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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第3章 プロローグ

 王都の城内。

 王の間にて、国王レオニス・クローディアは家臣の報告を聞いていた。


「して、今年の栄誉騎士顕彰典の参加者は?」

「はっ。王国騎士団の中から8名、一般から5名です。」

「一般から5名?臨界者が5名も誕生したというのか?」


 栄誉騎士顕彰典。

 年に一度、城内で行われる式典だ。

 その年に著しい成果を上げた騎士たちが招待され、『栄誉騎士』の称号が王から与えられる。

『栄誉騎士』はニュースでも大々的に放送され、国民的英雄として認知される。


『栄誉騎士』に選ばれる条件は二つ。

 王国騎士として目覚ましい成果を上げること。

 または、レベル100の臨界者に到達すること。

 一般人は後者でのみ『栄誉騎士』の対象となる。


 だが、臨界者として呼ばれるケースは稀だ。

 国内全体で、年に一人現れるかどうかである。

 それほど臨界者というのは稀な存在で、もし到達すれば一生涯国宝として扱われる。


 それが、今年は5人も現れたのだ。

 こんなことは過去に例がない。


「素晴らしいことだ。我がクローディア王国も、軍事力において他国に一歩リードできるというもの」


 一般人で臨界者になった者は、多くの場合騎士団に入団するか、王族特務の冒険者に迎えられるケースが多い。

 王族特務の冒険者は一般ギルドの依頼を受注できなくなるが、その代わり、専属で王族の誰かに召し抱えられ、その王族の依頼をこなすことになる。


 自由ではなくなるが、報酬は一般ギルドとは桁違いだ。

 もちろん、冒険者の実力もAランクを上回る。

 ゆえに、非公式ではあるものの、王族特務の冒険者はSランク冒険者と呼ばれる。


「5人の内訳は?」

「はい。まず特筆すべきは、ゼル、リゼ、ゴリ、マリーの4名です。全員まだ若く、『白銀の獅子』というパーティに所属しています」

「ほっ!?パーティ全員で臨界者になったというのか!?それは誠に素晴らしい、稀有な事例じゃ。ならば既に、Sランク並みの実力があるということじゃな」

「そのようです。近日の実績を見る限り、Sランクとして申し分ない実力があると思われます」

「ほほ。ならば、()()の後釜も決まったようなものか」


 王は満足そうに髭を撫でた。


「もう一人ですが、ムビという少年です。彼は『白銀の獅子』の元メンバーです」

「『白銀の獅子』から軒並み臨界者が現れたということか。余程、リーダーが優秀と見えるな」

「彼は現在『四星の絆』という冒険者兼アイドルグループに所属しております」

「アイドルとな?なぜそのようなところに臨界者が?奇異なことよ……」


 ここで家臣は少し眉を顰める。


「ただ、この少年から、式典への参加の知らせがまだ届いておらず……」

「なに?」

「不敬ですな。栄誉騎士顕彰典をなんと心得ているのか……。SNSでも炎上することが多く、性犯罪者の可能性も指摘されています」

「ふむ。臨界者といえど、人格まで備わっているとは限らない……か。まぁよい。その少年は騎士団にでも入ってもらおう。人格に問題があれば、最前線にでも送ればよかろう。いずれにせよ、その少年も必ず参加させるのだ」

「はっ!仰せのままに」


 家臣は頭を下げた。


「それからもう一つ。帝国との戦争はどうなっておる?」

「はっ。前線の兵士たちが勇猛果敢に戦果をあげ続けておりますが、いかんせん激しい戦闘ゆえ、戦力の不足は否めない状況です」

「ふむ……。では、ムビとかいう少年を送ろう。臨界者が一人加われば、かなりの戦力になるはずじゃ」

「はっ!流石は陛下、見事な采配であります」

「去年は負け戦が続いたからな。ここらで、我がクローディアの鉄槌を下さねばなるまいて」


 王の目は野心に満ちていた。


「他に報告事項は?」

「最後に一つ。リリス王女専任のSランク冒険者の新任の件です」

「その件だがな、余は選抜試験を行うまでもなく、『白銀の獅子』を推薦してよいのではないかと思っておる。またネズミに入られては敵わんからな。リリスにそのように伝えてくれ」

「はっ!かしこまりました」

「それから、新しい法案と予算案について、あやつの意見を聞いてきてくれ」

「新しく導入される税については、いかがいたしましょう?」

「それは聞かなくて良い。あやつは税の導入には口うるさいからの。全く、戦力の補強と将来世代のためには税は必要だというのに」


 ---


 家臣はリリスの部屋へ向かっていた。

 足取りは重く、表情は暗い。


(正直、いくら報告のためとはいえ、あの化物のところには行きたくない……)


 第六王女リリス。

 齢16にして、彼女を形容する言葉には暇がない。


 容姿端麗。頭脳明晰。博識多才。炯眼独歩。


 天香国色の美しさは他国からも評判で、王族の式典では必ずメディアから切り抜かれる。

 国民人気も非常に高く、その才気煥発ぶりから次期国王に推す声も少なくない。


 だが、近しい者は、彼女のことをこう呼ぶ。


 血と情欲の魔神。ヘマトフィリア傾向者(歪んだ性欲の持ち主)


 数か月前、事件があった。

 リリスの専属Sランクパーティが、全員殺されたのだ。

 パーティは4人とも、人類の頂点、レベル100の臨界者だった。


 公には戦死扱いになっているが、側近たちは知っている。

 殺したのはリリスであると。


 全滅したSランクパーティの返り血で全身を染めながら、笑顔を浮かべるリリスを、城内の者が何人も目撃している。


 後日、そのSランクパーティが全員、『両面宿儺』のスパイであることが判明した。

 証拠資料を準備したのはリリスだった。


 齢16の年端も行かぬ娘が、一体どうやって気付いたのだ?

 それに、どうやって臨界者4人を1人で殺したのだ?

 そんなことが、人間に可能なのか―――?


 家臣はリリスの部屋の前に着いた。

 ゴクリと喉を鳴らす。

 意を決して、扉に手を伸ばし




「ぎゃああああああああああああああっ!!!」




 部屋の中から、男性の絶叫が聞こえた。

 あまりの衝撃に、家臣は目を見開く。

 体中の産毛が総毛立ち、瞬時に滝のような冷や汗をかいた。


 ノックする直前の状態で、扉の前で石造のように固まっていると、部屋の中から何やら聞こえ始めた。

 少女の声だ。

 聞き取れはしないが、絶えずヒソヒソと何かを話している。

 それに混じり、時折男のすすり泣く声が聞こえる。


 ―――もし、何か一つ間違えれば、私もこうなる―――


 家臣は恐怖で体の震えが止まらなかったが、意を決して扉をノックした。


 部屋の中から、囁きが止まった。


 数秒後、扉が開かれた。


「あら。何か用ですか?」


 中から現れたのは、羞花閉月の美少女だった。

 肩まで伸びる滑らかな黒髪が、両サイドで輪を作るように束ねられている。


「あの……報告書を、持って、参りましたっ……」


 家臣は、自身が発する一言一句に命がけだった。

 他の王族には、基本的に口頭で報告するが、この化物と何分も話すなんてとてもじゃないができない。

 故に家臣は、リリスに対しては毎回報告書を作成して提出していた。


「まぁ。いつも丁寧に、報告書にまとめてくださってありがとう。折角だから、お茶でもしていきませんか?」


 家臣は心臓が縮み上がった。


「———い、いえ!私、急ぎの業務がありますので!では……これにて!」


 家臣は素早く頭を下げ、逃げるようにその場を離れた。

 家臣の後ろ姿を見ながら、リリスはクスっと笑った。


 リリスは扉を閉め、部屋に戻った。

 部屋の中は整頓され、豪華絢爛な装飾が施されているのに、どこか暗く、陰湿な雰囲気が漂っていた。

 そして、この場におよそ不釣り合いなもの―――拘束された、血まみれの男性の姿があった。


「あらあら、お父様ったら。またこんな穴だらけの法案をお作りになって」


 リリスはテーブルに座り、報告書に目を通す。

 すすり泣く声が部屋に響いていたが、リリスはまるでクラシック愛好家のように優雅に振る舞っていた。


「あら。臨界者が5人も?お父様はお喜びになられたでしょうね。『両面宿儺』の潜入を防ぐため、信頼のおける4名———『白銀の獅子』のゼル、リゼ、ゴリ、マリーを新任のSランク冒険者に推薦する……ですか」


 リリスはクスッと笑った。


「本当にお父様は見る目がない」


 だから、あの家臣のような者を―――『()()宿()()()()()()()()()()()()()()()()


 拘束された男が大きなうめき声をあげ、苦痛にのた打ち回り始めた。

 リリスは、まるでクーラーの温度を確認するような気軽さで一瞥する。


「ちょっとうるさいなぁ。()()()()()()()、する?」


 男の体がビクッと震え、静止した。

 再び、すすり泣く声だけが部屋に響き始めた。


「……で、人格に問題のある、残り一人の臨界者を最前線に送る……ですか」


 リリスの手元には、ムビの顔写真があった。

 リリスはじぃっとムビの報告書に目を通し―――クスリと笑った。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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