第122話 栄誉騎士
「うぅ……一体どうすれば……」
「もう。ほんとに後先考えないんだから……」
ムビが頭を抱えているのを見て、シノは深いため息をついた。
「『白銀の獅子』や『エヴァンジェリン』くらい、やっても良いのかもしれませんわね」
『白銀の獅子』は、幽影鉱道の事件以来、破竹の勢いで活躍中だ。
この半年でAランク依頼を10連続成功。その記録は、クローディア王国の全Aランク冒険者の中で、ミラに次ぐ第2位という快挙だった。
さらに、全員が臨界者という特異な構成が話題となり、世間からの注目度も急上昇。
バラエティ番組やCMに引っ張りだこで、企業のスポンサー契約も次々と成立。
登録者500万超の『Mtube』、アパレルブランドとのコラボ、物販も絶好調。
今や“国民的冒険者チーム”とも言える存在だ。
一方、『エヴァンジェリン』はライブ演出に魔法を導入し、さらに熱狂的な支持を集めていた。
「うちらのパクリじゃん!」と『四星の絆』は頬を膨らませていたが……。
さらに、『四星の絆』をマネてなのか……『Mtube』に冒険者チャンネルを追加した。
『エヴァンジェリン』の四天王がパーティを組み、週に2~3度冒険に挑んでいた。
しかも、これがかなり強い。
なんとデビューしてからわずか三ヶ月でBランク入りを果たしていた。
「『エヴァンジェリン』は、なぜあんなに強いんでしょうね?」
ウィンナーを頬張りながらシノが呟いた。
「恐らくですが、元々レベルが高かったのではないかと」
「えっ?でも、『エヴァンジェリン』は冒険者じゃなかったんだよ?」
「はい。ですが、以前ライブのパフォーマンスを見て感じたのですが、明らかに一般人の身のこなしではありませんでした。恐らく、なんらかの手段でレベルを上げていたのだと思います」
例えば王族や貴族、大企業の役員など、資産家たちは戦闘経験が無いにも関わらず冒険者並のレベルを有している場合がある。
これは、莫大な費用を支払い瀕死の魔物を用意し、トドメを刺して経験値を稼ぐためだ。
別名『経験値ドーピング』とも呼ばれる。
「なるほど……。確かにレベルを上げておけば、日々のレッスンや過酷なスケジュールにも耐えられるし、パフォーマンスも飛躍的に上がる……」
「それが『エヴァンジェリン』のパフォーマンス力の秘密だったわけね」
「私たちは偶然その価値に気づいたけど、エヴァンジェリンは戦略的に導入してたってことか」
同じくレベルの上がった『四星の絆』だからこそ、実感を持って納得できるのだろう。
そういう世界があると知らなければ、ただ『才能が違う』、と結論付けても仕方がない。
「僕の見立てですが、『エヴァンジェリン』はどのメンバーもレベル40~50はあるような気がします。パーティを組んでる四天王は、多分レベル80以上……」
「ふえーっ!?なにそれもうギルドじゃん!」
「そりゃ三ヶ月でBランクいけるわ……」
「でも、戦闘を見ましたが、あながちレベルが高いだけではなさそうですわね」
「そうですね。4人とも連携が取れているし、近接戦闘も魔法も冒険者と比べて遜色ありませんでした。ひょっとしたら、戦闘訓練も受けていたのかもしれませんね」
新たに作られた『エヴァンジェリン』の冒険者チャンネルは元々の知名度もあり、チャンネル登録者数は『四星の絆』をあっという間に抜き去り400万を超えていた。
パーティランクも抜かれたことで、アイドル兼冒険者という『四星の絆』の唯一無二のアイデンティティと、そのNo.1の座が奪われた形だ。
それゆえ、ライブを終えてからの三ヶ月間、王都でのアイドル活動に集中していた『四星の絆』は、ようやく仕事が落ち着いたタイミングで、『パーティランクで負けてなるものか!』と冒険者活動を再開したのだった。
「ライバルたちは手強いですわね……」
「なーに、心配いらないさ♪私たちにはムビ君がついてるから♪」
ユリが楽観的な口調で、『頼んだよ?』とばかりにムビにウィンクした。
「まぁライバルたちも大変ですけど、まずは借金が問題ですね……」
「ははは……。でも俺的には、借金よりもこっちの方が問題です」
ムビは一枚の紙を取り出した。
「それは?」
「栄誉騎士顕彰典の招待状です」
「栄誉騎士顕彰典って、あの……!?ムビ君、『栄誉騎士』に選ばれたってこと!?」
「はい……。臨界者になると、推薦されるらしくて……」
「ということは、王宮に呼ばれるってこと!?凄いじゃん!!」
ユリが目を輝かせて興奮していた。
「私のお父さんやおじいちゃんも騎士なんだけど、『栄誉騎士』は当代最高の騎士と認められた証なんだって!曾おじいちゃんが貰ったらしいんだけど、そのときは遠縁の親戚まで大騒ぎになったって!」
「そ……そうなんですか……?」
「私の家も、凄く昔のご先祖様が、一度だけ貰ったことがあるらしいのですが、その方の代で家は最盛期を迎え、現在の家格の礎となったと伝えられています」
シノも緊張した面持ちで語り始めた。
「うちは魔法の家系だから騎士家系とは相容れないことが多いんだけど、『栄誉騎士』にだけは頭が上がらないって言ってたなぁ」
「私も同じく魔法の家系ですが、社交パーティで『栄誉騎士』の方を見かけたことがありますわ。公爵様と同じくらいの扱いを受けていましたわね」
ルリとサヨも話に加わる。
(そういえば皆、貴族の出だったな)
『栄誉騎士』の凄さは、四人の方がムビよりも余程理解しているらしい。
「そんなに凄いんですね、『栄誉騎士』って……」
「そうなんだよぉ。だからうちのお父さんが知ったら、きっとムビ君をお婿さんにって言うと思う」
「あっ、確かにそれは言いそう……!」
「でも俺……借金3000億ですよ?」
「あっ、やっぱりないかも……」
ムビは肩を落とした。
「それはともかく、色々調べたのですが、一般人である俺が『栄誉騎士』を授与する場合、強制的に騎士団に入団させられるか、お抱えの冒険者になる必要があるみたいなんです」
「えっ!?そうなの!?」
「ムビ君いなくなっちゃうってこと!?そんなのダメだよ!」
「お抱えになるだけならまだしも……最悪、戦地に飛ばされる可能性がありますわね」
「ムビ君が……戦地!?」
ルリは雷に打たれたような顔をした。
「騎士団入りするならあり得ます。しかも近年、クローディア王国は帝国に負け続けていますわ。強力な援軍として、臨界者が派兵される可能性は十分にあると思いますわ」
「俺も、戦地なんて嫌です。だから、まだ出欠の手紙を返してないんですよね。できれば、お断りしたいのですが……」
「しかし、王からの誘いを蔑ろにすると、不敬罪になるかもしれませんわ」
(不敬罪……。国外追放、あるいは最悪の場合、死刑の可能性も……。うーん、どうしたものか……)




