるか?」


(王様、テレビの情報を鵜呑みにしてる……!)


「お……恐れながら申し上げます……。それらの情報は、すべて誤りで……」

「何?……貴様、余が虚偽の情報に踊らされていると言いたいのか?」

「い……いえっ!滅相もありません!」


 八方塞がりの状況に、ムビは言葉を失った。


「ならば神に誓って正直に申せ。禁忌指定モンスター、デスストーカーを討伐したというのは本当か?」

「ほ……本当です!神に誓って!」


 ムビは王の目を真っ直ぐに見つめた。

 王はしばし沈黙し―――そして、ふいに笑顔を浮かべた。


「そうか!本当か!デスストーカーの討伐など、前代未聞じゃ!よくやったぞ!」


 王はムビの肩をポンポンと叩く。


(よかった……信じてもらえたみたいだ……)


 ムビは胸を撫で下ろした。


「よし。その強さを見込んで、お前は最前線行き決定じゃ。獅子奮迅の働きを期待しておるぞ」

「えっ!?」


 ムビは目を見開いた。


「お……お待ちください王様!私にはやるべき事が……」

「なんじゃ?余の決定に、何か不服でもあるのか?」


 王の鋭い視線に、ムビは言葉を飲み込んだ。


「困ったのう。余の決定に逆らった者は、例外なく不敬罪なんじゃが……。お前、どちらがいい?」


 思考を巡らせるも、打開策は見つからず―――


「いえ……何でもありません」


 ムビの返答に、王はまた笑顔を浮かべる。


「そうか?余の聞き間違いだったかな?これは失敬!ワハハハ!……では、明日から帝国軍との戦いに備えるがよい」


 ムビは震えながら剣を受け取った。

 背後から、騎士達のクスクスという笑い声が聞こえる。


「ではこれにて栄誉騎士顕彰典は終了である!この後は、諸君らを祝うためのパーティを予定しておる!存分に楽しんでくれ!はっはっは!」


 ---


 城内の大広間では、煌びやかな祝宴が始まっていた。

 シャンデリアが輝き、豪勢な料理が並ぶ。

 数百人の貴族や資産家が集い、華やかな笑い声が響く。


 その隅のテーブルに、ムビは一人ぽつんと座っていた。


(はぁ……一体どうすれば……)


 生気のない目で、ムビは天井を見つめる。

 目の前に広がる煌びやかな現実など目に入らない。

 頭の中は、これからのことで頭がいっぱいである。


(俺、死ぬのかな……。俺がいなくなったら、『四星の絆』はどうなるんだろう……)


 ぽつんと一人で座るムビを見て、人々はクスクスと笑っていた。


(そりゃそうだよね。明らかに場違いだもん)


 他の『栄誉騎士』たちは、常に貴族たちに囲まれ、にこやかに談笑していた。

 パーティが始まって1時間が経過したが、ムビに話しかける者はまだ現れない。

 同席の人々も、さっさと席を立ってしまった。


(ここにいる人全部、皇族や貴族なんだ……)


 いかにも身分が高そうな衣装やドレス。

 しぐさや表情から溢れ出る気品。

 宝石のような美男美女。

 皆、貴族の中でもかなり地位の高い家柄なのだろう。


(すごく偉い人たちなんだろうなぁ。王様以外顔が分からないけど)


 ムビはようやく料理を一口食べた。

 とても美味しい。

 しかし、刑の執行が決まった死刑囚のように、どうしようもない虚しさが残る。


 戦争か……。


 コップを握る手に力が入る。


 こうなったら……なんとしても生き残るしかない。


 思えば、戦闘スキルをほとんど習得していない。

 徴兵されるまでどれだけ時間があるだろうか?

 それまでの時間、可能な限り戦闘スキルを身に着けるしかない。


 戦場では何が重宝されるだろうか。

 ムビの戦闘スタイルは、魔法全振り型だ。

 恐らく最前線では長くもたないだろう。

 MPが切れたらどうにもならない。

 MPの温存を考えると、近接戦闘スキルが必須だ。


 となると、体術か、剣術か?


 魔法も見直す必要がある。


 もっと攻撃的な魔法……。

 強力な防御魔法……効率の良い回復魔法。

 広範囲の探知魔法を……。


 華やかな会場で、ムビだけが、遠くの戦場に思いを馳せていた。


 そのとき、ふっ―――と甘い香りがした。


「もし」


 透き通るような少女の声が聞こえた。

 我に返ったムビが横を見ると、清麗可憐な少女が笑顔を浮かべていた。


 肩まで伸びる滑らかな黒髪が、両サイドで輪を作るように束ねられている。

 上品な顔立ちながら、小悪魔のような瞳に艶やかな唇。


 あまりの美しさに、時が止まるかと思った。

 普段『四星の絆』を見慣れているムビでさえこれ程の衝撃を受けるのだから、他の男なら声を掛けられただけで一目惚れするだろう。

 美男美女が多く集まるこの会場でも、恐らくこの少女に並ぶ者はいないだろう。


 年齢は、自分より少し下だろうか。

 年下には面倒見の良いムビは、ギリギリで理性を保つ。


「『栄誉騎士』のムビ様ですよね。お初にお目にかかります。私、テオドール・ヴァン・クロード子爵の娘、アメリア・ヴァン・クロードと申します」


 少女は優雅に頭を下げる。


「あ……これはどうもご丁寧に……」


 ムビも慌てて頭を下げる。


(貴族の娘さんか……。俺に一体何の用だろう)

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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